労働力不足ではなく「活躍機会不足」?就労困難者の雇用問題から見えてくる、社会課題への多様なアプローチ
こんにちは!地域創生ラボ学生研究員の岡田です。
この連載では、社会課題をビジネスで解決する「ソーシャルビジネス」について、皆さんと一緒に「探検」していきます。
今回のテーマは「就労困難者の雇用問題」です。
※「ソーシャルビジネスとは?」前回の記事は以下をからご覧ください!
「就労困難者」とは?深堀してみる!
『一億総活躍』というフレーズが国から掲げられてから約10年が経過しましたが、日本の就労状況には「人手不足」と叫ばれるように厳しい課題が山積しています。その一方、社会には働くポテンシャルを持ちながらも十分な社会進出ができていない人々が多く存在します。
就労困難者の現状と課題
まず「就労困難者」という言葉の定義から見ていきましょう。
皆さんが”就労困難”者と聞いてイメージするのは、身体的もしくは精神的な障がいを抱えた方ではないでしょうか。しかし「就労困難者」という言葉にはこれらの存在に加え、社会的に不利な状況に立たされている方(社会的障がい)、教育機会が制限されたこと等で知識習得が難しい方(教育的な制限)も含まれています。
これと似た言葉に、「”就職”困難者」というものがあります。これは失業保険や失業手当といった給付を受ける際、より長期間の給付や受給に必要な求職活動の回数を削減できる等の優遇を受けられる対象として、雇用保険法に定義されている人々のことを指します。主に身体障がい、知的障がい、精神障がいといった状態にある人々がこれに該当します。
一見するとこの2つの言葉に大きな違いはないように思えるかもしれません。「就労困難者」にはどんな人が当てはまるのか、より詳しく見ていきましょう。
上記の調査では、就労困難者に該当する人々は約1,500万人、日本国民のうち8人に1人が該当するとされています。注目してほしいのは左側に並んだ項目です。これを見ると、就労困難者とは非常に広い概念であることがお分かりいただけるのではないでしょうか。
例えば難病やがん、依存症といった健康状態に起因するものや、LGBT等の社会的偏見に直面している人も含まれるのです。実際、厚生労働省の「令和元年度 職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」によると、LGBTの約4割、トランスジェンダーの約5割が職場で困り事を抱えていることが判明しています。
これだけ多くの人が働くことに課題を感じ、支援を求めているという事実があるのです。
「働く」ことをめぐる日本の課題
次に、就労困難者を含めた「働く」ことに関する課題を見ていきましょう。
既に多くの指摘がされている通り、日本では2030年までにすべての都道府県で人口が減少し、2045年には総人口が1億642万人にまで落ち込むとの予測があります。この傾向は続き、2065年には人口が8,808万人に減少し、65歳以上の高齢者が38.4%を占めるとされています。そしてそれに比例して、人口減少の影響により2040年までには1,100万人以上の労働力不足が予想されています。
この問題に対しての、現実的かつ根本的な解決法こそが、「就労困難者の社会活躍」ではないかと、私は考えています。
先ほどもデータで示したように、日本の就労困難者は約1,500万人であり、中長期的に見た日本の労働力不足の人数を上回る規模となっています。
また、彼らを支援することは単に労働人口を増やすということだけではありません。「働く」ことによる生きがいの確保、そして今までは社会保障費や医療費を”受け取る”対象だった彼らが財源を”作り出す”生産側としても活躍することで、公的支援の制度をより健全化できるとも考えられます。
つまり、就労困難者の活躍=当事者・雇用する会社側・行政の三者にとってメリットがあることと言えるのです。
就労困難者が社会進出するための、支援制度の現状
では、就労困難者の社会活躍とは具体的にどういうことなのでしょうか。まず重要なのは、法制度において目指しているゴールは「就職」ではなく「就労を通じた”自立”」であるということです。
