「ディープラーニングの現在地 AI研究の第一人者に聞く“今学ばなきゃいけない理由”とは」松尾豊さん(後編)
AII研究の第一人者である、松尾豊(まつおゆたか)教授が注目するこれからAIが伸びる分野とは? そして、やっぱり気になるのは・・・。
人間はAIに仕事を奪われてしまうのか?後編もAIについて、たっぷりお伝えします。
AI化を進めた方がいい分野は?
ミイナ:
松尾先生の目から見てこういう分野本当もっと進めた方がいいのにって言う分野ってあったりするんですか。
松尾:
いっぱいありますね。僕はどっちかって言うとやや長期的なところに興味あるんですけれども・・・
めちゃくちゃ手作業が多いんですよね。あの特に最終工程とかってなるとその付加価値のかなり大きい部分を人手の作業でやってて、まあコックさんとかね、調理してる方もそうだし、食品工場で働いてる方もそうなんだけどもその辺りとか自動化できていくはずで、それがまた日本だけじゃなくて世界全体で変わってくるので・・・
そういうあたりとか僕はすごく面白いなと思いますね。
AIが「食」の分野に入ってくると・・・
ミイナ:
何かあのGAFA。フェスブックとかアマゾンとかグーグルの食品分野バージョンが出てくるんじゃないかって言う。
松尾:
基本的一日の出費の中で一番大きい割合が食であることが多い。
ミイナ:
そうですね。今日は何にもお金使わないぞって思っててもまあ食べないわけにはいかないですもんね。
松尾:
そこが非常にその労働集約的で全然デジタル化されてなかったっていうとこに、まあデジタル化され、そこにAI、ディープラーニングが入ってきてってなると、非常に大きい変化がありそうですよね。
ミイナ:
まだまだスーパーだとか、そのたくさん例えば食品工場でも全然分かんないんですけど、豆をえり分けたりするのとかはきっと人間が手でやってると思うんで。
松尾:
そうなんですよ。めちゃくちゃ人がたくさんでやってまして、まあ究極的には日本のコンビニのようなことが全店舗で、全世界で展開出来、しかもその食品工場の人で、日本の方とか非常に丁寧にやるので、非常に清潔にやりますし、そういう手作業でやってる部分が自動化されて同じ品質でその国に合わせて届けられるとかですね。そんな感じに最終的に僕はなると思うんですよね。
「人事」もAIがやったほうがいい
松尾:
もう一個、人事とかね。人事とかAIがやったほうがいいんじゃないかなって言うことですね。
ミイナ:
最近よくちょっと何かコマーシャルで人事部長が頑張るよりも、AIが頑張ったほうが適材適所が出来るみたいな。
松尾:
そうですね。そこもやっぱりかなり何ていうか、人がやっていて、まあ勘と経験でやっていて、そこらへんもテクノロジーがどんどん進んでくるし、最終的にやっぱり仕事ってすごく人生の中で大事なので、そういうシステムっていうか、プラットフォームみたいなのって僕はすごく大きなビジネスになっていくんじゃないかなと思いますね。
人はAIに仕事を奪われるのか
ミイナ:
まあ何かそうなってくるともう本当によく言われる話で恐縮なんですけど、人事とか総務とか経理とかそういうところはもう・・・
松尾:
あの自動化されるとこはどんどんされて行きますね。そうは言っても、あと人の能力って非常にその柔軟だし、なんていうか色んなことに対応できるのでまた新しい仕事が出来て、その中でやっていくんじゃないすかね。どっちかって言うとその、まあ意味的な消費って言うか・・・
ソフトバンクグループ社外取締役の仕事
ミイナ:
ソフトバンクではどんなようなお仕事をされてるんですか?
