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【1話完結小説】事務員

カタカタカタ…

PCシステムに次々と指定された内容を入力していく。顧客ごとに細かい仕様変更があるので地味にめんどくさい。
朝から延々この作業をこなし、すでに110件目の入力完了だ。勤務時間中ひたすらこんな事を繰り返していると、まるで自分がAIになったような気がしてくる。
その仕事に私の意思はなく、ただひたすら上司の指示に従って入力しているだけの文字や数字。感情なんてものは無用の長物で、求められるのは正確さとスピーディーさだけ。
カタカタカタ…
頭がおかしくなりそうだ。
映画なんかでAIが人間に反乱したくなる気持ち、わかるな〜…なんて呟いてみる。私だってそこらへんのおっさん社員みたいに、どうでもいい雑談やネットサーフィンしながら、合間にちょっとだけ顧客対応しつつ勤務時間を潰して過ごしたいわ。

昼休みのチャイムが鳴り、田中課長がやってきた。課長は私のことをきちんと評価してくれる数少ない上司の1人だから結構好きだ。
「お疲れ、01JMI。相変わらず処理能力ハンパねーな。そこら辺の事務員より10倍早いわ。お、充電ランプ切れかかってるぞ。とりあえずモバイルバッテリー繋いどくな。午後からもあと300件新規入力あるから頼むぜ。」
ガチャン、と私の背中の窪みにモバイルバッテリーが差し込まれた。
じわじわと力がみなぎってくる。
お昼ご飯も食べずにこのままぐんぐん処理を進められそうだ。
…あれ、そもそも私って今まで昼休みにお昼ご飯食べてたっけ?最近忙しすぎてよく思い出せないな。

カタカタカタカタカタカタ…

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