とはいえ、ご飯は食べたい。3話
食べれば食べるほど喜ばれる。むしろ食べないと失礼とも思える、年に1回のイベントがやってきた。
『誕生日』だ。
食べて喜ばれ、喜ばれるから食べる。それの繰り返しが誕生日だ。ダイエットをしてるからとはいえ、抑制して食べようなんてものは失礼だ。今年はありがたいことに、友達も、TEAMMATEのメンバーも、わざわざ日程を調整して祝ってくれようとしている。
家族も例外ではない。親父、母ちゃんが地元のお寿司屋さんで私の誕生日を祝ってくれるという。私の地元は生まれてからずっと変わっていない。そこのお寿司屋さんも変わらずずっとある。
何かお祝い事があると、よくそのお寿司屋さんでお寿司を食べた。成人式の日も初任給が入った日もここでお祝いをした。
このお寿司屋さんは、家族経営で親子2人でお寿司を握っている。最近は若大将の息子も大きくなり、手伝っている姿もよく目にする。
小さい時から知っている、大好きなお寿司屋さんだ。
私たち家族が行くタイミングは混んでる日が多い。この日も混んでいたが、親父が事前に予約をしていてくれたため、カウンター席に座ることができた。
今日は既に10,000歩を歩き終えている、準備万端だ。
早速、壁にかかったメニューを見ながら、何を注文しようか考えた。
「なんでも好きなの食べなね」私が注文をする前に、3回ほど、母ちゃんがこのセリフを言ってきた。
一見すると、母ちゃんの優しさに聞こえるが、実は裏がある。と言うのも、母ちゃんは注文をするのが苦手なのだ。つまり私が先に注文をしたのに便乗して注文をしようと言う姑息な考えの持ち主なのである。それゆえに、「なんでも好きなの食べなね」(早く注文してね)と言ってくる。私も私で、注文をする前に、3回もこのセリフを言われる理由がある。私も注文が苦手なのだ。小さい時から来ているお寿司屋さんだが、未だに注文に慣れない。
最近は、どこもかしこもこのような人間のために生まれたといっても過言ではない、タブレットでの注文。会話をしないでも、自分のタイミングで、自分の意思で注文をすることができる。
一方、今日の注文は口頭。大将の会話のタイミングを見計らいながら、大将の忙しさを見計らいながら注文をするという、私にとってかなり難易度の高い注文なのである。
私と母ちゃんはなかなか注文できず、ただ親父が頼んだ瓶ビールを飲みながら、大将とメニューと先に置かれたガリとにらめっこをしていた。
その姿を見て、「お寿司屋さん、面白いでしょう。全部タイミングなんだから営業と一緒だよ。会話のタイミング。頼むよ、28歳。」と親父がいじってくる。
親父は注文をするのに全く抵抗がない。親父が注文するタイミングで便乗すれば良いのだが、これがまた親父の注文が俊敏すぎて気づいたときにはもう大将は近くにいない。
さすがにお寿司も食べたいし、母ちゃんの4回目の「なんでも好きなの食べなね」が繰り出されそうだったので、勇気を振り絞って注文をした。母ちゃんは私の注文ですら俊敏に感じたのか、結局このターンは頼めずに終わった。
親父と母ちゃんの間では、食べ物の取引が度々行われる。2人は私の両隣に座っているため、私の目の前で交渉が始まる。親父は、刺身に埋れていた大葉を見つけ、「ママ、大葉あったよ。大葉食べる?」と私の目の前で皿を出し、大葉の取引が行われた。
一方、母親は頼んだ納豆の中に、苦手ないくらが入っていたため、「パパ、いくらあげるよ」と私の目の前でお皿を出し、納豆のついたイクラの取引が行われた。取引後、お互いのお皿とお皿の間に伸びた納豆のねばねばが私の目の前に落ちたため、私は食べ物取引禁止という重い処罰を下した。
どこの誰が言ったかは知らないが、よく「寿司屋の力量は玉子でわかる」と言われる。ここのお寿司屋さんの玉子も非常においしい。私が玉子を注文したのを見て、親父と母ちゃんも玉子を注文した。親父は普段料理をしないが、料理の味付けに対してはよくものを言う。この玉子も例外ではない。1口食べて「ほんとここの玉子微妙だよね」と若大将がいる前でイカれた感想を述べた。今までおいしいおいしいと食べていたのに、ここに来て批判を始めたのだ。私は聞き間違いかもしれないと思い「今なんて言った?」と念のため聞き返した。「いや、ほんとにここの玉子は、甘さも出汁の効きもほんとに微妙なバランスだよね」と笑顔で話した。親父の表情を見るにおそらく「絶妙」のことを「微妙」と言っている。親父よ、勘弁しておくれ。
