日銀 金融政策決定会合
日銀は17日の金融政策決定会合で、現行の長短金利操作付き量的・質的金融緩和の維持を賛成多数(賛成8:反対1)で決定し、FRBなど海外主要中銀の金融引締め政策とは異なる緩和政策を維持し、円安や金利上昇といった市場の圧力に抗う姿勢を見せています。
政策の内容:長短金利操作(YCC)
短期金利:-0.1%を適用
長期金利:10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う
連続指値オペの運用:10年物国債金利について0.25%の利回りでの指値オペを、明らかに応札が見込まれない場合を除き、毎営業日実施する
インフレ見通し
景気は、一部に弱めの動きが見られるが、基調としては持ち直しているとし、先行きも回復していくとみられるとしています。
個人消費についても、サービス消費を中心に持ち直していると判断を引き上げています。
消費者物価の前年比については、2%程度となっているに上方修正し、予想物価上昇率は、短期を中心に上昇していると見通し示しています。
先行きに関しては、エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い、プラス幅が縮小するとし、コア消費者物価指数に関しては、この間の前年比が、マクロ的な需給ギャップが改善し、中長期的な予想物価上昇率、賃金上昇率も高まり、原材料コスト上昇分の価格転嫁の動きもあり、プラス幅を緩やかに拡大するとの見方を示しています。
為替市場についての異例の言及
声明文では、リスク要因として金融・為替市場の動向が経済・物価に与える影響を「十分注視する必要がある」との表記が加えられており、為替への言及は、80円/ドルを割り込む円高に見舞われた2011年、2012年以来となります。
発表後の東京外国為替市場では円が乱高下し、日銀が金融緩和策の現状維持を決定したことを受け、円売りが先行した後、急反発するなど荒い値動きとなっています。
クイック分析
今週は、他の主要中銀に利上げというスポットライトが当たっていましたが、日銀はここ数日、イールドカーブのコントロールを維持しようと、市場圧力に抵抗していました。
政策転換を示唆するようなことがあれば、日銀の努力は水の泡となり、日本国債にさらなるプレッシャーをかけることに繋がります。
日銀はハト派の主要中銀として、その信念を貫いており、その意味では善戦していると言えるかもしれません。
その結果、10年物日本国債の利回りは0.228%まで低下し、今週はYCC上限である0.25%から大きく外れていたため、日銀の政策担当者にとっては安心材料となったと思われます。
日銀の政策決定を受けて円安に転じ、政策的なサプライズへの期待も後退しています。日銀がハト派的な姿勢を崩さない限り、円高を持続させることは困難と思われますが、為替市場の動向が金融政策にも影響を与えうることを示しているので、黒田日銀総裁の会見での発言に注目が集まります。
黒田日銀総裁の定例記者会見が始まると内容を更新します
黒田日銀総裁記者会見要旨
(インフレ率について)当面は2%程度で推移する可能性がある
消費者物価指数の伸びは鈍化する可能性がある
外国為替が経済や物価に与える影響に十分に注意する必要がある
価格目標が達成されるまで、YCCによる緩和を継続する
緩和政策でしっかりと経済を支えていく必要がある
為替については経済、金融のファンダメンタルズに沿って安定的に推移するが望ましい
最近の急速な円安は経済にとってマイナス
具体的な為替相場の目標は設定されていない
海外債券利回りの急上昇は、日本の金利に影響を与える
為替相場の急激な変動は企業に大きな不確実性をもたらした
今はこれ以上の緩和の必要はない
必要であれば躊躇なく追加緩和する
日本の設備投資は堅調であるため、為替のボラティリティは企業の信頼感に大きな悪影響を与えないと考えている
最近の通貨と金利の動向を注意深く監視する必要がある
(YCC0.25%上限引き上げについて)引き上げれば緩和効果が弱まる、今は特段政策の見直しは必要ない
現在の値上げはコストプッシュインフレである
現在のインフレは日銀が望んでいるものではない
まとめ
今回の日銀の決定は、日銀は市場での信頼性を強化し、政策調整に対する市場の期待感を抑えようと判断したと思われます。
日銀は景気支援に重点を置くことを確認し、日銀の確固たる姿勢が改めて明らかになりました。
しかし、これは市場が必ずしも、日銀の今後の政策行動を信じることを意味することとは異なります。
黒田日銀総裁の発言にもかかわらず、現在の世界的な経済状況では、従来の緩和政策は持続不可能と想定され、市場は引き続き政策変更の可能性を織り込んでいくと予想されます。
他国との金利差は拡大し続けるため、円安傾向はしばらく強含みとなりそうです。
興味深いことに、日銀の声明文では為替市場の動向に注意を払う必要性に言及しましたが、黒田総裁はその後の記者会見でこれを軽視し、従来通り、「急激な円安はマイナスで経済にとって好ましくない」ということを繰り返しました。
また、「イールドカーブ・コントロールは限界に達していない」と指摘し、日銀は政策転換を考えていないことを改めて強調しています
目先の政策調整はまだ実現不可能と想定されますが、今年後半には、政策調整の可能性が高まるかもしれません。
燃料や輸入食品に対する政府の補助金制度はコストプッシュ型のインフレ圧力を部分的に抑えることができますが、再開発や消費刺激策によってサービス価格や場合によっては賃金が上昇する可能性があります。
5月の消費者物価指数の結果は来週発表されますが、需要サイドの圧力が高まる兆しがないか注意深く見守ることになります。
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