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国産紅茶/和紅茶にまつわるQ&A

注目が集まってきた!と同時に、聞かれることも増えてきた

Il n'y a de nouveau que ce qui est oublié.
(新しいものは、忘れられたものに他ならない。)

Marie-Janne Bertin

国産紅茶/和紅茶が最近とみに注目を集めており、大変うれしい限りです。新聞にランキングが載ったり、なかなかホットなトピックですね。個人的にも職場での取り扱い数がぐっと増え、年間20~30種くらいになりました(ちなみに販売歴8年くらい)。

そしてホットになるにつれネットや本の情報も増えてきたのですが「ん?んんんん?なんか違うぞ?」というものも多く見られるのと、仕事をしていて質問を受けることも増えてきたのでここにまとめておこうと思います。

マニアックで長めなので、余裕ができたらシンプルバージョンもやりたい…けど、どうなることやら_(:3 」∠ )_

※なお気が向いたら追加しますが、個別の質問にお答えするのは難しいです。めちゃくちゃ回答にエネルギー使うタイプなのですみません…。


ここから始まるQ&A

Q1.国産紅茶/和紅茶ってなに?

シンプルに「日本産の紅茶」です

シンプルにとらえて良し!

→特に政府や業界団体等で明確に定義されているわけではありませんが、日本産の紅茶です。

国産紅茶/和紅茶とは、日本でチャノキを育て、それを紅茶の製造工程で製茶したお茶のことを指します。「栽培・製造が日本で行われた紅茶」であれば国産紅茶/和紅茶だということですね。

また「中国種(Camelia Sinensis var. Sinensis)でなければならない」「緑茶用品種でなければならない」「日本在来種や日本が選抜した品種でなければならない」というような縛りは特にありません。ネット上のいろんな解説を見てみましたが、この間違いは多くて残念😞

そもそも日本の紅茶用品種は農林登録されているだけでもすでに15種あり、緑茶用品種だけで紅茶を作っているわけではありません。そしてそれらの紅茶用品種は、チャノキの中国種とアッサム種を掛け合わせたものも多いです。緑茶用品種縛りだと「べにふうき」も「べにひかり」も使えないですよね。

紅茶用品種のこと、忘れないで~!
これはべにひかり

また、ごく少ないですが台湾の品種(烏龍茶向け)を日本で育てて作った国産紅茶/和紅茶もありますし、品種がやぶきたでもダージリンで育てて製茶したらそれはダージリンティー*、というのと同じで海外品種を使ったからって国産紅茶/和紅茶じゃない!というわけではないです。

*たとえば、ダージリンではロヒニ茶園がやぶきたシリーズを出しています

「和紅茶」というとふつうの紅茶とは違う、何か別のもののようにとらえられがちなので、個人的には「国産紅茶」または中国紅茶やセイロンティーなどと同じように「日本紅茶」と呼ばれた方がいいのにな、と思っています。

Q2.新しいお茶(試み)なんですよね?

案外古いんだコレが

実は明治時代からあります

→リバイバル、というのがより正確です。実は明治時代には既に作られていました。

国産紅茶/和紅茶の歴史をざっくりお話しすると

明治初期に生産始まる→戦争で縮小→復興に向けて動き出し、ある程度回復するも紅茶輸入自由化で生産激減(1970年ごろ)→20~30年ブランク(生産者さんはいたけどごくわずか)→ちらほら作る生産者さんが出てくる→コンテストが増え、クオリティがグッと向上(ここ5年くらい)→現在

…といった流れです。昔は日本各地で作っていましたので、リバイバルというのがより正確な表現だと個人的には思います。ちなみにスリランカの生産が本格化した10年後くらいに始めており、ケニアより早かったりします。

戦前、日本が統治していた台湾でもかなりの量が作られていました。当時の台湾で生まれたブランドがデイリークラブでおなじみ、三井農林の「日東紅茶」です。

ポイント:ブランク前後の大きな違い

ただ、ブランクの前後で大きなポイントとなる違いがひとつあります。政府主導かどうか、です。

お茶は日本が稼ぐ大事な手段だったため、明治初期~昭和後期にかけての約100年、日本政府が紅茶の生産を積極的に後押し…どころかおもいっきり牽引し、品質向上のために熱心に研究をしていました(その遺産が、今日多数残っている紅茶用品種たちです)

どれくらいガチかというと全国茶品評会にも紅茶部門があって、それで1位と2位に輝いた紅茶をロンドン市場に参考商品として送り、現地茶商のレビューを求めたりしていたほど。その時送った紅茶が、参考価格ながら当時最高級だったリプトンを抑え最高値を付けた…というエピソードも残っています。

国全体の品質向上はまだ課題としてありましたが、作った方のインタビューによれば、「べにほまれ」を使ったその紅茶はその後とても良い値で海外に売れたそうです。

また、紅茶用の製茶機械の改良・開発にも熱心で、日本が1960年代に開発した透気式の萎凋機は東アフリカから世界の産地に広まったとのこと。これは個人的にもかなり驚きで、資料を何度も見返して他にも調べまくりましたが、どうやら本当のようです。

この後全国に紅茶伝習所(紅茶づくりの学校)を
ぶっ建てまくり、600名が卒業します

リバイバル後は、知識や技術があまり継承されなかったこともあって個々の生産者さんがそれぞれ試行錯誤を重ねています。そのため知識の共有や集積が難しく、茶葉のタイプや品質にかなりのバラつきが見られます。技術向上のために勉強グループに入る方もいらっしゃいますね。

もっとも、政府主導のころ品質がそろっていた&良かったかというとうーん…らしいのですが、ノウハウは蓄積しやすかったのでは…と個人的には思っています。

良いものができて引き合いが増え、粗悪品が増えたり…と、けっこう激動の歴史です。

Q3.他国の紅茶との違いはなんですか? 

