5.1.1.2. 仕事内容が「お茶」に活用できる場合(後編)
この節には前編があります。
本業を「茶道団体」に活かす
前編に登場した家元(仮)の会社のように,ヒットするまで回転を速めて企画し続けていくという方針を,「茶道団体」の運営に活かすインフォーマントもいた。
会社で役職に就きながら「茶道団体」も続ける大輔さんは,どういう茶会やイベントを提案していくか,常にアイデアを発信し続けていると語る。
「ダメならすぐ引く。行けそうだったらもっと突っ込む」といった,茶会の企画の引き際や攻め際は,家元(仮)の会社の話と酷似している。
方法は異なるが,二人とも会社での経験を「茶道団体」に活かしているのは間違いない。
本業という専門領域
「お茶」と本業は一続きになっており,「逆に両方あるからバランスが取れる」と話していたのは,仕事は仕事で充実している大輔さんである。
社内でのポジションの違いに起因するかもしれないが,他のインフォーマントと比較しても,大輔さんからは職場の不満が聞かれなかった。
大輔さんは,自身の得意領域としてインターネットを例に挙げる。
アナログな茶道界でホームページやSNSの運用に力を入れたことが,「茶道団体」の周知に役立ったと話していた。
こういった各インフォーマントの本業における知識は「お茶だけやってたら得られない」として,「必ず(仕事と「お茶」)両方の軸があった方がいい」と見解を述べる。
本業と地続きの「お茶」
こうした「お茶」と仕事が影響しあっているという語りは,智子さんにも共通している。
土日に家で過ごしているときではなく,「会社で,企画のアイデアが出ないとき」に抹茶を飲むと語っていた。
稽古や茶会においてのみ「お茶をする」茶道教室の生徒と比較すると,仕事と「お茶」の時間を,明確に区別していないと考えられる。
これは,茶道を非日常として楽しんでいた茶道修練者との顕著な違いの一つである。
例えば松江市で出逢った茶道修練者は全員,茶道をする理由を「気分転換」という言葉で説明した。
完全に仕事と茶道を分けている場合にのみ,茶道が「気分転換」になる。
つまり,仕事と茶道が完全に別世界であるということだ。
また,松江市の茶道修練者からは,茶道をしたことで生活が豊かになったという語りがよく聞かれた。
生活が茶道に活きたという語りはまず聞かれない。
このような茶道教室に通うに留まる生徒の語りは,会社生活が「お茶」に活きたという大輔さんの発言とは正反対である。
「仕事」と「お茶」のバランスとは
加えて,第三者に茶会を依頼された場合などに発生する「お茶」の活動からの収益と,本業での収入についてもインフォーマントは触れていた。
(「お茶」の活動から得る収益については,本章5.2.4.で後述する。)
大輔さんは,仕事で稼いだ分は家庭に納め,「お茶」からの収益は茶道具など「お茶」に還元すると語る。
本業が安定しているからこそ,「お茶」への支出が家計を圧迫するといった「自分の生活を危ぶむような遊び方」はしていないと語り,ここでもバランスが重要だとまとめる。
ここまでに繰り返し登場した「仕事」と「お茶」,「仕事での収入」と「お茶での収益」といった全ての二項対立で「バランス」が必要になるというのが,この節を通して一貫した大輔さんの主張である。
これらのバランスが崩れているとき,会社生活や「お茶」の活動にどのような支障が出るのか,次節以降で明らかにしたい。
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