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39歳父の竹修行奮闘記 第二十ニ回「竹に触れ、竹と戯れる毎日」
【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。竹細工をする上で、とにかく大事な材料作りであるひご取り。竹を割って、剥いで、幅を揃えて、面を取って、うらすきで厚みをそろえて、とうとうひごが出来上がる。まず風車と四海波かごを作って、第一課題「六つ目編み盛りかご」、第二課題「鉄鉢盛りかご」が完成し、夏休みを経て、いよいよ二学期、家でも竹仕事をスタートした!
ここ最近の訓練の様子を前回紹介した。
では訓練だけやっていればそれで十分かと言えば、答えは間違いなくNOだ。それにはいくつか理由がある。
①失敗があまり許されていない
訓練生は訓練中に課題作を作る。作る個数は決められてないので、それぞれのスピードに応じて作れる分だけ作る。ちなみに私は第一課題が12個、第二課題が10個、第三課題が8個、第四課題が5個だ。
本人が作った数のうちの半分はだいぶ安い値段で買い取ることができる。残りは11月に行われる技能祭というイベントで販売される。作ったうちの質のいいものから数えて半分は技能祭に回され、残りの比較的出来の悪いもののみ買取可能というわけだ。
つまり先生たちは、我々の技術向上だけを目指せばいいわけではなく、出来上がってくる課題作がある程度売り物になるよう品質を担保しないといけない。ここに落とし穴が潜んでいる。
自由に失敗ができないのである。
技術の習得を第一に考えるならば、なるべく多くのミスを犯し、その失敗の反省を次に活かすような、トライアンドエラーの繰り返しがとにかく大切だが、そもそもミスが発生しそうな方法を試させてもらえない場合も多く、エラーの機会はだいぶ限られている。
その分のトライアンドエラーは自宅で繰り返す以外ない。そうしない限り技術は自分のものにならない。
料理教室で例えるなら、みじん切りやすり下ろしにフードプロセッサーを使ってしまえば、包丁やおろし金を使う方法を試す機会は得られないが、料理を教える側からすると、仕上がりの安定や時間短縮のために、どうしてもフードプロセッサーを使わせたくなってしまう、というような状況だ。
②すべての技術は網羅されていない
当たり前だが、2年間の訓練で竹細工のすべてが学べるわけではない。むしろ学べるのはいわゆるダイジェストのようなもので、ほんの一握りの技術でしかない。2年間ですべてが学べるほど竹細工の世界は浅くない。
だから訓練のカリキュラムに含まれていない内容については、独学以外にない。ただ訓練校にいる間は、その独学の過程で生じた疑問を先生に尋ねることができる、という大きなメリットがあるので、むしろ訓練校を独学の助けとして活用するのがベストだ。
料理に例えるなら、料理教室ですべてのメニューは教えないので、家でレシピを見ながらレパートリーを増やしていくイメージだ。
③卒業後を視野に入れる
泣いても笑っても再来年の3月には訓練校を卒業し、その後は一人で新たな技術の習得や商品作りを行っていく必要がある。
いざ卒業してからどうするかを考えていては遅い。なるべく訓練校に依存せずに独学で技術の習得、つまりトライアンドエラーを繰り返すことができる環境や体制を整えておくことが何よりも大切だ。
というわけで、訓練校での訓練と車の両輪のような位置づけで、家で竹仕事に勤しむ。
ただここで忘れてはいけないことがある。
私は極度の飽き性であり、辛いこと苦しいことしんどいこと退屈なことが大嫌いである。これは能力の問題というより、性分の問題なので、克服をしようと無理をしたら、その反動がどこかに来るだけで、あまり意味がない。
いわゆる「修行」には向いてないのである。
だがそれは今回別府に来る前から分かっていたことで、39年歳を重ねてきた私なりに対策を立てておいた。それはつまり、
竹と遊ぶのである。
とにかく毎日家で竹に触れて、竹と仲良くなり、竹と戯れる。これである。
だからこそあえて名前を竹遊亭田楽(ちきゅうていでんがく)とした。
「竹と遊ぶやと?!竹細工なめとんのか!」
それは全く考え方が逆なのだ。竹細工という深遠な世界で自分の足で立つためには、とにかく長い時間が必要で、一朝一夕ではどうにもならない。だから「嫌にならないこと」「辞めないこと」「やり続けること」の3つが何よりも大事なので、そのためには「竹に毎日触れること」「竹と仲良くなること」「竹と戯れること」以上のアプローチが私にはない。
前置きが長くなった。
最近の戯れの様子をハイライトで紹介しよう。
まずは第4課題で習ったばかりの菊底編みとゴザ目編みでザルを作った。
これが第一作目。立ち上げが急激になり、ラーメンのお椀のような形状に。縁巻きで縁が一部はずれたので、そこは引っ掛ける用のフックに。
第2作目。立ち上げ方をだいぶ変えたので、アーチがついてボウルっぽいシェイプに。
1作目と比べるとわかりやすい。立ち上げ方で形はこんなにも変わる。
そして輪弧(りんこ)を使って時計をデコる。
表だといまひとつだったので裏返す。
途端に時計が時空の歪みに飲み込まれそうになった。
そして六つ目編みの応用である「くもの巣編み」。表はご覧の通り星型。
んじゃどこが「くもの巣」と思ったら、裏返して納得。
といった具合に、竹と仲良くなるために、日々竹と戯れているわけだが、やみくもに竹と戯れるほどの時間的余裕はまるでない。
そこで必要になるのがガイド、つまり参考書だ。竹細工のバイブルと言えるのが以下の3冊で、私もとにかくこの3冊を頼りにしている。
①別府竹細工技術資料集
これは料理で言えば、材料の剥き方、切り方、そして調理の仕方(炒める、煮る、焼く、蒸す)がまとまっている本だと考えてもらえるとわかりやすい。
これが先程紹介した「くもの巣編み」の紹介。極めて詳細な説明と分かりやすい図解がなされている。
こちらは非売品で私の通う大分県立竹工芸訓練センターに入校すると、別府竹製品協同組合から無料でもらえる。これだけでよはるばる別府に来た甲斐があったと思えるほど、先人たちの叡智が詰まった一冊。
②図説竹工芸 竹から工芸品まで(佐藤庄五郎)
こちらは料理で言うと、具体的なメニュー(カレー、ハンバーグ、肉じゃがなど)とその作り方(材料、調理法など)が詳細に、そしてイラスト入りで紹介されている本だ。
こちらは市販されているが、価格が税抜き10,500円と少々お高い。だがここまで詳細かつ正確に書かれた書籍は他にないので、竹細工をやる人は必携の一冊だ。
③竹工芸「編組工法」図面集
こちらは鹿児島にある宮之城伝統工芸センターという施設が制作している、料理でいうところのレシピ本だ。
詳しい作り方がわかっている人向けの仕様書といった感じの作りなので、私も含め初心者はこの本だけでは恐らくまるで作れない。だが竹ひごの本数、厚さ、幅まですべてを記載してくれているという点において、とにかく有用な資料で、他のどんな書籍2も替えがたい価値がある一冊だ。
こうした書籍以外で重宝しているのは、やはりYoutubeだ。
例えば以下の動画は東南アジアのタイのものだが、輪弧の技術を使って鶏用のケージを作っている。
といった具合に、手に入るものをフル活用しながら、竹と遊ぶ日々だ。少しずつだが、竹と仲良くなれているような実感があるが、まだまだ道は遠い。
竹と遊ぶ竹修行はまだまだ続く!次回をお楽しみに!
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