海外はまず産地ごとの違いが大きいですよね

茶園ごとの違いが大きめ

→クラフトビールのように生産者さんごとのバラエティに富んでいることです。

前述のとおり、リバイバル後の現在の国産紅茶/和紅茶は国や公的機関が大量輸出を目指して牽引しているわけではなく、生産者さんがそれぞれに良いと思うものを作っていらっしゃいます。

海外の紅茶だと、たとえばスリランカのウヴァ産ならスッとする、アッサム産ならこっくり…というように、産地による味の違いが比較的はっきりしています。しかし、国産紅茶/和紅茶はその背景から「日本産の紅茶だから(◯◯県の紅茶だから)、こういう系!」と地理的ベースではスパッと言いにくいのです😅

もちろん海外の紅茶にも茶園ごとの違いはあるのですが、地域内の方向性は似ています。なんというか、昭和末期産まれにとっての日向坂46と乃木坂46みたいな感じです。あくまでも「このエリアは日本のアイドルのエリア」「ここはK-POP」「ここはデスメタル」とジャンルは同じなので、ファンには「このグループならでは!」の特徴がわかるけど、初心者には似て見えます。坂道グループわかんないYO!

それに対し国産紅茶/和紅茶は、同じ地域の隣の茶園でもBTSとRAB(リアルアキバボーイズ)くらい違います。NiziUとマドンナくらい違うこともザラです。

使用品種いっしょでも全然違うことも

具体的に言うと、葉の揉み方のスタイルが違ったりするので片方は烏龍茶みたいにふわふわで柔らかい味わい、もう片方はスリランカのミルクティー用みたいに粉々でがっしり系、渋味もしっかりめ…とか(こなごなスタイルは少ないですが、海外のオーソドックスに似たものはけっこうあります)。

生産者さんの勉強グループが同じだと、揉み方はわりと似てくるんですけどね。

使われる品種も幅広い

また日本は使用品種の幅が非常に広いのも特徴的で、紅茶用の品種から緑茶向き品種まで、ありとあらゆる品種が紅茶に使われています。これも海外に比べタイプがバラバラな理由のひとつ。

品種に関しての情報は、産地だけではとらえにくい国産紅茶/和紅茶の傾向を理解するのにとても便利だったりするので、別記事でみっっっちり書いております。特大ボリュームですがご笑覧いただけますと幸いです!

「渋くない」はあくまで“今の”マジョリティ

さて、上記を踏まえて。つまり「渋くない」とか「すっきりしている」…とも言われますが、それはあくまで幅広い国産紅茶/和紅茶の中の、ひとつのタイプだということです(マジョリティではあるものの、どんどん変わっていきそう。これは次項Q4で詳しく説明します)。

紅茶用の品種や、そうでなくてもアッサム種の血を引く品種を使って作った国産紅茶/和紅茶の中には、しっかりがっしりどっしりしたものもたくさんあります。

バラバラなのは悪いことではないし、それ自体が日本の個性たりうる

また、勤務先で海外のお客様の和紅茶選びを手伝っていると「『日本だからこう』というのがない、それが日本の紅茶の面白さだ」とちょこちょこ言われます。どうやら紅茶好きにとって、最後のフロンティア的な立ち位置みたいですね☕️

かつて英国がインドやスリランカで、日本が台湾でしたように、マーケティングのために傾向と品質をそれはそれは確かに売りやすいです(当時は気候や品種、製法上の制約が現在より大きかったのもあると思います)。

けれどそれは当時、あくまでも大量に輸出することでの利益を見据えたもので、今と全く状況が違うことにも留意する必要があります。逆に、あえて揃えないほうがいい状況なのでは?とも考えられます。

Q4.なぜ渋くない、すっきりしていると言われるのですか?

どっしりがっしり渋いのもある!(大声)

ひとえに、今は渋み控えめの品種が多数派だから

→元々渋み成分が少ないチャノキで作った紅茶が今のところ多数派だからです。

さてさて、さらに前項を踏まえつつ「どっしり系の品種もあるのに、なんで『渋くない、すっきりしている』のイメージがついているのか」ということについてお話ししましょう。

日本にある緑茶用の品種、特に煎茶や玉露に向いているものは、ほとんど中国種と呼ばれる葉が小さめのチャノキの系統です*1。

そして日本の中国種…たとえば煎茶用品種を代表する「やぶきた」は、インドのダージリン地方や中国にある似たような中国種のチャノキと比べると、元々含まれている渋み成分の量が少ないのだそう*2。そのような品種の茶葉を紅茶にすると、渋み少なめの透明感あるタイプになります。

そして日本はここ数十年煎茶をメインに生産してきた関係上、煎茶向き品種の畑がたくさんあります。それを使った紅茶の供給量が自然と多くなるため、最初に出会う確率も高いというわけです。

イギリスは日本とは逆に中国種を求め、
中国(清)からこっそり持ち出しました

いずれは「バラエティ豊か」という認識に変わるかも?