松尾:
そうですね、社外取締役っていうのに6月からなって。
ミイナ:
あのどんなテーマで動いてるんですか?すっごく大きく言うと。
松尾:
まあソフトバンクグループ全社的にそのAIに対して取り組んでいこうと、投資をしていこうということをやってるので、まあそれをその世界中でビジョンファンドって言うのがすごい額の投資をしているわけですけども、まあそこに一直線っていう感じですよね。
AIに対する投資
ミイナ:
何か投資をするにしてもテクノロジーのリテラシーがないと中々出来ないっていう所で。
松尾:
ええ、でもあれなんですよ。
もう勉強してもらわないと困るんですっていう感じで、でもそれが出来たからOKなわけではなくて、
20代・30代のビジネスマン向けAI教育の大切さ
ミイナ:
そうなると例えば今現役で頑張っている、20代後半とか30代ぐらいのビジネスマンにまあこのAI教育をするっていうところはちょっとチャンスがありそうですよね。
松尾:
そうなんですよ。でその辺の方に是非その技術のことを理解してほしいなと思いますし、だから堀口さんとかも是非勉強して欲しいなと。
ミイナ:
そう私も勉強しないととちょっと思ってるんですよね。あの実はちょっと前にこの松尾先生も監修されているこちらの本を見つけたんですけれども、このディープラーニングのジェネラリスト検定って言うのが今こういう形で検定になってるんですね。
松尾:
そうですね。日本ディープラーニング協会っていうところでやってまして、G検定とE資格ってあってですね。まあGの方がビジネスパーソン向けにそのAI、ディープラーニングの一般的な知識を持っといてねというようなタイプの試験でE資格の方はエンジニア向けにプログラミングとかその処理的な背景とかそういうことを理解してくださいねっていう、そういう試験ですね。
ミイナ:
なんでこれはビジネスパーソン向けということなんですけど、これを例えば検定受けて受かるとどれぐらいまで自分は知ってるっていえるんですか?
松尾:
やっぱりその全体像が分かりますから、なんていうか例えばベンダーさんと話したときに相手が言ってる内容って言うのが結局「こういう技術のことを言ってるのね」とか、自分が持ってる課題に対して「このベンダーさんはこの技術を使おうとしてんのね」と、でもその例えば「精度についての検証とかはしてないのね」とか、そういうのが分かるんですよね。そうすると、まあ適切な突っ込みが出来て「何でこれやってないんですか」とか「もっとこういう手法もあるのになんでこれ使わないんですか」とか。
ミイナ:
すごい出来るビジネスマン風になれるじゃないですか。
松尾:
そうなんですよ。やっぱりそのビジネスパーソンの側がちゃんと分かってると開発してる側もいい技術かどうかっていうのを見てくれるし、逆にその騙しにくくなるんですよね。だからその全体としてすごくいい形でエコシステムが発展していくんじゃないかなという風に思ってますね。
ミイナ:
何か私もパラパラと見てみたんですけど、結構絵とか写真も多いですし、だからこれまでの変遷が学べたりとか何か中々面白い感じで受けられるんじゃないかなって印象で。
松尾:
けど結構難しいっておっしゃる方多いんですけども、でもやっぱり、前回も5000人ぐらい受けていただいてまあどんどん増えてんですよね。
松尾:
すごい勢いで伸びて行っててやっぱり世の中、ニーズあるのかなと思います。
高専生へのディープラーニング指導
松尾:
高専生にディープラーニングを教えるっていうのをやってて、高専生って機械とか電気強いんですよね。ものづくり強いのでそこにディープラーニングやるようになると画像認識して認識した結果に基づいて動くようないろんなマシーンを作れちゃうんですよね。ディープラーニングとハードウェアを組み合わせたプロジェクトを持ってきてくださいってコンテストしますっていう高専Dコン、ディープラーニングコンテスト、っていうのを今年の4月にやりまして、全国の高専18校から応募があってその中の8校が決勝進出っていう・・・高専のコンテストって技術のよしあしを競うんですよ。
でも高専Dコンは技術×ビジネスのかけ算が大事なんでビジネスとしての評価を競うって感じで、ベンチャーキャピタルの人に審査員に来てもらって、バリュエーション評価ですね。
このチームが会社だとしたらいくらのバリュエーションにしますかっていう決めてもらって。
ミイナ:
リアルに評価してもらうんですね。
松尾:
高い方が勝ちっていう。見事優勝したのが長岡高専、新潟の。これがバリュエーション4億円。で優勝。
優勝チームの作品は 製造現場のアナログメーターを撮影した画像をリアルタイムで解析することで点検作業などを自動化する、というもの。新潟県内の食料品メーカーへの展開を目指しているということです。
優勝チームは4億円の評価
松尾:
自分たちのプロジェクトがもし会社だとしたら4億円の価値があるっていうのは「えっ」て思いますよね。
ミイナ:
「えっ」て思います。
松尾:
2位の香川高専も3億円でまたこの値段が面白いんですけど、技術的にはほとんど変わんないんだけど例えば7位、8位のチームはゼロ円なんですよ。一生懸命やってるし、ちゃんと動いてるんだけど基本的にVCから見ると投資するの難しいねという感じで。
ミイナ:
1位と7位の差は?
