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挑戦者が見つけた地域活性のヒント

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さまざまな工夫から生まれた新たな名物、優れた技術、未来を変えようとする人々の想い――地域のチャレンジを応援し、新しい取り組みを伝える連載です。
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記事一覧

「苦労した木の魅力を伝える」まな板から始まる日本の自然回帰【ワンダーウッド】

都会での忙しい暮らしに疲れてくると、人は「自然」を求める。定期的に海や山に行きたくなったり、公園で緑に囲まれて癒されたり。自然の息吹に触れることで心身がリセットされて、また日常生活を頑張れたりする。 今回お話をお伺いした一枚板ブランド「WONDERWOOD」の代表・坂口祐貴さんも、「人間は自然と共生するべき」ということを痛感する一人。彼が多忙により都会での生活に疲れ果て、出合ったのは「一枚板」。木の温もりに触れて、健康的な心と生活を取り戻した。現在ではそんな一枚板を世に広め

「本物を正直にをモットーに」世界にも認められた原木椎茸【田中椎茸】

宮崎県の西南部に位置する高原(たかはる)町。霧島連山の麓にあり、温泉や湧水などの水資源が豊富な中山間地域だ。そんな自然豊かな土地で“原木しいたけ”の栽培を手掛けているのが「田中椎茸」代表の邊木園(へきぞの)浩子さんと良昭さんご夫婦。 スーパーで一年中見かける生しいたけの多くは、施設内で人工的に栽培される“菌床しいたけ”だ。短いサイクルで安定して収穫ができる菌床しいたけに比べて、原木しいたけは自然の中で栽培するため、多くの時間と手間がかかり、自然の気象条件にも大きく左右される

鉄フライパンを6万個以上売り上げた〝小さな町工場の復活劇〟【藤田金属】

数々のメディアで取り上げられ、販売累計6万個以上の大ヒットを記録している鉄フライパンがある。 スライドで簡単に着脱できる木製ハンドルと、外周にある幅広いリム(ふち)が特徴の『フライパン ジュウ』。鍋としても皿としても使える利便性とデザイン性の高さが話題となり、SNSから人気に火がついた。 作っているのは大阪府八尾市にある小さな町工場、藤田金属だ。 従業員19名の規模ながら、多くの大手企業やブランドとのコラボを次々に展開。新商品を続々生み出しているが、これまで幾度か倒産の

「手づくりには甘えない」130年続く醤油店、若き夫婦の挑戦【鈴木醤油店】

130年以上の歴史を誇る福島県岩瀬郡天栄村の「鈴木醤油店」。いまも「手づくり醤油」を堂々と名乗る老舗だが、その道にはさまざまな紆余曲折があった。震災で一度は途絶えた昔ながらの仕込みを、再び復活させた道程とは。小さな蔵を営む若き夫婦の、大きな志を追った。 訪れる前日は発酵食品、特に納豆は控えてください天栄村にある鈴木醤油店を訪れる前、そんなお達しがきた。発酵を扱う醤油蔵だからだろうが、訪れる前から少し背筋が伸びる思いがした。 訪問前日、発酵食品以外を口にせねばとあれこれ考え

「森が育つスピードに合わせて」必要以上に作らない家具メーカー【カンディハウス】

日本五大家具産地のひとつである北海道・旭川。 現在、旭川近郊地域に存在する家具メーカーは100社を超える。その中心を担うカンディハウスは、「旭川家具」を牽引する地場産業の最大手だ。 2018年に創業50周年を迎えた同社は、この先50年後を見据えたブランドの再構築(リブランディング)に取り組んでいる。 大量消費の時代から、本当に良いものを大切に長く使う時代へーー。コロナ禍による住環境の変化やSDGsの認知拡大で消費者の意識も変わり始めた今、カンディハウスが改めて考える「も

北海道のテロワールと向き合い続ける「ヤギたちとつくるワイナリー」【ドメーヌレゾン】

北海道・富良野地区に、ヤギが広報部長を務めるワイナリーがある。2017年に開業したドメーヌレゾン。ワイナリーとしてはまだまだ新しいが、“サステナブル”を運営の中核に据えた取り組みが注目を集め、ワイン自体の人気もうなぎ上りだ。 ドメーヌレゾンがコンセプトに掲げる「人間と自然が共存できる環境でのワイン造り」。その中で、かのヤギたちはどんな役割を果たしているのか。自然の力を最大限に活かしたワイナリーとは、どんなものなのか。 広報部長であるヤギたちに会うため、そしてドメーヌレゾン

「売れなかったおやき」は長野の看板へ……“焼き”にこだわる専門店【いろは堂】

長野県の郷土食といえば「おやき」。昔は家庭の囲炉裏端で焼かれ、主食やおやつとして親しまれてきた。近年、長野県内の観光地で湯気を立たせて販売されている光景は珍しくなく、冷凍でのお土産や通信販売も定着している。 信州・鬼無里(きなさ)に本店を構えるおやき専門店「いろは堂」のおやきは、ふるさと納税の返礼品としても大人気だ。ところが、おやきが現在の市民権を得るまでには長い道のりを経てのこと。いろは堂の女将、伊藤園子さんを訪ねて、鬼無里に向かった。 おやきが売れなくて苦労した時代い

