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【後編】地域をつなぐ「餃子」のチカラ!障がい当事者と共に、挑戦が認められる社会を切り拓く〈ソーシャルビジネス探検記#3〉
社会課題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」について、皆さんと一緒に「探検」していくこの連載。
「就労困難者の雇用問題」をテーマに、餃子店「はじまりの餃子とつながりのビール」を運営する一般社団法人ビーンズ代表の坂野拓海さんにご取材。
坂野さんがなぜ就労困難者というテーマに向き合うことを決めたのかや、今までの挑戦についてお話いただいた前編に続き、今回は、現在の挑戦について、若者へ大事にしてほしい事を伺いました。
前編はこちら👇
福祉と農業のこれからを支える「餃子」
そんな坂野さんの現在の「挑戦」が、餃子店「はじまりの餃子とつながりのビール」です。ここで挑んでいるのは就労困難者の方が店舗運営に関わりながら、小規模都市近郊農家の課題にも同時に向き合う「農福連携」の取組みです。
連携するのは神奈川県藤沢市でブランド豚「みやじ豚」を生産する株式会社みやじ豚。
その背景にあるのは、先ほどと同様「相手が求めていること」でした。
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「代表の宮治さんとは、もともと草野球チームが一緒だったんです!詳しく仕事の話を聞くと『社員の仕事はすでに精いっぱいで、中々規模を拡大できない』という悩みがあると分かって。何かお手伝いできることはないかなと考えたときに、コーヒーの生産で培った加工分野なら協力できるぞ、と思い至りました。コーヒーに関するモデルケースはこれだけ広げられた、次は地域の農家と組んで業界を広げる……そんな事例を作りたいと思ったんです」
そうして作られた餃子は、肉汁たっぷりでボリューム感のある仕上がり。タネとなる肉はこれまで廃棄同然で扱われていた豚の腕肉やもも肉を使っているとのことですが、通常の餃子以上にパンチのある味付けが魅力的でした。
(ちなみに、当初はソーセージを作ろうと考えていたそう。綿密な市場調査と商品の試作を繰り返した結果、この餃子に行きついたと教えてくれました)
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一方、「店舗運営」という新たな事業形態には、難しさがついて回ると教えてくれました。
「特に難しいのは店舗のマネジメントですね。経験が必要だけど、例えば餃子づくりのオペレーションを考えたり、加工の技術をつけたりするのは、他の仕事に活かしにくいものなんです。そうすると人材を自分たちの手で育成しないといけないですが、障がい者スタッフは働く時間も安定しなかったり、覚えるのも時間がかかったり……と難しい状況も多い。そういった状況でも踏ん張って頑張れるマネージャーの育成が、福祉における店舗運営では重要だと感じています」
そういった困難と向き合うやりがいを、坂野さんはこう語ります。
「何もなかったところから始まっているので、メンバーの熱意によって多くの人から評価を受けているのがなにより嬉しいですね。例えば今作っているクラフトビールは1,500近い作品がエントリーするコンテストで銀賞・銅賞を取れるなど、他と比べても高い質であることが徐々に知られてきました」
「まちなかに溶け込んでいる福祉施設でありたいんです。普通だけど、その中で障がい当事者たちが活躍している状態が大事。それこそが『挑戦が認められる社会』につながると思うんです」
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坂野さんは常に、目先の事業にとらわれない長期的な視点を持っている方だと感じました。一方、足元にある障がい者との向き合い方についても、重要な考えを持っています。
「できることとやるべきことの折り合いをつけるのが大事だと思うんです。福祉領域は通常のビジネスと違って、『目的に向かう』のも『目的を達成した後の利益』を得るのも障がい当事者。だからこそ、彼らが実際にできることは何か。彼らに寄り添って現実的に一歩ずつ進めていくことを意識しています」
常に相手目線をもって動くことの大切さ。私と話す際も、一方的な回答ではなく、私の仮説やこれまでの経験など傾聴してくれ、「相手に興味を持つ」姿勢をもって温かく接して下さいました。坂野さんはこのような姿勢で一人ひとりに向き合ってきたからこそ、福祉領域で成果を残してこられたのだと実感しました。
出会いを大切にする
最後に、次世代の社会を担う「若者」に対して大事にしてほしいことを伺いました。
「たまたま出会ったことや人、偶然の出会いを大切にしてほしいです。障がい者と接したボランティアでも感じたけれど、人と30秒話すだけで物事に対する印象って大きく変わります」
「こういうソーシャル・グッドな取り組みって、なんだか重く捉えられすぎだし、話す方も硬く話しすぎだけれど(笑)、自分の人生を豊かにするために必要だと思えばやればいいんじゃないでしょうか。(行動を起こす)きっかけは受動的でも、そこに自分の能動的な感情が合わされば、自分が取り組む意味付けはできる。そんな風に様々な出会いを大事にして『これが自分のミッションだ!』と言える状態になれたらいいなと思います」
若者に伝えたい”ひとこと”
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「構えずに、自分がやりたいと思ったことをやってほしいです!」
若者に伝えたい一言を伺い、悩み抜いた末に坂野さんが書いてくれたのは「直感」という言葉。坂野さんは旅行が趣味だそうで、1年間で86か国をまわったご経験もあると言います。そんな圧倒的な行動力の背景には、一つ一つの出会いを大切にして、自分が取り組む物事の意味を見つけていく思考があるのだと感じました。
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