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地の利、水の利を訪ねる旅 最終話

六千円で朝食付きの、桑名のホテルで三日目の朝を迎える。

おいしく朝食を食べるため、前の晩は暴飲暴食を避けて、早く寝て早く起きた。

今日は東海道行脚、濃尾エリア二泊三日旅の最終日だ。↓前の回

朝食は、和洋の簡単なバイキング。

自分は和食ベースで、納豆や豆腐、ヒジキなどをよそる。

納豆をしっかり混ぜてご飯にかけ、ポリポリとオカズを食べ始める。

みそ汁を飲む。

ズズッ。

あっ、旨い。

何で旨いんだ。

あっ、シジミだ!

シジミの味が効いている。

流石ハマグリで有名な桑名。シジミも旨いんだなぁ。

驚きの旨さで、2杯もおかわりをした。

具はネギとワカメ

これだけで幸せ。

チェックアウトして、昨日のゴール、弥富駅まで戻り、歩き始める。

「えーっと、東海道はどこだっけ?」

いつものように東海道をトレースしようとするが、このエリアに東海道がないことを忘れていた。

国道一号を歩くとすぐに木曽川。

大きな橋だ。

そして橋の周りには障害物がないので、山が目の前に迫ってくるようだ。

鉄橋の向こうに山
国道一号線ができてからの東海道の碑が。
これでも、うれしい。
雲はどこへ向かって急いでる?


近い
今後越えるだろう鈴鹿峠方面も見える
あっ!

近くの山々の向こうに現れた、この白い爪のような山頂はひょっとして!?

急いでGoogleマップを見る。

伊吹山だ。

自分が昔、中山道を歩いて京都に向かっていた時に、見た山だ。懐かしい。

もう、中山道とも近づいているのか。

やはり美しく神々しい山だなぁ。

木曽川を越え、長良川揖斐川と一気に越える。

合計したらすごい水量だ。

三つの川を越えて、川沿いを下るとついに、桑名の七里の渡しに着く。

また東海道に出会った。嬉しいような、懐かしいような。


水面がきれい
船着場は、伊勢湾台風で吹き飛ばされてなくなってしまったそう。今は堤防が必要なため、こんな形に。

あまり情緒がないため、すぐに東海道トレースを再開する。

「えーっとルートは」と考えながら歩き出すと「あ~面倒くさい、好きなように歩かせろ」とふと今までと逆のことを思う。

桑名周辺は、大きな城下町にあるように街道がクネクネしていて、それを間違わないように歩くのに注意が必要だ。

江戸時代に敵が侵入しても、道に曲がり角を作ることで、相手のスピードを落とし、そこで防御的攻撃がしやすくなる。

水もそうだし、戦いも、相手の力を抑えることが重要なんだなあ。桶狭間は逆に下り坂の力を利用した織田軍に軍配が上がった、

 ◇ ◇ ◇

お腹が減ってきた。

カクカク歩いている時に、地図を見たら近くにロードサイド店舗の回転寿司屋があった。

ここなら入れそうだ。

トレースを中断して入ると、空いていてカウンターに座れた。

回転コンベアに流れているものを、つまむ。

あぁ身に染みる。

瓶ビールも頼む。

五臓六腑に染み渡る。

お勧めに書いてあった、貝の盛り合わせと、ブリの中落ち軍艦巻きが美味かった。

ビールが終わった。

もう一杯…

いや辞めておこう。

腹六分目ぐらいがこういう時は良い。

近くの常連らしい人が「アサリ汁〜」と慣れた手つきで頼んだ。

その声を聞くと、どうやら旨そう。

アサリ汁は230円。

生ハマグリ汁は400円。

うーん、悩む。

アサリ汁だけでも十分美味そうで、あえてハマグリじゃなくていいんじゃないか。

いや、酒を一杯頼む代わりなら、ハマグリだ。嗜好品だ。

「ハマグリ汁お願いします」

「ハマグリ一杯〜、あいよ〜」と店の人が鋭い目つきで受ける。

出てきた。

大きくて浅い器にたっぷりだ。

ズズ、

ズズッ。

うん、おっ、おおっ!

旨い、滅茶苦茶旨い!

汁の味は、すまし汁じゃないのか。

味噌汁。

あれっ、この味噌は。

八丁味噌だ。

八丁味噌ってこんなに旨いのか。

信じられん。

この味を音で表現すると、中低音が素晴らしい。

中低音の豊かな響きが、口の中で宇宙を作っている。

そして、ふくよかでありながら、すべてのバランスが絶妙だ。

八丁味噌というと、味噌カツやドテ煮等の濃い味を思い出してしまうが、全く別の世界観。

飛車が龍に成ったような凄味。

身体中に滋味が染み渡る。

あぁ、自分はこの味に出会うために、ここまで歩いてきたんだ。

お椀の中をじっと眺める。

尾張の歴史、尾張の大地と川の流れ、海の幸。

その全てが、自分の両手の中のお碗にある。

 ◇ ◇ ◇

八丁味噌がこの地で生まれて、ここでハマグリ汁としていただくまでの時の流れを思い起こす。

時の流れや水の流れは、人を幸せにもするし、人に牙を向く時もある。

人は、それを受け入れて、少しでもダメージを減らし、少しでも恩恵を受けるように努力してきたんだ。

その結晶の一つがこのお椀に。

店を出る。

桑名市街を抜けると、静かな街道筋が続く。
ほろ酔い気分。
惰性で歩いている。
人の意見には耳を傾ける

そして今回の目的地、四日市市「富田駅」まで、「下にー下に」と心の中で言いながら、足を引きづって歩いたのだった。

地の利、水の利を訪ねる旅 全四話 終わり