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休日に部活の指導をやりたくありません

学校の働き方改革・部活動改革に関連する話です。それは、教師として2年目を迎える4月の職員会議での出来事です。

ある一人の女性教師が部活の顧問を決める職員会議の場で、土日の練習が長い部活動の顧問に指名されていました。正確に覚えてはいませんが、バレーやバトミントンのような運動系の部活だったと記憶しています。その先生は学校の中では若い方だったので、練習時間の長い部活の顧問に指名されたのだと思います。私も正規採用ではない講師の身分でしたが、最も若手かつ独身ということもあって、卓球部という比較的練習時間の長い部活の顧問に指名されていました。

顧問について一通りの説明が終わった後、質疑応答の時間になります。そこで若手の女性教師が手を上げ、違う部活の顧問に変えて欲しいという要望を管理職に伝えます。けれど、代わりにその部活を引き受ける教師がいないため、変更は認められませんでした。そのときに、強い口調で「私は休日に部活の指導をやりたくありません」と訴えます。

最終的には、顧問を引き受けることになるのですが、このときの職員室の空気は重たいものでした。他の教師に確認したわけではありませんが、「生徒のためなんだから」「若い頃は自分もプライベートを犠牲にして休日に部活をやっていた」「講師の先生が頑張っているのだから、正採用はもっと頑張らないと」といった心の声が聞こえるようでした。反省を込めて正直に言うと、私も心の中で同じようなことを思っていました。

ヤンチャで元気のあり余っている生徒が多い学校でしたので、部活動は生徒指導の大きな柱になっていました。「生徒のため」という言葉の下、夜遅くの補導や休日の部活動指導に誰も疑問を持っていませんでした。そんな空気を破る声が、職員室に響く「休日に部活の指導をやりたくありません」という声だったのです。

それから15年が経ち、文部科学省で学校の働き方改革の担当として様々な知見を広げていくうちに、あのときの女性の教師の声の方が正しかったということに気付きました。

顧問の任命は校務分掌なので学校長に権限があります。けれど、休日に部活をするかしないかは顧問の先生の判断に委ねられています。何故なら、教師に残業を命じることができるのは、学校行事など「超勤4項目」と呼ばれる業務だけで、その中に部活動は入っていません。勤務時間外である土日に部活動を業務として命じることができないので、そもそも教師が望まなければ部活動をやる必要はないのです。

しかしながら、目の前にいる「生徒のため」に休日の部活指導をやらざるを得ない環境に置かれている教師がいることも事実です。私の経験は15年も前の話ですが、あの時にやりたくないと声を上げた先生も慣れないジャージを着て生徒のために土日も出勤して指導していました。けれど、本当は休日の部活指導を望まない教師は堂々と休むべきですし、まったくやる必要はないのです。

文部科学省では、部活動指導員の配置を推進したり、休日の部活動を地域活動に移行しようとしています。令和3年度予算にも部活動改革のための予算が計上されています。15年前、一人の女性教師が職員会議で放ったあの言葉の方が正しく、学校の働き方改革の文脈で国がその方向に大きく舵をきり始めているのです。

部活動自体を否定するつもりはありませんし、その教育的な効果は実体験を通じて理解しています。なので、将来的に休日の部活動が地域部活動に移行した場合でも、指導を希望する教師は兼業という形で関わっていくことになれば良いと思っています。

今、改めて「生徒のため」という職員室の同調圧力を跳ねのけて、声を上げたあの先生に敬意を表するとともに、部活の指導が一日でも早くあるべき姿になるよう、行政の立場からも全力で取り組んでいくことを誓います。

(参考:学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について)https://www.mext.go.jp/sports/content/20200902-spt_sseisaku01-000009706_3.pdf






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