本気なのは当たり前、問われているのは本気度
先日、岩手県庁の希望者を対象に、海士町のまちづくりについてお話する機会がありました。本来であれば海士町の方に来てもらって話をしてもらう方が良いのですが、都道府県間での往来が難しい中、国家公務員として離島に出向していた者としての視点を加えて話をさせてもらいました。
サザエカレーやいわがき「春香」、隠岐牛、CAS商品といった島まるごとブランド化について、商品開発の裏には、いずれも販路を自らの手で開拓する中で徹底的な品質管理を行い、価格決定権を手放さなかったことが、持続化可能な生業づくりにつながっていると説明させてもらいました。
販路開拓については、岩牡蠣がまだ一般的ではなかった頃、営業回りをしても門前払いのような状況が続き、東京駅でクーラーボックス片手に肩を落としながらも諦めずにいわがき「春香」の良さを訴え続けたことやCAS商品について取引先から厳しいことを言われながらも品質改善を続けて取引先の信頼を勝ち取っていったことなどは、特にも海士町の「本気度」を感じるエピソードです。
そして私が講演でお話したのは、ものづくりを通して、海士町には本気の大人がたくさんいること、その大人の魅力が地域の魅力を作り、それが高校の魅力化につながっているのだということです。今、高校の魅力化という言葉が島根県の離島から全国に広がりつつありますが、「高校の魅力化=高校の存続」と考えている方もおられます。もちろん、高校の存続は一つの要素ではありますが、それだけでは持続可能ではなく、生徒の学びの観点からも十分ではありません。私は高校の魅力化を持続可能で生徒の真の学びにつなげていくためには「高校の魅力化=地域の魅力化」という考え方が必要だと強く感じています。
高校を核として地域を活性化する、その地域の魅力が生徒の学びを豊かにする、その結果として将来の地域の担い手が育つという好循環を生み出すことが魅力化の本質であり、そのために地域に住む大人の本気が問われているのだと私は思っています。
海士町では「魅力化から還流へ」という言葉の下、高校生だけでなく大学生や社会人の人づくりにも取り組んでいます。島根県でも「島根を創る人づくりプロジェクト」を部局横断で取り組みながら未来の担い手育成に本気で向き合っています。
これから地方はグローバル企業と人材獲得競争をしなければならない中で、地域産業の担い手を都会に行ってUIターンフェアなどで人材を獲得するという狩猟型だけでなく、農耕型で育てていくという発想で本気で人材育成に向き合わなければ、地域はますます過疎化していくと教えてくれたのは、島根県のプロジェクト担当者でした。
講演でも「この地域の未来を担う人づくりを学校だけに任せていませんか?」という問を離島からの言葉として届けさせてもらいましたし、その言葉を受けて参加者の多くが真剣な表情で考えてくれていました。
そして講演の最後に紹介したのが、山内前海士町長の「本気なのは当たり前、問われているのは本気度」という言葉です。
地域の担い手を地域で育てるということには、誰もが賛成します。そして、その気持ちも本気なのだと思います。でも、そこから先に一歩進むために必要なのは関係者の本気度です。
人がいない、予算がない、前例がない、だからやらないではなく、子ども達のため、地域のために絶対に魅力化を実現させる、地域の未来の担い手は学校だけに任せるのではなく自分達で育てるのだという離島の本気の熱量を少しでも多くの関係者に伝えることが私の役目だと思っています。
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