ところが。

最近は紅茶に意欲的に取り組む生産者さんが増え、「べにふうき」や「べにひかり」など、海外の紅茶が好きな方にも受け入れられやすい、渋みのポテンシャルのある品種を使う方も増加しています。

煎茶向けの品種でもベクトルの異なるおいしいものは作れるのですが、紅茶向けの品種のほうがやはり紅茶の製茶はうまくいきやすい…という部分もあるので、じわじわ紅茶用品種は増えていくものと思われます。

もちろん、渋味の出方は品種だけではなく揉み方との組み合わせにもよるのですが(なので渋味の”ポテンシャル”という言い方をしています)、品種の入れ替わりが進めば「日本の紅茶=渋くない、軽やか」のイメージも薄れ、「他国以上に生産者さんで全然違う」が認知されるかもな、と。

*1,2 日本って実は明治時代以降にさんざん海外からチャノキの種を持ってきているので、煎茶向きだけどアッサム種と中国種のかけあわせで紅茶がおいしくできるとか、一部例外があります。ここ、品種についてあるていど詳しく、かつ正確に理解していないとわかりにくいんですよおおおおお

Q5. なにか特別な淹れ方をする必要はありますか?

とくに構える必要はないです

“ゴールデンルールっぽい”淹れ方でOK

これもときどき聞かれますが…国産紅茶/和紅茶だからと構えることはなく、「よくある」淹れ方で大丈夫です!「よくある」とは…

🍂3gくらいの茶葉を
🫖しっかり余熱したポットで
☕️ティーカップ一杯分のお湯を使って2.5~5分かけて淹れる

…という、西洋式のアレです。

こんなかんじのやーつ

しいて淹れ方の注意点を言うならば

そんな感じなので難しく考える必要はまったくないのですが、しいて言うなら国産紅茶/和紅茶には大きめにふわっと揉んだ茶葉もそこそこあります。こんなかんじ。

おわかりいただけただろうか

お湯につけるとよくわかるのですが、このタイプに関してはカットがほぼ入っていません。断面が少ない=抽出にやや時間がかかるため、蒸らし時間を長めに(4~5分)とりましょう♨️

判断がつきかねたら、葉を数枚お湯に放してみるといいですよ!

茶葉の大きさって抽出時間の目安になるんですよ

もちろん「インドの茶葉そっくりだわ」「ミルクティー用みたいにこなごなだ」とかそういう感じであれば、2.5-3分程度で十分です。

そのへんの判断の仕方はこちらの記事👇に詳しく書いているので、併せてご覧くださいませ~。

中国風に蓋碗で、何度もお湯差して飲める?

功夫式、という淹れ方です…よ…ね?結論から申し上げますと、茶葉によって合う合わないがあるので試してみるといいと思う!という感じです。

店頭に立っていると中国出身の常連さんや中国紅茶愛好家の方もいらっしゃるので、なるべくいろんな国産紅茶/和紅茶で試しているのですが、ちょっとまだ規則性が見いだせないんですね。

ほら、なにせBTSとRABが混在してるような感じだから…。茶葉の揉み方も品種もバラッバラだから…。

こっそり書いてある

袋の裏の淹れ方も西洋式に準じて書いてあることが多いので、試しがいのあるところではあります。同じ業界の友人が摘み方の違いもあるのではないか、と意見をくれたので目下私も検証中です。

ちなみに西洋式で淹れているときの多煎は、ふわふわの大きな茶葉だとできることもあります(抽出がゆっくりなので)。とはいえ、一煎めに比べるとどうしてもちょっと劣ります。

おわりに

国産紅茶/和紅茶は紅茶っぽくない?

ずらずらつらつら書いてきましたが…上記のことからときに「国産紅茶/和紅茶は紅茶っぽくない」と言われることもあります。

が、考えてもみてください。中国とインドの紅茶だって全く違います。ダージリンのファーストフラッシュですら、ときに「紅茶っぽくない」と紹介されます。

製法が紅茶である以上、それは誰が何と言おうと、質がどうであろうと紅茶です。そのうえで質(紅茶として製造上の欠陥がないか)を吟味して、残ったものが個性。「製法は製法、質は質」ときちんと切り分けて、個性は認識しなくてはなりません。

そしてつまるところ、国産紅茶/和紅茶も単純に「紅茶」なわけです。国産紅茶/和紅茶だからとかまえすぎず、楽しんでほしいなーというのが、いち販売者&愛好家としての願いです。ぜひ、違いを思い切りたのしんでみてください☕️

とりあえず今日はこのへんで!





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