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#4-1 コミュニケーション設計のキモ、「リーチ」の原理とは?

マーケティングアナトミー®は、組織での運用を前提としたBOX流「経営とマーケティングの統合解剖学」です。幅広い層の方にお読みいただけるよう、実務よりも敢えてかなり細かく書かれています。予めご了承ください。
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こんにちは、BOXの阿部です。

前回から少し(3ヶ月w)間が空いてしまったこのマーケティングアナトミー®連載、今回から6要素のうちIMC(統合マーケティングコミュニケーション)について書いていきます。

※ちなみにマーケティングアナトミー®、無事に商標が取得できましたので今日から®です!マーケティングアナトミー®!マーケティングアナトミー®!

マーケティングアナトミー®の6要素(再掲)

コミュニケーション設計:どこで、どれくらい、どう情報を伝えるか

IMC(統合マーケティングコミュニケーション)はその名の通り、顧客をはじめとするステークホルダーと自社とのコミュニケーションについての概念です。IMCはマーケティングアナトミー®の6要素の中でも最下流に位置づけられており、全社戦略、事業戦略、バリュープロポジション、マーケティング計画、What to Sayを経て、それらの情報を「どこで」「どのくらい」「どうやって」伝えるのかを設計して実行するステップです。

パッケージ、店頭、WEBサイト、接客、車両、PR、広告・・・あらゆるタッチポイントを駆使してあなたのブランドやプロダクトの情報を伝えていくのみならず、これら多種多様なタッチポイントを横断して、統一したイメージやメッセージ(What to sayで規定)を伝えていく設計作業です。

マーケティングアナトミー®的には、いわゆる広告のクリエイティブプランニングはこのIMCの一貫として位置づけています。クリエイティブは「どうやって」伝えるかの強度を上げる作業であるため、です。もちろん異論は認めます!

コミュニケーション設計のキモ:リーチとは?

さて、IMCで最も重要な概念が「リーチ」です。リーチとは、情報の接触単位のことで、単位は「のべ接触回数」が一般的です。あなたが電車で1回ポスターを見かけたら1リーチ。TVCMを1回見かけても1リーチ。コンビニの店頭で気になる商品のパッケージに目が止まっても1リーチです。

特にデジタルマーケティングの世界では、厳密には上記の概念は「インプレッション」が用いられ、リーチは回数ではなく「●回以上広告を見かけた人数」で定義されることが多いですが、定義を揃えてこの記事を進めるため、ここでは便宜的に「のべ接触回数」をリーチとして定義することにします。

ではなぜ、コミュニケーション設計においてリーチが最も重要なのでしょうか?

それは、あらゆるマーケティングの指標=ブランド認知、ブランドイメージ、購入意向、利用意向、etc.は、情報と接触することでしか生まれ得ないからです。

そのため、マーケティング計画上どんな指標を目標においたとしても、基本的にはリーチの設計が大前提必要です。そのリーチにおいて、とにかく名前を覚えてほしいのか、購入意向を上げたいのか、WEBサイトに来てほしいのか、etc.によって、クリエイティブに代表される「どうやって」を設計していくステップを踏んでいきます。

リーチの本質:「記憶」の攻略

そして、リーチが潜在顧客にもたらす本質的な効果は「記憶」です。先程申し上げたようなマーケティングの指標は、リーチを通じて彼らの「記憶」に作用しない限り生成し得ないないからです。

人間は忘れる生き物です。1回見かけたパッケージや広告や記事だけで、未来永劫ブランド名を覚えたり、イメージを鮮明に持ち続けたり、WEBサイトをみてみようと思い続けてくれたりする人はほとんどいません。何回も何回も情報を届けてあげて、ジワジワと効果を発揮するのがリーチの特性です。

ですから、語弊を恐れずに言ってしまうと、コミュニケーション設計は記憶の攻略に尽きる、とも換言できるのです。

図1 リーチの本質は「記憶」にある

図1は、人間は忘れる生き物であることとリーチの役割を僕なりに再解釈してみたチャートです(記憶の専門家ではないので悪しからず)。黒い曲線は再学習を行わない場合の記憶定着率で、時間とともにこのように記憶は薄まっていくことが実験で明らかになっています。

