日々天ぷら屋にして
堅苦しい話が続いた気がするので旅の話。
そろそろ我が店にも夏休みが来る。
去年は一般の夏休みと完全にぴったり合わせてしまったので、午前六時前の東京駅新幹線のホームでラッシュを味わうという、とんでもない目に合った。
今年は、人の流れが各地から都心に戻るタイミングに休みを取ったので、少しは交通機関は落ち着いている事を祈る。
どこに行くかは、直前の天気で決めているので、まだ分からない。
各地の天気が悪かったり酷暑だったり、宿が取れないようなら、何も考えず福島県のどこかに行くだろう。
ところで私は、休暇を使い、少しずつ東海道を京都に向けて歩いていて、いま名古屋の手前まで来た。
名古屋・濃尾平野は、大きな川が3つ流れていて、昔から洪水対策が大変だった、と授業で習った気がする。
そんなエリアなので、なんと東海道街道がない。
名古屋の熱田神宮から、三重県桑名までは船で移動していたのだ。
もちろん今はそんな船はない。
どういうルートで桑名まで行くか悩んでいた。
船に弱い人のための歩く街道はあったらしく、そこでも良いんだけど、グーグルマップをみる限り、今では何の変哲もない、普通の町の道だ。
こんなところを消化試合みたいに歩くのもなぁ、と、何かアイデアが浮かぶのを待っていた。
名古屋は暑い街だから、このお盆休みに歩くつもりはないが、久しぶりに今後の東海道行脚の事を考えてみた。
もう一つ、悩みどころがある。
三重県に入り、桑名の波止場からまたつながる街道だが、ここからは鈴鹿峠の難所がある。私が泊まるような宿から宿までは峠越えでかなり距離がある。
名古屋の船のルートと、鈴鹿峠越えのルート、両方をどう解決するか。
久しぶりに考えたので、まっさらな頭で今までにない名案が浮かんだ。
自転車でいいじゃん。
江戸時代、東海道を移動していたのは徒歩だけではない。馬もあっただろう。
馬の人も船に乗っていただろうか?陸地を行ったのでは。
自転車を馬だと考えて、陸地を移動するのも面白い。
邪道か?
もし、自分の足が損傷して、いま車椅子生活になったとして、スポーツ用の車椅子を使って、東海道を京都に向かったら、誰も邪道とは言わないだろう。
車椅子が良いなら、自転車でも良いだろう。
そもそも、旅に邪道などない。
あるとすれば、他人の旅を邪道と言う事だけだ。
自転車を移動手段とすると、いくつかの可能性も出てくる。
今度のルートは桶狭間を通る。
さまざまな歴史のある地域だ。
歩く旅だと、私は名蹟に立ち寄るのを諦めて、ひたすら距離を稼いでいたが、自転車なら寄り道も楽だ。地名だけでゾクゾクする。
「前後」「ほら貝」「沓掛」
そして、鈴鹿峠越えも、自転車だと問題が解消できるかも知れない。
旧東海道の鈴鹿峠はハイキング道になっていて、自転車では乗れないところがあるはずだが、昔は自分もそういう峠を、自転車を降りて押したり、担いだりして峠を越えた。
東海道行脚のクライマックス、鈴鹿峠を自転車で越えるのも、今となってはかなり苦しいかも知れないが、良い思い出になるのでは。
自分が作った「歩く」という旅の縛りを壊すのも、旅の良さだ。
そして、鈴鹿峠を越えたら、自転車なら草津宿までのんびり行けてしまう。
自分が大学の卒業旅行として、東京から京都まで歩いた中山道との合流地点になる。
前回は徒歩、今回は自転車で草津というのも、面白い。
今日はそんな事を考えながら、天ぷらを揚げていた。
人生は旅だ。
日々旅にして旅を栖とす
と松尾芭蕉は言った。
旅に病んで夢は枯野をかけ廻る
そこへの一歩をまた。