005「みつるとみちこ」みつる、相談する、そして決断する
月一連載、がんばって書いてます。タイトルを少し修正しました。
あなたにいつでも会えるようにしたい。私の住む街に来てほしい。
住む家はもちろん、あなたが必要なものはすべて用意する。
決して不自由はさせない。ついてきてほしい。
みつるに言い寄ってきた男、山田勝四郎は、ある日、そう言った。
彼は本気だった。
彼の住んでいる町は、山陰の片田舎。
そこに移り住んだら、京都にはほとんど来られなくなる。京の都での豊かな暮らしは、もうできなくなる。
そして、勝四郎には奥さんも子供もいる。勝四郎の正妻になることは不可能。
彼についていって新しい生活を始めるか、彼と別れて別の出会いを待つか。田舎暮らしか都会暮らしか。
二号さんという立場を受け入れるか、普通の結婚を追い求めるか。
みつるは、困った。そして、親しい人に相談した。
置屋で一番の親友、ちとせは、彼についていくことを勧めた。
私たちは帰る場所がないし、いつまでも若くてきれいでちやほやされるわけではない。みつるを気に入ってくれる人がいたら、ついていってもいいのではないか。彼はお金持ちで、生活も確保される。田舎暮らしは多少不便かもしれないけど、きっといいことだってある。
人生の先輩である、実姉のみよは、反対の立場をとった。
女だったら独身の男と普通に結婚をして家庭を持つべき。私たちの親もそうしてきた。現状の不安定な生活からはいち早く脱出すべき。二号さんのまま、片田舎で暮らせば、どんな苦労があるかわからない。都会に住んでいれば新しい出会いはきっとある。自分を安売りしてはいけない。
相談したけど、賛成意見と、反対意見と、両方出て、みつるは困った。
しかし、みつるは、次第に勝四郎の提案にひかれていった。
彼は田舎者で純朴。嘘偽りはない。彼のことを信じてみたい。
私のことを好きだと言ってくれる人が現れたのだから、その人の手を離してはいけない。
苦しいことはたくさんあるだろうけど、彼がいれば、きっと何とかなる。
どうせ、私はもともと田舎者だから、田舎で暮らすのもいいさ。
みつるは、勝四郎についていくことに決めた。
慣れ親しんだ置屋を出て、汽車に乗って、田舎町に引っ越すことにした。
みつるは26歳になっていた。
(この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。)