標高1000m以上の根曲り竹使用「作り手によって違う戸隠竹細工」【戸隠竹細工センター】

古くから山岳信仰の地として栄え、現在も戸隠神社に戸隠蕎麦、宿坊など、観光地としても高い人気を誇る戸隠。戸隠蕎麦が盛られる蕎麦ザルや、最近では竹のコーヒードリッパーが注目されている「戸隠竹細工」は、地域の伝統工芸品として大切に守られている。 戸隠竹細工の特徴は、標高1000m以上の山の中に自生する「根曲り竹(チシマザサ)」を原料に、材料の採取・加工から仕上げまで、一貫してひとりの職人による手仕事だということ。竹細工職人として、美しいカゴやザルを編む戸隠竹細工センターの小林良一

「塩で人類を救いたい」物理学者と発明家を目指した男の願い【ぬちまーす】

コロナ禍で多くの企業が業績不振に喘ぐ中、売り上げを伸ばしている小さな会社が沖縄にある。製塩業を営むぬちまーすだ。 昨今の健康志向の高まりに加えて、コロナ禍で多くの人たちが自然の恵みの大切さを実感したこともあり、同社の看板商品であるパウダーソルト「ぬちまーす」は爆発的な人気に。今でも入荷したら即完売という状態が続く。増産に向けて新しい工場を建設中である。 しかし、同社のここまでの道のりは決して平坦ではなく、倒産寸前まで追い込まれたこともあった。それでも諦めなかったのは、「人

「小滝集落に新しい里山文化を」どん底を味わった百姓×銀座の老舗企業【小滝集落】

抜けるような青空に、一面黄金色に染まる稲穂が眩しい季節。長野県の最北部に位置する栄村の小さな集落「小滝」には、子どもたちの楽しそうな声が響き渡っていた。日に焼けた顔に刻まれた皺と手慣れた所作が、何十年も稲作を続けていることを想像させる大先輩方に、地元のやんちゃな少年たち、作業着さえもおしゃれな都会からやって来た親子。数十名が稲刈りイベントに集まり、昔ながらの手法で鎌を使って稲を刈り、束ねる方法を教え合いながら、はぜ掛けをしていく。 幻のお米と銀座の老舗企業の出会い手がけてい

危機を乗り越え「砂むし温泉」存続へ。唯一無二の和式サウナ復興への道【砂湯里】

指宿(いぶすき)、と聞いてたいていのひとがまず思い出す場所が、「砂むし温泉」だろう。その名所がいま、危機に立たされている。 指宿市が運営している砂むし温泉施設2か所のうちのひとつ「砂湯里(さゆり)」の背後にある斜面が2021年11月に崩落し、休館を余儀なくされているのだ。 その復旧に向けて、クラウドファンディングが行われた。砂むし温泉の伝統を守ろうとする地域の人々の思いを探った。 観光地だけど観光地じゃない。300年以上続く、和式サウナパラソルがいくつも並んだビーチに、

「若い世代の関心を集めたい」農業に目を向ける東大生サークル【東大むら塾】

2015年、東京大学の学生が立ち上げたサークル「東大むら塾」。テーマは、「農業×地域おこしでむらの未来を変える」。2022年度は1、2年生合わせて約70名が所属し、日本の地方の農村の課題解決のために知恵を絞り、少しずつ実行している。 サークル発足時は、「地方のことを知ろう」という目的での農業体験だった。しかし、高齢化と後継者不足の問題に直面し、「大学生が積極的に農作業に取り組むことで、若い世代に対して農業への関心を集めることができたら」と、少しづつ活動の幅は広がっていった。

「間違って切れては駄目」包丁作りに込められた思いやり【貝印】

刃物のまち関市で1908年に生まれた貝印。創業以来ずっと製造し続けてきたのが刃物製品だ。ポケットナイフやカミソリなどロングセラー商品のほか、近年は「関孫六」など高級包丁の評判も高い。貝印の包丁の切れ味が鋭く使いやすいのは、人の手によって磨き上げられているから。貝印の大和剣工場で工場長を務める製造本部の西部正史さんと研究開発本部 開発部の三品順司さんにお話を伺うと、貝印がものづくりに懸ける想いが伝わってきた。 機械任せにはしない貝印のものづくりカイインダストリーズ(以下、貝印

「10,001軒目より、51軒目」小さなまちで基盤を築く複合的喫茶【玉成舎】

2022年秋、暮らしと活動の拠点を、東京都練馬区から埼玉県小川町に移した柳瀨武彦さんと菜摘さん。6年前に小川町と出会ってから、都会と里山を行き来する1.5拠点生活、双方に家をもつ2拠点生活、そして仕事と暮らし、どちらも小川町に軸を置くことに決めた1拠点生活と、自分の気持ちと向き合い、暮らしのかたちを変えてきた。 ふたりは登録有形文化財の石蔵を継承して多角的な喫茶を開き、そこをベースにアーティストインレジデンスやワークショップの実施など、新しい町の価値を見いだす取り組みをおこ