2021年9月5日放送風をよむ「アフガニスタン 大国の思惑」
8月30日、期限を前にアメリカ軍がアフガニスタンから完全撤退。首都カブールの夜空には・・・いくつもの祝砲が。
アメリカ・バイデン大統領(8月31日)「アメリカは20年に及ぶアフガニスタンでの戦争を終わらせた.アメリカ史上最も長い戦争だった」
世界に向けて、戦争終結を宣言したバイデン大統領。一方、アフガン支配の実権を握った、イスラム主義組織タリバンは・・・
タリバンの報道官(31日)「アメリカの侵略は最初から無謀だった。その結果としてアメリカは敗北し、アフガン人は戦場で勝利し、国を解放したのだ」「アメリカの侵略は最初から無謀だった。その結果としてアメリカは敗北し、アフガン人は戦場で勝利し、国を解放したのだ」
翌日のタリバンのパレードでは、アメリカ製の軍事車両や兵器などを、得意げに披露する兵士たちの姿も。しかし、アフガンの人々からは不安の声が…
アフガン人男性「女子学生は外出していない。家にいる。彼女たちはタリバンを恐れているんだ」
20年前、アメリカを襲った同時多発テロ。アメリカは、テロを首謀したとされる、ウサマ・ビンラディン容疑者の引き渡しをタリバンが拒否したとして、アフガンに侵攻。アメリカは、テロを首謀したとされる、ウサマ・ビンラディン容疑者の引き渡しをタリバンが拒否したとて、アフガンに侵攻。
こうして始まった、長期に亘る戦争と、アメリカ軍など有志連合の駐留。そこで掲げられたのは、アフガンに民主主義を根づかせるという、錦の御旗でした。アフガン戦争の当初は、アメリカ側の軍事力で、タリバンを圧倒。その後カルザイ大統領を押し立て、親米政権を樹立、支えてきました。
しかし、駐留に必要な軍事費や、アメリカ兵の死傷者が増加するにつれアメリカ国内から、この駐留に疑問の声が上がったのです。そんな中、撤退の流れに拍車をかけたのが、トランプ大統領でした。
トランプ前大統領(2019年11月)「タリバンは取引をしたがっている。」
海外派遣は、コストが高いのに効果が低いと考えたトランプ大統領は、 アフガンを電撃訪問、タリバンとの和平交渉に乗り出したのです。こうした流れをうけ、撤退に踏み切ったのがバイデン大統領。その背景にあったのは、急成長してきた中国の脅威でした。
バイデン大統領(7月8日)「この戦争を無期限に続けることはアメリカの国益ではないと判断した」
民主主義よりも、自国の利益を優先したというアメリカ。その結果アフガンはアメリカに見放される形で、タリバンによる支配に逆戻りしたのです。この現実は何を意味しているのでしょう…
タリバンがアフガニスタン全土の掌握を着々と進めていた、8月20日。モスクワでは、ロシアのプーチン大統領と、今月26日の総選挙をもって政界引退を表明している、ドイツのメルケル首相が会談していました。その際、アメリカのアフガン撤退について、プーチン大統領は・・・
プーチン大統領(8月20日)「紋切り型の民主主義を他国に持ち込もうなどと外から価値観を押しつける無責任な政策はやめるべき」
アフガンに民主政府を作ろうとした、アメリカなど欧米側を、厳しく批判したプーチン大統領。これに対してメルケル首相は、
メルケル首相(8月20日)「(ロシアの)クリミアの併合は、ウクライナの領土の侵害だとするドイツの姿勢は変わらない」「もう一度言うが、大統領にナワリヌイ氏の釈放を要求する」
ロシアの、他国への力ずくの姿勢や、野党勢力への露骨な弾圧を例に挙げ、プーチン大統領に、鋭く切り込むメルケル首相。舌戦の背景には、ロシア・中国に代表される国家主義的な考え方と、欧米諸国が掲げる民主主義の理念との、深い溝があります。現に中国も、アメリカのアフガン撤退について、
中国外務省・汪文斌報道官(31日)「(米軍のアフガン撤退は)他国を恣意的に軍事干渉し、自国の価値観や社会制度を他国に押しつける政策は通じず、失敗に終わることを証明した」
同じような表現で、アメリカを批判した中国とロシア。両国は共に人権問題や強引な外交姿勢で、国際世論の批判を浴び、こうした批判は内政干渉だ、と足並みをそろえて反発してきました。さらにアフガン情勢による混乱の波及を防ぎたいという狙いもあり、先月、両国は1万人以上が参加する合同軍事演習を実施しています。
そして今、自国の利益を優先させ、アフガン撤退を決行したアメリカ。そこには、民主主義の旗降り役として君臨した姿はうかがえません。自由・民主・平和など、第二次大戦後の国際社会が掲げてきた、人類共通の普遍的な価値観が、薄らぎはじめたこの時代。アフガンの姿は、海を隔てて、米・中・露の大国のはざまに位置する日本にも、何かを問いかけているように見えます。