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39歳父の竹修行奮闘記 第二十七回「人生いろいろ、竹細工もいろいろ」

【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。竹細工をする上で、とにかく大事な材料作りであるひご取り。竹を割って、剥いで、幅を揃えて、面を取って、うらすきで厚みをそろえて、とうとうひごが出来上がる。まず風車と四海波かごを作って、第一課題「六つ目編み盛りかご」、第二課題「鉄鉢盛りかご」が完成し、夏休みを経て、いよいよ二学期、第三課題「網代編み小物入れ」、第4課題「菊底編みバスケット」が完成し、家でも竹仕事をスタートした!

竹細工と一口に言っても、実は様々なカテゴリーがあって、竹業界の中でも微妙な住み分けがある(らしい)。

今日は竹細工のカテゴリーについて紹介してみよう。

最初に断っておくが、これから紹介する4つのカテゴリーが全てではないし、カテゴリー横断的に仕事をしている職人も数多くいるし、そもそもこうした分類自体が乱暴で、安易な分類はむしろ危険だと考えている。

それでも別府で竹細工をやっていると、カテゴリーについて話すことは多いので、あくまで目安として、紹介しておく。

1. アート(現代工芸)

竹の特性であるしなりや曲線を活かしたアート作品である。アートである以上、鑑賞を前提としており、芸術性は高いが実用性はゼロに近い。アートなので制約も規範もない(はず)。鑑賞には一定の教養が必要なため、敷居は高い。

アートは「作品」を作る。

アートをやりたい人は訓練校でも最初からアートを志している場合が多いような気がする。美大卒の人もいるし、家業が竹アートというケースもある。

私個人としては、アートに興味はあるが、それを仕事にしようとか、竹でアートをせねばならぬといった切迫したものは特に感じていない。

2. 伝統工芸

代々受け継がれてきた技術を駆使して、主に伝統文化で用いられる道具を作る。竹細工の場合、茶道、華道との結びつきが非常に強く、茶器や華籠はその代表だ。

伝統工芸が作るのは「作品」と「商品」と「道具」の間である。

油抜き(加熱して油分を抜く加工)した晒し竹をそのまま使うこともあるが、一番表面のつるつるした部分(表皮)を削って、染めるケースが多い。かつては漆が主に使われていたが、コスト高の影響もあり、最近はカシュー塗料が使われることが多いようだ。

伝統工芸はとにかく作りの精巧さを突き詰めていく。そのためには、伝統的な技術や材料に必ずしもとらわれず、最新の技術や材料も取り入れていく貪欲さがある。

私個人としては、外観は美しいと思うし、工芸品としての価値は感じるが、自分は何かを突き詰めるのには向いてないし(妥協の天才)、実家が洋風の家で日本の伝統家屋に馴染みなく育ったこともあり(実は訓練校に入るまで、「花籠」を知らなかった…)、伝統工芸の道に進む可能性は低そうだ。

3. クラフト

このあたりは定義があいまいなのだが、竹細工業界では「クラフト」というカテゴリーをよく耳にする。今まで聞いた話を総合する限り、「油抜きした晒し竹を使用し、現代のライフスタイルにマッチした商品を伝統的な技法を駆使して作ったもの」という感じだろうか。

クラフトは「商品」を作る。道具としての用途はもちろんあるが、商品としての匿名性(作家性の抹消)にこだわりがあるように見える。

商品である以上、作り手が作りたいものや使いたいものではなく、「市場のニーズ」に応じた商品作りを行い、「商品」に恥じぬクオリティーに仕上げ、一般の流通経路に乗せるケースが多いようだ。

私個人としては、顔の見えない「商品」を作りたいとは思えず、機械で作ったかのようなツルツルピカピカで均整の取れた「商品」を手仕事で作り上げる労苦に耐えられる自信がまるでない。

4. 青物

青物は、切ったままの青竹を使って、「道具」を作る。

商品として流通することもあるが、あくまで「道具」として使い倒されることを前提に作られていることが多い。竹細工のルーツを遡ったら間違いなく「道具」に辿り着くであろうから、そういう意味では一番歴史が長い。

青物師として仕事をしている人は、竹の伐採から行うことが多い(その他の晒し竹を使うジャンルは製竹所から仕入れる)ので、原料の選別、調達まで自らの手と足で行う。

仕事としてではなく、ライフスタイルとして竹細工を選ぶ人には、青物の志向が非常に強い。かつては多くの農家で自家用に竹かごの製作が行われていたこともあり、若者の帰農傾向と同期して、青物への興味も高まっているようだ。

私個人としては、地域の潜在資源としての竹の活用を考えてはるばる別府まで来たので、少なくとも竹材は仕入れるものではない。そういう意味では、青物との親和性が高い。

また経年変化や壊れることを回避するのに躍起なクラフトに比して、青物は経年変化と破損を前提として作るようなところがある。壊れたら修理して使う。かつては青物師が農家をかごを修理しながら回っていたらしい。

と、ここまで4つのカテゴリーを紹介してきたが、まとめると以下の表のようになる。

再度強調しておくが、このカテゴリー分けはあくまで目安のもので、イノベーションや新たな動きはいつもカテゴリーの枠を超えて生まれてくる。

そして私も既存の枠を参考にしつつ、自分の目指す働き方や社会のあり方を念頭に置きながら、竹を仕事にしていきたいと考えている。今後、竹を仕事にする上で、現段階で大切にしたいと考えているのは以下のようなことだ。

・地域資源としての竹を活用すること
・地域の人が使う「道具」を作ること
・地域の人が購入できる価格を設定すること
・修理を前提とした作りにすること(破損やクレームを恐れた耐久性を追及しないこと)
・作り手の顔が見える道具作りを行うこと(顔の見えない「商品」にしてしまわないこと)
・竹の声に耳を澄ますこと(竹の嫌がることはしないこと)
・竹の特性を十分に生かすこと(竹でなくてよいものは、他の素材に譲ること)
・古来より作られてきた竹かごの技術を継承すること
・なるべく竹のみで作ること

今後次第で何がどうなるかわからない。竹を学び始めて半年ほどが経過した現段階での途中経過として、記しておく。

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竹遊亭田楽
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