【書評】「サイエンスフィクション あなたが知らない科学の真実」「アメリカは自己啓発本でできている ベストセラーからひもとく」「お客さん物語」
暑くて仕事山積みで……しかし頭痛が出るので休みながら色々とやっています。
その合間に読んだ本の一部
「サイエンスフィクション あなたが知らない科学の真実」(スチュアート・リッチー ダイヤモンド社)は「エビデンス」という言葉の怖さを思い知らされる。いかに「論文」が恣意的に操作されるか。ぼくたちは科学では「再現性」があるものだと信じている。しかし、多くの論文——特に心理学ではそうではないと著者は書く(日本でも似非心理学者の本が溢れている)。研究者の良心に頼らざるえないという現状。取材を都合良くねじ曲げる書き手がいる、ぼくたちノンフィクションの世界とも似ている。「ハゲタカジャーナル」の実情、「オープンサイエンス」の必要性など、非常に興味深い一冊。
「アメリカは自己啓発本でできている ベストセラーからひもとく」(尾崎俊介 平凡社)も非常に面白い。
自己啓発本はアメリカから始まっていること、そして人気があるのはアメリカと日本だけとのこと(ブラジルや欧州の書店でも見かけるが、確かにそこまでは多くない)。自己啓発本は「出世指南書」であり、「出世しようと思えばできる環境」があり、「出世したいと思う人」が多くいることが前提になると著者は書く。社会階層が固定している国、上昇志向を持っている国でしか成立しないという。それがアメリカと日本だというのは目からうろこだった。確かにラテンの国は当てはまらない。アメリカの自己啓発本の「金持ちになりたいならばセールスマンになれ」という教えも目からうろこだった。実家の本棚にもあった『スポック博士の育児書』という育児自己啓発本によって育てられたベビー・ブーマーが「痩身」「合気道」「ビジネス・コーチング」「終活」という年齢に合わせた自己啓発本の主たる読者層になったという分析は少々こじつけっぽいが、笑えた。この本をAIに読み込ませて、適当にキーワードを入れれば、いい自己啓発本が出来るはず。
稲田俊輔さんの「お客さん物語」(新潮新書)は、大学生時代、洋食屋、クラブ、バーで働いていたぼくにとって、うんうんと頷くことばかり。忘年会が減ったのは、コロナだけではなく、飲酒人口の減少、多くの人々が実は「こんな風習無くなればいいのに」と潜在的に思っていたからだと彼は看破する。確かに二十代、11月から12月にかけて、色んな忘年会で河豚を週二1、2度食べていた気がする。あれは確実に豊かな生活ではなかった。
デパートの閉店、シャッター商店街についても同じことが言えるが、人の嗜好が大きく変わっているのに同じ形式のビジネスは成り立たない。
出版界もすでにゲームのルールが変わっている。新しいルールに合わせた働き方をしなければならないのだ。