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二の足からの一足飛び。
ピアノを弾きたい。
ここ一週間くらい、そのことばかり考えている。
この「ピアノ弾きたい熱」は、昔から不定期に突然襲ってくる衝動のひとつだ。
私は7歳から20歳直前まで、家の近所にあったピアノ教室に通っていた。
私が幼稚園でよくオルガンを弾いて遊んでいたことから、ピアノを習ってみないかと母に提案されたのがきっかけだったように記憶している。
週に1回、先生の家に行って30分程度のレッスンを受ける。
次のレッスンまでに与えられた課題を練習する。
練習は毎日30分から1時間程度。
と書くと、なんだかとてもまじめにコツコツ練習していたように見えなくもないが、この毎日の30分から1時間がいつからか苦行のようになっていっていた。
もちろん、楽しく練習に励んでいた時期もあったのでずっと苦行だったわけではないが、友達と遊びたい盛りの頃は本当につらかった。
そもそも、何かを目指していたわけではなかったから特段熱心なこともなかったのだけれど。
しかし、高校を卒業する前後あたりから、レッスンに通うことが究極に嫌というか馬鹿馬鹿しくなってしまった。ピアノを弾くのが嫌になったわけではなく、「レッスンに通うことが馬鹿馬鹿しく」なってしまったのだ。
原因は、私がレッスンを受けに先生の家に行く時間に、先生が子供を塾へ車で送る時間が丸被りするようになったからだった。
30分ほどのレッスン時間のうち、15~20分は先生が不在。
それで毎月1万円の月謝を払わされていたのだ。馬鹿馬鹿しい気持ちになるもわかっていただけるだろう。
結局、母親には「ピアノを嫌いになりたくないからレッスンを辞めたい」と言い、先生には「学業と就職活動で忙しい」というもっともらしい理由を伝え、20歳になる前にレッスンを辞めた。
辞める直前、せっかくここまで続けてきたのだからグレードテストを受験するようにと先生に勧められたのだが、渋々の練習かつ渋々の受験だったので見事に落ちた。母は残念がったが、私はむしろ清々した。
それ以降は、自分で弾いてみたいと思ったJ-POPのピアノ譜を買ったりして、自分の好きな曲を弾いて楽しむようになった。
けれど、好きな時や気が向いた時に弾くということは、気が向かなければ弾かなくなってしまうわけで、段々とピアノを触る時間は減っていった。
ついには、10年ほど前の引っ越しの際、引っ越し先の事情もあって所有していたアップライトピアノを手放してしまい、それ以来まったくピアノを触っていない。
ただ、冒頭でも述べたように、「ピアノを弾きたい」という衝動が起きては消え、起きては消えを繰り返して今に至っている。
そして衝動が起こるたび、やっぱり私はピアノが好きなんだということを実感して、なんだかちょっと嬉しくなるのだ。
調べてみると、昔に比べて電子ピアノの性能は格段に上がり、そのうえ安価でコンパクトなものが多数出回っていることが分かった。
これまではスペックと予算とがかみ合わなかったり、サイズ的な問題で置き場所がないと断念してきたのだが、年内に電子ピアノを入手してやろうじゃないか! と前向きに検討し始めた。
具体的に検討し始めると、「またピアノが弾ける!」という喜びの芽がすくすくと育っていくような感覚が生まれておもしろい。
弾きたい曲もいろいろあるので、いっそのこと先に譜面を入手してしまうのもアリかもしれない。
もしかして、何かを始める前に二の足を踏んでしまうときは、始めるための準備より先に始めた後に必要なものを先に準備してしまえばいいんじゃないだろうか。
二の足踏みそうになったら、思い切って一足飛び。
なんだかとても自分らしくて気に入った。
座右の銘に追加しよう。