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《転がる母に苔は生えないvol. 29》ことば以上の母語
昨日ニュースを付けていると流れてきた、
在日外国人の認知症による、
「母語返り」について。
何が起こっているのかというと、
長年使い続けてきた日本語を忘れて、
母語になってしまうというもの。
従って、認知症施設に入れなかったり、
言葉が通じないため、ケアするスタッフが
思いや希望をくみ取れないことがあり、
外国語ができるスタッフを雇ったりしている
ということだった。
映像の中で、ケアをする方が、
在日外国人の方のサポートをする中で、
「この先、日本語を忘れてしまっても、
言葉が通じるスタッフもいるし、心配しないでね」
と語りかけていたのが印象的。
日本での話を特集していたけど、
同じように在外でも
日本人に同じようなことが起こっているとのこと。
実は、一般的には
早期バイリンガルの場合、
認知症になるのが遅れると言われている。
文献では、
認知症発症年齢がモノリンガルに比べて早期バイリンガルは約4年遅延すると報告しています。複数言語使用環境で培われたモノリンガルにはない認知的緩衝材のおかげで、認知機能に異常をきたしても、脳のほかの部位がその機能を約4年間補えるようです。
くろしお出版, p.31
と書かれている。
このニュースでは、
第二言語は記憶と結びついているのでは?
と言われていたが、
この在日外国人のケースを考えると、
早期同時型バイリンガルではなく、
順次型バイリンガル、
つまり、
あとから第二言語が入った場合ではないかと思う。
認知症を発症したら、第二言語は記憶から抜けて、
母語(第一言語)が残ると言われるので。
(バイリンガルにも種類があるので、
それはまた別の時に)
この内容、特に国際結婚ファミリーには
ショックが大きいことかもしれないけど、
だから子どもに日本語を教えたい、
最低限自分とコミュニケーションを取れるくらい
と話していた方がいたことを思い出す。
一緒にニュースを見ていた息子は、
大変驚いたように言っていた。
「ボクが日本語を話せなかったら、
ママが認知症になったときに
話せないってことなんだね」
以前、学校が難しかった頃、
「日本語なんて話せなきゃ良かった」
と言われたけど、
日本語は私たち親子にとって繋がりを感じるもの。
それから、数年前に
キミにとって日本と日本語って?と聞いたら、
「日本は遠く離れた島国
日本語は、家の中で話すちょっと便利な言葉」
と、ぶっきらぼうな回答をもらったことを
思い出す。
母語とか、バイリンガルとか、
ことばはツールだとか、
何ヶ国語できるとか、できないとか、
言語についてはいろいろ言われるけど、
母語ってもっとことば以上で、
もっとシンプルなものかもね。
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《プロフィール》
子安 芙美
東京出身
夫、長男11歳、長女5歳の4人家族
東京外国語大学大学院 日本語教育修士
2013〜2024 タイ駐在帯同
2024.07〜 日本(数年後再び渡航予定あり)
帯同中に2人出産し、初めての子育てが海外でスタート
自分が育った環境や感覚、世界観が違う子どもたちを
海外でどのように育てていけば良いのか悩み、
2018年にサードカルチャーキッズという概念に出会う
子どもの視点から見る、海外で育つということ、子どもたちの苦労、
そこに必要な親からのサポートについて学ぶ
近年、日本語教育については複数言語を話す子どもの
言語教育に興味がシフト
タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会から学び直す
主な活動:
・臨床心理士によるTCK Podcast ナビゲーター
・OVER THE BORDER -読む聴く知る 世界の教育-
ボーダレスライター
・海外子育て(TCK)講座講師
・『ジャーナル「移動する子どもたち」
ーことばの教育を創発する』第14号
特集:「子どものことば」を育むとは一親子の視点から
エッセイ部門に掲載
所属学会、研究会:
・タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会
(JMHERAT) 会員、オンラインWSメンバー
・母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)学会会員
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