39歳父の竹修行奮闘記 第七回「逃げ角を制して、竹ひごの幅を揃えろ」
竹細工をやる上で、とにかく大事なひご取り。竹を割って(第五回)、剥いで(第六回)、竹ひごらしきものができた。だがこのままでは使い物にならない。
竹ひごを作る上での三要素は、①長さ、②幅、③厚さである。長さは竹を切る段階で、幅は竹を割る段階で、厚さは竹を剥ぐ段階でそれぞれ決まる。それぞれの作業の精度が上がれば、上記の3つの工程でひご取りは完了するはずだ。
そもそもなぜ、竹ひごの長さと幅と厚みを揃える必要があるのか。
1.編みにくい、最悪編めない
製作者側にとって大事なのは、その後の編組(へんそ:編んで立体に仕上える工程)だ。だが竹ひごの仕上がりがバラバラだと、編むのに苦労する。分厚ければ思うように曲がってくれないし、薄ければあっけなく折れる。編組をスムーズに行うためにも、ひご取りの精度は死活的に大事だ。
2.美しくない
竹細工の最大の特徴であり一番の魅力は、なんといっても均整の取れた幾何学模様、つまり美観だ。バラバラの竹ひごは間違いなく美観を損ねる。やたら編みという不規則な編み方もあるにはあるが極めて例外的だ。
3.仕上がりサイズが揃わない
竹ひごのサイズは、仕上がりの寸法を元に算出されている。つまりバラバラの竹ひごでは、指定の寸法の物を仕上げることができない。寸法がばらばらの「一点もの」は、保管、陳列、販売全てにおいて取り扱いにくいことこの上なく、いわゆる商品としては失格だ。
竹ひごの作業精度の重要性が理解してもらえただろうか。これは実際に編んでみればすぐにわかる。あるところまで編み進めた段階で、ひごが折れたときのショック。ひごと共に心も折れそうになる。ひごは替えがきくが、心は替えがきかない。
というわけで、まず竹ひごの幅を揃える工程だ。「幅取り」という。道具には、「幅取り小刀」を2本使う。小刀を2本木材の土台に打ち込んで、間にひごを入れて、押さえながら引く。すると左右の余分が取り除かれて、竹ひごが同じ幅に揃うのだ。
と説明すると、簡単そうに見えるかもしれない。だがどの工程もそうだが、頭で作業内容や作業目的を理解することと、精度の高い作業を行うことには、絶望的なほどに距離がある。幅取り小刀を打ち込む角度や向き、竹ひごを引く力や方向、変数は無数にある。幅取りという工程ひとつをとっても、熟練を要するのだ。
ここでひとつ大事な概念を紹介しておく。日常生活では使う場面はあまりないが、知っておくと便利かもしれない。それは逃げ角(にげかく)だ。
【逃げ角(にげかく)】 切削工具の刃先において、工作物の仕上げ面(または切削運動の方向)と刃物逃げ面(仕上げ面に接する側の工具面)とのなす角を逃げ角という。逃げ角が小さいと、刃先逃げ面が仕上げ面と接することが多くなる。工具の逃げ面が摩耗して当たる面積が大きくなると切削抵抗が大きくなり、仕上げ面が悪くなる。また逃げ角が大きいと刃先が鋭利になり欠けやすくなる。一般的に逃げ角は5度~7度が多く使われる。(大車林より)
刃物で何かを削るとしよう。刃物と削りたい物が全く平行になった場合、刃物は上を滑るだけで削れない。逆に刃物を立てすぎると、刃物はずぶずぶと刺さって行き削れない。この刃物と削りたい物の間の角度を逃げ角という。鉛筆を削るときを想像してほしい。きっと無意識に刃物に少し角度をつけて削っているに違いない。それこそが逃げ角だ。
幅取り小刀を使う場合も逃げ角が大事になる。逃げ角が小さすぎると削れない、もしくは引くのが重い。逃げ角が大きすぎると刃物が食い込んで、竹ひごが切れてしまう。その間を狙って、小刀を適正な角度に打ち込む。材料がやわらかい身竹の場合は逃げ角は小さめに、材料が硬い表皮の場合は逃げ角は大きめに、といった具合だ。これがなかなか難しい。
表皮(ひょうひ)竹の表の皮が残っている部分
身竹(みだけ)竹の表の皮を剥いで残った部分
試行錯誤を繰り返し、なんとかかんとか幅が揃った!
さあ次は厚みを揃える工程「裏すき」に入りたいところだが、通常はその前に角を取る「面取り」という工程を挟む。面取りについては次回ご紹介!