松尾:
1位と7位の差は結局・・・
というそこだけですね。
当たり前だけど。どれくらいたくさんの人がどれくらいたくさん困ってるかっていうそれを解決できますかっていうところでビジネス上の価値は決まっていくのでうまく設定すると価値も非常に大きいし、そこがひとりよがりで自分が勝手にみんなこれが欲しいんじゃないのと思っても実はみんなそんなの欲しくなかったとかってなると価値っていうのはほとんどないっていうことになっちゃう。
ミイナ:
4億円バリュエーションもらえたチームはそこからなにか結びついた?
松尾:
起業しようとがんばってるみたいですね。1位も2位もしようとがんばってますね。
ミイナ:
高校生でそういう経験ができたら将来のためにもできますよね。
松尾:
考えてみればそういうところからトヨタとかホンダとか松下電器とかソニーとかそういう会社が育っていったわけなんでやってたのは若者ですから。そういうところから世界的な企業ができてきてもおかしくないはずだと思ってます
ミイナ:
よくよく考えれば当たり前じゃないかと。
人生を変えた本
ミイナ:
人生を変えた本とか映画ってありますか?
松尾:
AIに関連するところだと「考える脳 考えるコンピューター」っていう本があって、それはディープラーニングが出てくる前に知能っていうのがこういう風にできてるんじゃないかって。特に予測っていうのが非常に重要で脳は次に起こることを予測するようなマシンでそれがベースになってできてるんじゃないかっていうのをいろんな形で書いてあって、それはすごく僕もそうだなと思いましたし、人工知能研究者の中で評判になったんですけど、それは研究上のひとつの方向性を考えるのに参考になったなと思う。
人工知能と人間の脳の関係
ミイナ:
松尾先生の話を伺ってると人工知能は完全にテクノロジーだと思いきや、人間の脳とのリンクをとても意識されていて、お話されることが多くてそれは人工知能って人工的に脳をつくるっていう、そういう作業も含まれてると思うんですが人間の脳と比べたりとか似通ってるところも・・・
松尾:
人間の脳は非常に複雑だし、非常に巨大なシステムなんです。例えば今人工知能でできているディープラーニングの技術がひとつのトランジスタを作るっていうことだとしたら人間の脳って全体でいうとパソコンとかスマホとかめちゃくちゃ小さいトランジスタが何億個も集積してできているような感じ。単純に人間の脳と比べるっていうのはなかなか難しいですけど、ディープラーニングで技術的な突破ができてきたので、
ディープラーニングの進展としても画像認識、音声認識できてきて、次が言葉。
ディープラーニング次は言葉の領域へ
言葉のシステムって人間だけが持っていて、他の動物基本持ってないんですけどそれって特殊なシステムになっていると思っていて、空間的な認知っていうのがベースにあると思うんですけど、空間を想像し、その中で動かすことができるっていうシステムを言語的なシステムが使ってるんですよね。そういうその仕組みっていうのがこれからわかってくると思うし、
アルゴリズム的に見えてくるというのが僕にとって面白いというか・・・
ミイナ:
やっぱり人間なので自分自身のことが知れるのが一番楽しいというか面白いところになってくる。
松田:
僕は完全にアルゴリズムだと思っているので、どういうアルゴリズムなのかなって知りたいですよね。
「予測する」ということ
ミイナ:
たとえば番組のホストをするにあたってタイムキープとか脳の端でやったりとか予測とかしようとしてみてもだいたい外すんですよね。予測したとおりにならないっていうか。
松田:
長期的な予測っていうか・・・は外れるんですけど、「次にこの人しゃべりそうかどうか」とか「こういうことを言ったあとはもしかしたらこういうことを言うんじゃないか」とかそういうのも全部予測してるんですよね。だからちょっと違うこというと、びっくりするとか。びっくりするっていうのは予測してないとできないですよね。
ミイナ:
何も予測してなかったらびっくりもできない。
松田:
常に予測しながら。番組の進行とかは長期的な話に入ってくるのでちょっと難しいです。
一番苦労していることは?
ミイナ:
これまでの苦労したとか壁をのりこえてきたとか・・・
松尾:
2005年からスタンフォードで研究していたんですけど、結局、グーグルのほうが強いんですよね。ウェブの研究してたんですけど、グーグルのほうが強いっていうのは・・・
ミイナ:
何に比べてですか?
