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【前編】地域をつなぐ「餃子」のチカラ!障がい当事者と共に、挑戦が認められる社会を切り拓く〈ソーシャルビジネス探検記#3〉

社会課題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」について、皆さんと一緒に「探検」していくこの連載。

前回に引き続き「就労困難者の雇用問題」をテーマとし、今回は、東京都杉並区方南町で餃子店「はじまりの餃子とつながりのビール」を運営する一般社団法人ビーンズ代表の坂野拓海さんにお話を伺いました。

一般社団法人ビーンズさんは、トラストバンクの「休眠預金活用事業」を通じて、併走させていただいている事業者さんのひとつです。

そんなビーンズさんの新しいお店、「はじまりの餃子とつながりのビール」は、一見すると普通の餃子屋さんですが、その裏には「就労困難者」という社会課題に真摯に向き合う姿がありました。なぜ就労困難者というテーマに向き合うことを決めたのか?餃子と福祉がどう関係しているのか?

餃子以上に熱い情熱を持つ、坂野さんの「挑戦」に迫っていきます!

前回の記事は以下から👇

「行動力」で道を拓く

一般社団法人ビーンズ代表 坂野拓海さん

新卒からは経営コンサルタントとして激務の日々を送っていたという坂野さん。この職業を選んだ経緯には「行動力の塊」と言える坂野さんの熱い想いがありました。

「とにかく『面白い仕事がしたい』と思っていたのですが、どんな仕事があるのか分からない。それで『創業者100人に会ってみよう!』と行動しました。仕事への解像度を上げるとともに、創業者目線を知ることは、面接対策にも活きるぞ、と思い、とにかく色々な人に会って『お仕事について教えてください!』と言って周っていましたね(笑)」

そんな活動を通じ、様々な方々に会う中で、“誰かのために動くこと”、”物事の戦略を考えること”が好きだ、と思い至り、経営コンサルタントを志し始めたそうです(まさにこの活動も「戦略」!)

しかし当時はインターネットの普及黎明期であり、現在ほど容易に人とつながれる時代ではなかったのでは?すると坂野さんはこう教えてくれました。

「6次の隔たりってご存じですか?6人の人を数珠繋ぎで辿れば、世界の誰とでも会えるという考えです」

その言葉通りに、時には社会人の先輩に突撃して怒られる経験をしながらも、坂野さんは圧倒的な行動力で就職活動を進め、見事希望する会社への就職を果たしたのです。

「人が見える」仕事がしたかった

入社後、そこで待ち受けていたのは、想像をはるかに超える業務量でした。数十~数百億円が動くような大型プロジェクトをいくつも担当する中で、気づけば規制を大幅に超える残業時間となっていたそうです。

「当時『コンサルは10年経つと体が持たない』って言われていたほどの激務で。また、誰かのための仕事がしたい、と思っても、案件の大きさ故に自分がどう貢献できているか分かりづらい。そこで改めて自分の将来を考えたとき、もっと具体的に『人(相手)が見える』仕事をプレイヤーとしてし続けたい、と思うようになりました」

そういって坂野さんが選んだのが「人事」の仕事であり、これが坂野さんと福祉の世界を繋げるファーストステップでした。異動で障がい者雇用を担当することになったのです。
そこで、坂野さんは驚くべき状況に直面しました。

「当時は(障がい者に対する)偏見がひどかったんです。特に精神疾患を持つ方に対しては雇い主となる会社の社長からも強い差別があって。そこで障がい者の方の実情をもっと知りたいと思い、地域の障がいを持った子どもたちと接するボランティアに参加してみたんです」

実際、障がい者総合研究所(2017)によると半数以上の人が日常生活で差別や偏見を感じたというデータがあります。

日常生活における、差別や偏見を受けたと感じる場面についての調査
障がい者総合研究所「障がい者に対する差別・偏見に関する調査」(2017/12/06)より引用


ここでも坂野さんは持ち前の行動力を発揮します。
一度きりのボランティアに参加して終わり、ではなく、周りの社会人の仲間にも声をかけ、気づけば100人規模の仲間と共にボランティア活動をしていたそうです。

しかし、規模が大きくなりすぎたことで運営が困難になったことから一度はボランティアの実施を中止しました。ですがこの時には「残念」、「辞められたら困る」という障がい者やその家族の声で溢れており、中止を後悔。そこで坂野さんはその活動を法人化して形態を整え、改めて仲間とともに活動を再開しました。

障がい者雇用をめぐる「3つの課題」

本格的に活動を再開するにあたって大切にしたのが、「自分たちがやりたいことではなく、誰かが求めていることをやろう」というスタンスでした。
そんな中、障がい者雇用の実態を見て、坂野さんはある問題を認識したのです。

「ハローワークに行って障がい者雇用の求人を調べたところ、1,800件以上の募集がありました(2016年当時)。しかしながら、職種の選択肢は限られており、本人の希望や適性に合わせて『仕事を選べる』状況とは言えませんでした。そこで、障がいのある方々が、より主体的に自分のキャリアを選択できる環境づくりが必要だと感じました」

この「障がい者に選択権がない状態」に課題を感じた坂野さんは、障がい者がやりたいことをやれる社会を作るべく動きます。そこで着手したのが千代田区の珈琲焙煎所「ソーシャルグッドロースターズ千代田」です。

「千代田区で障がい者と話たときに『人と関わりたい』『手に職をつけたい』という声があったんです。当時は『障がい者にそんなことができるわけない』と言われたりもしましたけど、僕は、やりたいという“目標”とできない”現状”の間を埋めるのが”挑戦”だと思うんですよね。今まで彼らには、挑戦する機会がなかっただけなんです」

第二の課題として「挑戦する機会がない状態」を認識した坂野さん。この課題解決は決して簡単なものではありませんでした。健常者と比較しても遜色ないほどのクオリティを、完全未経験の障がい者が追求していく。この難しさを乗り越える秘訣について、このように教えてくれました。

「常に事業の先にいる『人』を意識することが大事です。福祉は完全な収益事業でも、ボランティアでもありません。だからこそ単に売り上げが立つだけではダメで、その先に『障がい者が認められる社会』を作れるかどうか、そこにこだわっています」

売上げが立てば短期的に事業をまわすことはできます。しかし長期的には「障がい者の挑戦」が社会に受け入れられて認められる状態でなければ、福祉事業に持続性は生まれません。

今ではコーヒーを手掛ける福祉施設は約280個あり、6年前と比較すると約7倍に増加したそうです。このように、坂野さんは「挑戦が認められる社会がない状態」に向き合い、先駆者として障がい者が活躍できる場づくりに邁進してきたのです。

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後編では、そんな坂野さんの現在の「挑戦」や、若者に伝えたいことをお伺いします。

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