単に職業を紹介したりそれに向けた訓練を行うのは「就職支援」ですが、障がい当事者のような方々に必要なのは職業をあっせんすることだけではありません。働くために必要な知識や能力を身に着け、一人ひとりの「自立」を促すことこそが、「就労支援」と言えるのです。
就労支援は「一般就労」と「福祉的就労」の2つに分けられる
「就労支援」とは、働くことに不安を持つ人に対し、働く機会の提供や必要な職業訓練を行うことで、「自立」を促す福祉サービスのことです。
就労支援は「一般就労」と「福祉的就労」の2つに分かれます。前者は通常通り企業と雇用契約を結んで働く形態です。一方の後者は障害のある方々が社会に参加し、自己実現を目指すための様々な支援を受けながら働く制度となります。それぞれについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
1. 一般就労をサポートする「就労移行支援」と「就労定着支援」
一般就労は、企業と雇用契約を結び、通常の従業員として働く形態です。この就労を目指すための支援が就労移行支援と就労定着支援です。
就労移行支援
一般企業で働くためのスキル習得や実務体験を提供する福祉サービス。
各地にある支援事業所や企業での訓練を通じて、雇用の選択肢を広げることができます。就労定着支援
2018年に創設された就労定着支援は、就職後に生じる職場や生活面での悩みをサポートする福祉サービス。職場環境の調整や相談を通じて、安心して長く働き続けられるよう支援を行います。
2. 福祉的就労を提供する「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」
福祉的就労は、障害や体調に配慮し、個々の希望に沿った働き方ができる就労形態で、「就労継続支援A型」と「B型」があります。
就労継続支援A型
一般企業での就職が難しい方が対象で、雇用契約を結び、一定のサポートを受けながら働きます。給料が支払われるため、安定した収入を得ながら自分のペースで働くことが可能です。就労継続支援B型
就職が困難な方や長時間の就労が難しい方を対象とし、雇用契約を結ばない形で作業を行い、工賃が支払われます。体力やスキルに応じて、無理のない範囲で社会参加できる点が特徴です。
こういった就労系障害福祉サービスから民間企業への就職は年々増加しており、厚生労働省の「障害者の就労支援について」によると、令和元年には2.2万人を記録しています。
一方、この報告によると「障害者の就労能力や適性を客観的に評価する仕組みが整っていない」「就労支援に関わる人材の、雇用・福祉分野の知識やスキルが不十分」といった問題も指摘されており、人材育成や拠点の統合・連携といった改革も引き続き求められているのです。
就労困難者の雇用問題を解消するために、私たちができることって?
ここまで見ていくと、私たちにできることは何があるのか疑問に思う方もいるかもしれません。いくつか事例を考えてみました。
1. 就労支援施設の製品やサービスを利用する
就労支援施設で働く方々は、地域のイベントに出店したり、ハンドメイドの作品を販売したりと様々な経済活動を行っています。身近なところで、就労支援施設の商品に目を向けることも、すぐに始められるサポートと言えます。
2. 情報をシェアする
「福祉的就労」「就労移行支援」と聞いても、まだよく知られていないのでは、と感じる方も多いかもしれません。こういった知識や制度について、身近なところから情報を広めていくことも私たちにできる支援の一つではないでしょうか。
3. 多様な働き方を尊重する職場づくりに協力する
企業や団体で働いている方にとっては、柔軟な働き方を受け入れる職場づくりに協力することも支援の一環です。先ほども取りあげたように、「就労困難者」の定義は非常に広く、身近な人にも働くことへの課題感を持つ人がいるかもしれません。職場全体で就労困難者雇用への理解を深め、多様な人材が共存できる職場を目指すことも支援になります。
今回のテーマのまとめ
今回の記事では、「就労困難者の雇用問題」というテーマで現状と解決策を深堀りしていきました。
次回の記事では、実際にこの分野で就労困難者の方と向き合いながら事業を進めている人に取材を行い、その想いを聴きだしていきます!