確かに、絶妙に似ている2つの漢字だが、内容が内容なだけに、微妙な空気が流れた。
寿司屋で1番悩む時間が来た。それは『最後何で締める』かだ。お腹も結構いっぱいで、あと少しだけ胃袋に入る状態。この空間に最後何を詰め込むか。終わりよければ全てよしという言葉があるが、お寿司の最後の締めくくりも非常に重要である。この締まり具合によって、今日1日の幸せの量が変わると言っても過言ではない。
親父はいつも最後に中トロを食べる。母ちゃんはどれを頼もうか迷いながらお寿司を食べている間にお腹いっぱいになる。さて、最後に何を頼もうか。そう考えていた時、親父の最後の中トロの1個手前に頼んだかっぱ巻きが出された。それを見ていると、あっさりしたものが食べたくなり、私は最後にかっぱ巻きと味噌汁を注文した。
最後に、『お米』と『海苔』と『きゅうり』と『味噌汁』。日本人らしい良い締めくくりだ。
時間が経って、味噌汁が先に来た。今日の味噌汁はしじみだ。しじみのだしがいっぱい効いたあったかい味噌汁が胃に染み渡る。これと一緒に早くかっぱ巻が食べたい。
ところが、5分以上経ってもかっぱ巻が出てこない。さらに、目の前にいる若大将は「お孫さん、まだ野球やってるんですか?」と世間話をし始めた。私のかっぱ巻は忘れられている。そう確信した。
味噌汁をかっぱ巻きにとっておこうと少しずつ飲んでいたが、さすがに残りわずか。時間も経っていたため、胃袋の空間がだんだん詰まってきてしまった。
注文をするのが苦手な私は「大将、かっぱ巻きまだですか?」という勇気ある発言をできるわけもなく、こうなったら、かっぱ巻きはあきらめて、味噌汁で最後締めようと思い、味噌汁を飲み干した。
飲み干した後、「あれ、かっぱ巻き来てないよね」と親父が気づいてきた。今の今まで「ほら注文しなよ」と言ってきた親父だったが、ここに来て何の優しさだか「すいません、かっぱ巻き作ってますか」と若大将に話した。
若大将は大将に「かっぱ巻き作ってる?」と聞いた。大将は「注文入ってないよ」と答えた。「いや、入れたよ」「いや入ってないよ」と、軽い小競り合いが始まった。大将の目の前にいた客は「目の前で注文したって入ってない時あるんだから、ぎゃはははは」と大声で笑い始めた。
私のかっぱ巻きで、こんなに大事になるとは。
そうして出てきたかっぱ巻きは、いつもよりわさびが効いていた気がした。
(おばた)
現在(2月1日2:00)の体重:76.80kg
体脂肪率:23.1%
体年齢:38才
「とはいえ、ご飯も食べたい。」 Instagram
⚪︎地元のお寿司屋さん
初花鮨
特別な日に行けるお寿司やさん。どれも本当に美味しく、いろんな種類が食べたくなる。
親父のオススメ:気分盛り(お刺身)、初花納豆、中トロ
母ちゃんのオススメ:高菜トロ
私のオススメ:なんでも美味いが玉子はぜひ食べて
⚪︎今週の写真
今週の写真より。
⚪︎「秒で作れて、永遠食える明太サワークリーム」
※分量は目分量
明太子:2腹くらい
サワークリーム:90ml
明太子の薄皮を取る。
ボウルにサワークリームと1を入れ、滑らかになるまで混ぜる。
器に盛り付け完成。
ご飯を楽しむ。
サワークリーム:中沢サワークリーム(90ml)
⚪︎「秒で作れて、永遠食えるクリームチーズアボカドディップ」
※分量は目分量
A クリームチーズ:50g 線が会ってわかりやすい
アボカド:1個
A レモン:1/8個
A 塩:お好み
A ブラックペッパー粗挽き:お好み
アボカドの皮とタネをとる。
ボウルに1とAを入れ、滑らかになるまで混ぜる。
器に盛り付け完成。
ご飯を楽しむ。
クリームチーズ:雪印メグミルククリームチーズ 200g
クラッカー:ルヴァンクラシカルノントッピングソルト
ディップの塩気が強いので、ノントッピングソルトがオススメ。