松尾:
僕がいくら研究しても アルゴリズムとか作るじゃないですか。グーグルのほうが強いんですよ。当たり前なんですけど。それってなぜかっていうとグーグルが事業を作り出して売上げ利益をあげて、それでいい研究者を雇うということをやっている。そこに僕がひとりで研究していくらがんばっても勝てない。今の時代の情報系の研究っていうのは後ろに補給路がちゃんと作れるかどうかの戦いなんですよ。なのでビジネスを生み出すとかビジネス企業の方にサポートしてもらうとかそういうのがすごく大事で。
ミイナ:
研究者の方が一人で研究して戦うっていうのだとやっぱり勝てない?
松尾:
そういう時代じゃなくなっているので、そこが一番苦労しているところ。
気になるニュース
ミイナ:
最近松尾さんの中で気になったニュースとかってありますか?
松尾:
進次郎さんの結婚とか。
ミイナ:
進次郎さんとは仲良しなんですか?
松尾:
仲良しっていうのもそんな偉そうなもんじゃないですけど、たまにお会いしたりとかはあります。
ミイナ:
AI的な分野で気になったニュースとかって。
松尾:
ディープラーニングの分野ですごく有名な先生が3人いてヒントン先生とベンジオ先生とルカン先生っていうんですけどその3人がチューリング賞っていうのを受賞されて。
コンピューターサイエンスでのノーベル賞という感じ。ディープラーニングをずっとやり続けて今の成功に導いた先生方が取ったっていうのが大きなニュースでしたね。
AIの権威3人が「チューリング賞」を受賞
松尾:
その3人の先生は冬の時代頑張ってきたんですよ。一時期めちゃくちゃ下火になってて、誰もやってなかったような領域を何十年もやり続けて、それを成功に導いたっていう本当にすごい方。
ミイナ:
冬の時代に耐えて頑張るってことがポイント。
松尾:
そうですね。研究の場合は自分の興味・・・
若者に伝えたいこと
ミイナ:
10代、20代の若者に伝えたいことって・・・
松尾:
ミイナ:
活躍できますか?
松尾:
できると思います。インターネットの1990年代後半と今ってすごく似てると思っていましてテクノロジーを勉強するといろんなところにチャンスがある。若い人に非常に大きなチャンスがあるっていう時代だと思う。
ミイナ:
文系でも大丈夫ですか?
松尾:
文系とかあんまり関係ないので。
ミイナ:
文系・理系関係ないってよくいいますよね。そういう風に分けてる時点で時代遅れ。
松尾:
ミイナ:
大きいですよね。インターネットの黎明期となんと環境が似てるとおっしゃられてる。
松尾:
そうそう。
ミイナ:
うかうかぼんやりしている場合じゃないと。
松尾:
インターネットの黎明期に「私文系ですから」とかいうのもったいないじゃないですか。勉強すればいいだけで。HTMLの書き方とかウェブサーバーの立て方とかそんなの勉強すればわかるんで。っていう感じですよね。
ミイナ:
それでサービスを作ってみるとか目標を立ててがんばってみるとチャンスが開けてくる。若者の時代にしていきたい。
松尾:
いやでも 完全にそうだと思いますよ。僕は。日本の社会が若者の力を生かさないようにできちゃってるので少なくともITとかAIの分野は若い人活躍してもらわないと困るというか・・・
なのでそういう人の能力を生かしていくっていうのがすごく大事だし、若い人にとってはチャンスばっかり。
ミイナ:
今背景に写っているこちらの画像は?
松尾:
これはグーグルの本社にあるビーチバレーのコートですね。
ミイナ:
グーグルの本社はアメリカ。
松尾:
アメリカのマウンテンビューというところなんですけどシリコンバレーの。
ミイナ:
10年くらい前に毎年1回か2回学生つれてシリコンバレーに行くっていうのをよくやってたんですけどで、そのシリコンバレーがどんな風に勉強して、会社生み出してそれが大きくなって世界を変えるかっていうのを見てほしいと思って案内してもらって、昼ご飯のあとにバレーして遊んでるっていう。本当に働きやすい感じですし、それもGoogleの創業者たちがテクノロジーベースに検索エンジンっていうすごいシステムを作り上げて大きなビジネスにしたから従業員の方も環境良く働けるという感じで。
松尾:
当時連れて行った学生の中から会社を作って起業して頑張ってる人とかシリコンバレーでがんばってる人とかいろんな活躍する人が出てます。
ミイナ:
やっぱり自分の目で見て感じてみると全然違いますよね。
松尾:
世界のいろんなところに行ってみるといいと思いますしその中で自分の可能性を広げていけるといいなと思います。
ミイナ:
きょうは本当にいろんなお話ありがとうございました。
【前編はこちら】