2019/4/21 風をよむ「ノートルダム大聖堂の火災」
●ノートルダム大聖堂の火災発生に”支援の手”
●”支援の手”はかつて日本の歴史的建造物でも・・・
●文化遺産の破壊行為に走る人に国際的批判
パリ市民「私たちの心は打ち砕かれました。動揺しています」「1000年の歴史があり、フランスそのものが傷つきました…」
15日、フランス・パリのノートルダム大聖堂で火災が発生。シンボルともいえる高さ90メートルほどの尖塔が焼け落ちます。
フランスが世界に誇る貴重な文化遺産を見舞った悲劇は、フランス国民のみならず世界に強い衝撃を与えたのです。しかし、火災発生直後から再建のための支援の申し出が世界中から相次ぎ、既に寄付金の申し出が1000億円に達したといいます。貴重な文化遺産の被害を前にして、多くの人が支援を申し出るケースは、過去、日本でも見られました。
現存する世界最古の木造建築とされる世界遺産・法隆寺。1949年1月、本尊である仏像がまつられている金堂から火災が発生し、国宝の壁画などが損傷しました。
国中が大きなショックに覆われましたが、すぐに再建運動が起きたのです。
1954年の修復作業(当時のナレーション)「奈良の法隆寺では、金堂の解体修理が9分通り完成、飛鳥時代のおおらかな姿を取り戻しました」
そしておよそ6年後の1954年11月、法隆寺金堂は再建されたのです。
一方、室町幕府3代将軍・足利義満によって建てられた京都の金閣寺は1950年7月、放火によって全焼してしまいました。このときも再建を願う声はすぐに日本中に広がり、寄付金が次々と寄せられます。
1954年の修復作業 (※当時のニュース)「もう一度美しい姿を見せて下さいと外国のお客さんからも寄付金が寄せられるなど、完成の日が広く待たれています」
そして全焼から5年後の1955年、創建当時の姿に復元されたのです。
街録「文化遺産とか世界遺産、それは代々受け継いでいきたいものだから、という意識がやっぱりある」「人類の歴史をそのまま示しているものなので是非残してもらいたい」
ところが、こうした貴重な文化遺産をあえて破壊する暴挙に及ぶケースも見られます。
2001年、アフガニスタン・バーミヤン渓谷にある、遺跡群の大仏が、イスラム原理主義勢力・タリバンによって破壊されました。国連はじめ国際社会からの制止の声を無視して行われたこの行為に世界中から憤りの声が上がり、ユネスコ=国連教育科学文化機関は「文化に対する罪だ」と強く非難したのです。さらに・・・
イスラム国兵士(2015年2月)「預言者ムハンマドは偶像を破壊するよう命じた。こうした破壊は神が命じているため数億ドルの価値があろうと関係ない」
2015年、過激派組織「イスラム国」は占領したイラク・モスルの博物館で、貴重な文化財を次々と破壊する映像を公開。
さらに、イスラム国はおよそ3000年前に栄えたイラク北部の「ニムルド遺跡」、そしてシリア中部の「パルミラ遺跡」などを相次ぎ破壊したのです。国の違いを超え、多くの人が貴重な文化財の修復・再建のため手をさしのべる一方で、その破壊行為に走る人々もいる現実を、文化人類学者の上田教授は・・・。
上田紀行・東工大教授(文化人類学)「その国の象徴的なものを攻撃することによって、最大限の恐怖であるとか、最大限の怒りであるとか、そういったものを引き出すことができる、それがテロリズムということですね。しかしながら、文化財は一方で、国境を越えた価値も持っている」
こうした文化財の価値を上田教授は…
上田教授「全てが経済化されて、全てが儲かればいいんだ、効率的に運ばなければいけない、という中で、お金では計り知れない、何か変わらない価値を持ち続けている。その遺産があることによって自分たちの文明、自分自身の存在が支えられているというような畏敬の念をかきたてる部分がある。そのことが逆にこれだけ毎日毎日変転していくような変化の激しい現代の中では重要さを増していると思えます」
火災発生の2日後の同じ時刻に、フランス各地で鳴り響いた連帯の鐘。今回のノートルダム大聖堂の火災は、こうした文化財が私たちに持つ意味を改めて問いかけています。