5.2.3.1. インフォーマントによる茶道教室の運営方法

参加できた日だけ支払う「会費制」

大輔さんは，自身の運営方法であれば，生徒も「緩くお茶を続けられる」と思ったのだろうと推測する。

具体的には，月謝が「会費制」で，着物の着用義務はなく [注63]，正座も足が痛ければ崩せばいい，という雰囲気の教室であると説明する。

会費制とは，稽古に参加できなかったときも月謝を払い続けるのではなく，参加できた日ごとに支払う制度のことである。

ほとんど全ての（特に個人教授の）茶道教室に言えることだが，生徒の都合で教室をしばらく休む場合，休んでいる間の月謝も納める必要がある。

しかし社会人であれば，同じ曜日の同じ時間を毎週空けておくことが難しい人もいるだろう [注64]。
生徒の都合で欠席する場合は当然のこと，教授者が自身の師事する家元の茶事に参加（もしくは手伝い）をする都合で１ヶ月丸々稽古が行われない場合でも，生徒は月謝を納め続けることになっている [注65]。

これは茶道教室の月謝が，「炭代と茶菓子代」といった実費だけでなく，茶道教授者の固定給の意味合いを持っているからだ。（5.2.3.参照）

稽古日を自分で選択できる

以上のような独特のしきたりは，茶道修練者であれば周知の事実である。

現在茶道教室を運営している達也さんは，「今までは圧倒的に先生が強かったから，（生徒が）我慢してついてきた」と語る [注66]。

しかし従来の先生主導の運営方法では，「僕らみたいな20代30代（の生徒）」が茶道を習い続けたいとは思わないと言葉を続ける。

「お稽古は月3回のところ今月は２回」などど，先生の都合で稽古の回数が減るような茶道教室は，今後成り立たなくなると主張していた。

実際に達也さんの教室は，平日も週末も，午前中も夜も，様々な時間帯で開催されている。

「この日は誰も名前書いてなかった」と達也さんが述べていたところから，稽古に参加できる日に生徒が記名するシステムを取っているようだ。

仮に，毎週違う曜日に通うと，その度に異なる生徒と一緒に稽古を受けることになる。

本人が習ってきた稽古の連続性が失われることは，デメリットでもあると考えられる。
習熟度の異なる修練者の点前作法を見なくてはいけないこともあるだろう。

しかし，こういった運営方法の一番のメリットは，たとえ違う曜日だとしても，一回でも多く稽古に通うかどうか，生徒本人が選択できることである [注67]。

稽古に参加する日を自分で決められること，そして振替日の柔軟さは，稽古の続けやすさと直結しているだろう。

実際に感じた不都合を改善する

従来の茶道教室の運営方法をそのまま採用する人は，少なくとも本稿のインフォーマントの中には見受けられなかった。

これらはインフォーマント自身が茶道教室で感じた疑問や不都合を，自身の教室では解消するべく工夫したためであろう。

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[注63]　お稽古の際に着物を着なければいけない教室もあるが，洋服も可能な教室は増えつつある。とりわけ，駐車場を併設していなかったり，駅から距離があったりする都市部の教室では，洋服で通う生徒も多い。筆者のいた教室は後者である。
[注64]　筆者が通っていた茶道教室の姉弟子を見ても明らかであった。年に一回，納会（年末に行われるその年最後の茶会）でしか顔を見ないような生徒も，毎月月謝を支払っていた。
[注65]　例えば筆者のいた茶道教室では，休会したい旨を伝えると，休会する１〜２ヶ月前に予め休会中の月謝を納めておくように話をされる。休会中も月謝を支払うのは当然のこととして，その理由は説明されなかった。
ちなみに，休会前最後の稽古時ではなく，休会数ヶ月前に前もって月謝を徴収する理由は，休会前に稽古を欠席して，そのまま音信不通になる生徒が過去にいたからである。
[注66]　休会中の月謝に関して，筆者の姉弟子は「（茶道教室に）入門するってそういうこと」「お稽古を再開したときまで籍を残しておくため」と，自分なりの理解を示していた。
[注67]　例に挙げると「月曜午後初心者クラス」「金曜午前教授者クラス」といった，曜日と時間帯と習熟度によって区別されており，様々な時間帯で教室が開催されている教室であっても，実際に稽古を振り替えることのできる曜日は少ない。稽古を違う曜日に振り替えたくても，習熟度によって融通が利かないのである。

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