いっぽう、青い矢印と曲線は、それぞれ再学習→再忘却と、再忘却後の記憶定着率をあわらしています。この図では4回ほど再学習(=合計で1+4回のリーチ)行うことで、黒い曲線と比べて青い曲線は高い記憶定着率を維持しています。コミュニケーションリーチの本質的な効果は、潜在顧客の記憶を、できるだけこの青い曲線の状態に持っていくことといえます。

また、この青い曲線の勾配が徐々に緩やかになっていることからもわかるように、何回もリーチを重ねていくうちに、1回あたりの効果(この場合は記憶定着率の復活具合)は逓減していきます。1回あたりのリーチインパクトが等しい場合(同じTVCMを何回も見る場合など)は、この法則を意識すると良いでしょう。

実例:テレビ広告のリーチとブランド認知率の関係

図1の青い曲線はぼくの勝手なリーチと記憶の解釈ですが、実際にテレビ広告のリーチとブランド認知の回帰曲線はそれと非常に似た波形を示します。下の図2は、実際にあるカテゴリで観察されたテレビ広告の出稿量とブランド認知率の関係を示しています。

図2 リーチとブランド認知率の関係(テレビ広告の例)

図2の波形はまさに、集団が再学習→忘却を繰り返した結果観察される、記憶の定着曲線であるといえるでしょう。

ちなみに図2の横軸は個人GRP(Gross Rating Points=のべ視聴率)をとっています。個人視聴率が10%の枠でTVCMを流した場合、個人GRPが1,000%であれば、1,000/10=100回流れることになります。また、個人GRPの分母は人口で、1,000%というのは人口を分母に取ったときに1人あたり平均10回リーチしている「はず」の計算になりますが、それだけTVCMを流しても、ブランド認知は平均して3割ほどしか獲得できません。

なぜでしょうか?その理由は主に2つあります。

ひとつは、平均10回のリーチは、人口に対してランダムに降りかかるからです。たくさんテレビを見る人は20回や30回、ほとんどみない人は1回や2回、人によっては0回の人もいるはずです。したがって、平均10回といっても、人口の中にはそもそもリーチしない人やほんんどリーチしない人が一定数発生するのです。平均を解釈するとき、このランダム性はコミュニケーション設計において大変重要な留意点ですので、ぜひ頭の片隅においておくことをオススメします。実際のコミュニケーション効果を測定する時、このランダム性を頭に入れておくと、感覚がすり合いやすいのでオススメです。
ちなみにリーチ回数ごとのランダムな人数分布はポアソン分布と呼ばれる確率分布に従い、単位面積あたりで雨粒が当たる数の分布や、単位時間あたりに兵士が馬に蹴られる回数の分布(笑)と同じ分布になります。リーチ(接触)と雨粒のイメージはつながりやすいかもしれませんね。

そしてもう一つの理由は、「人口に対して」平均10回であるため、「カテゴリに全く興味のない人」に対する効果があまり期待されないからです。図2は特定のカテゴリについての曲線ですが、そのカテゴリと全く関連のない人には認知効果を生んでいない可能性があります(生む場合もあります)。
コミュニケーションリーチはその目的からして当然潜在顧客に対して働きかけるものです。したがって、「そのリーチのうち、潜在顧客へのリーチはどれくらいか」を常に観察することが肝要です。テレビで言えば、平均10回といえども、全体人口に対する潜在顧客の割合がそもそもブランド認知率の天井になりますし、仮に女性向けの商材だとしたらリーチの半分近くはムダと捉えることもできてしまいます。

以上が「平均10回リーチしているはずなのに、ブランド認知率は平均で30%しかいかない」基本的なメカニズムです。母数が大きければ大きいほど、ブランド認知を獲得するのって、とっても大変です。

まとめ:コミュニケーション設計の実務における留意点

今回はIMC(統合マーケティングコミュニケーション)篇の初回として、コミュニケーション設計の役割、その際の最も重要な概念であるリーチと記憶の関係、実例としてテレビ広告とブランド認知率の関係を取り上げてみました。

以上を総括して、コミュニケーション設計の実務上の留意点は下記の3つになろうかと思います。

図3 コミュニケーション設計の実務における留意点

実際のプランニングプロセスについては、次回以降詳説していきたいと思います。
今回もお付き合いありがとうございました!


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