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甦るフランク・ロイド・ライト(21)David Wright邸

<あらすじ>
65年の時を経て、フランク・ロイド・ライトが、もし現代に甦ったら何を語るか、というエッセイ集です。今回(第21話)は、螺旋住宅のDavid Wright邸を解説してもらいます。

David and Gladys Wright House


David and Gladys Wright House
Frank Lloyd Wright
1950 - 1953
Phoenix, Arizona S.322

前回は、円形住宅Sol Freidman邸をご紹介した。
半円住宅は、正円平面によって完結した。

さて、私の空間に完結などない。つねに成長し、発散しなければならない。
正円プランからの進化形が、今回ご紹介する螺旋プランである。

私の螺旋住宅は、David Wright邸のみである。
息子(3男)の住宅で、自由に設計できた理想の住空間だ。81歳のときの作品である。

今回は、David Wright邸の紹介はもちろん、
私のSpiralについても、詳しくご説明しよう。

Spiral

私には、Spiral(螺旋)の空間イメージがある。
なぜこのようなイメージをもっているか。
ヒントは、自然の中にある。貝や植物を観察してみると、すぐに見つかる。
私は、自然の法則に従って、Spiralの空間イメージを成長させた。

我々の生活にとって意義深く、このように幅広く調和のとれたその秘密を学びとろうとするには、大自然から教わるよりほかに方法はないのだ。

この可愛らしい家(貝殻)を見てごらん、きっと貝の中の天才が設計したに違いない・・・?これらはみんな住宅なのだ。それぞれに皆「自然の建築」なのだ。

ライトの生涯 オルギヴァンナ・L・ライト著
遠藤楽訳 彰国社
巻き貝はSpiral
植物もSpiral
みんなSpiral

私の建築の骨子である「空間の連続性」と「構造の造形性」は、Spiralという空間形式を求めた。

・・・

Gordon Strong Automobile Objective
Frank Lloyd Wright 1924
Sugarloaf Mountain, Maryland, Unbuilt Project
私の初めての螺旋プロジェクト
5回転螺旋

Spiral空間を一番最初に試みたのは、Gordon Strong Automobile Objectiveになる。(上図)
車でぐるぐる回ってアプローチするプラネタリウムである。
帝国ホテルと同時期の計画だが、5回転の螺旋は、奇しくもグッゲンハイムと同じじゃ。
そしてその後、V. C. Morris Gift ShopHoffman Auto Showroomといった商業施設で、螺旋空間を実現させる。

V. C. Morris Gift Shop
Frank Lloyd Wright 1948
140 Maiden Ln San Francisco, CA S.310
1回転螺旋
Hoffman Auto Showroom
Frank Lloyd Wright 1954
New York, New York.S.380
1回転螺旋

そして、世界で一番有名な螺旋空間は、
グッゲンハイム美術館だろう。(下図)

Solomon R. Guggenheim Museum
Frank Lloyd Wright 1943-1956
(New York, New York).
私の最後の螺旋プロジェクト
5回転螺旋

完成した時期からすると、モリス商会→デイビット邸→グッゲンハイム美術館と段階を経て、
進化したと思うかもしれない。
ただ、グッゲンハイム美術館の設計は1943年(私75歳)のときスタートしており、
これらの作品は、すべてグッゲンハイム美術館の設計時に産出されたものと捉えた方が正しい。

私のすべての螺旋作品は、グッゲンハイムから生まれた。

・・・

How to Live in the Southwest"

Spiral空間の名作David Wright邸がどのように誕生したかご説明しよう。

「南西部での住まい方」概念図(左)
実にわかりやすく描けた

David Wright邸の主題は、南西部でどのように住まうかということであった。
これは以前紹介したタリアセン・ウェストと同様のテーマである。
砂漠で力強く、心地よく住まう方法の試行だ。

カメルバック山を望む柑橘類の果樹園に囲まれた敷地にあり、生活の場であるメインフロアを2階に配置することで、2つの利点が得られた。

David and Gladys Wright House
Frank Lloyd Wright 1950 - 1953
Phoenix, Arizona S.322
グラウンドレベル平面図

1つ目は、山並みを背景にした果樹園の素晴らしい眺めを獲得できた。
2つ目は、1階に覆いのある庭をつくることができ、この土地固有の涼しい風を夏場に楽しむことができた。砂漠の大地は、灼熱じゃ。

立面図 断面図
中庭は砂漠のオアシス

平面プランは円形にし、なだらかな傾斜の庭からエントランスへ入る。
リビングにはダイニングのためのスペースが備わり、円形の平面プランのなかでも広い面積を占める。寝室は弓形にそって配置されている。

砂漠の大地は過酷だ。本来であれば、できるだけ住環境から分断したいし、そもそもあまり住みたいくない。ただ、いくら過酷だからといって完全に大地と切断してしまうと、建築の本来性を失ってしまう。
この克服のため、連続しながらも3次元的に展開可能なSpiralという空間形式は、ものの見事に、この問題を解決してみせた。

2階平面図とリビング
断面詳細図
キッチン詳細図

・・・

Le Corbusier's Five Points of Architecture

さて、David Wright邸と同様に2階にメイン機能をもつ住宅として、コルビジェのサヴォア邸(1928~1931)がある。
時系列としては、サヴォア邸が先行するが、
コルビジェと私との対比が面白いので下記でその比較を示す。

こう整理すると、同じピロティ住宅にも関わらず、嫌味ったらしく対立構造をつくっている。

たまにコルビジェと私とを、サヴォワ邸VS落水荘の比較で論ぜられることがあるが、
正しくは上記対比で論ずることが好ましい。

コルビジェの作品を
私は「ただの箱」と痛烈に批判していた

David Wright邸は、近代建築の五原則に対する、私なりのアンサー作品とも捉えられる。
空間の連続性」に追従する「構造の造形性」の実現が、これからの近代建築に不可欠だと考え、
コルビジェの五原則を徹底的に批判した。

David and Gladys Wright House
Frank Lloyd Wright 1950 - 1953
Phoenix, Arizona S.322

・・・

David Wright邸をもって、円形住宅は一旦まとまりを得た。
次回は、紹介しきれていない後期の円形作品に触れておく。
こうご期待じゃ!

V. C. Morris Gift Shop
Frank Lloyd Wright 1948-1950
140 Maiden Ln San Francisco, CA S.310

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