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39歳父の竹修行奮闘記 第十二回「"六つ目編み盛りかご"の材料を作れ」

【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。竹細工をする上で、とにかく大事な材料作りであるひご取り。竹を割って、剥いで、幅を揃えて、面を取って、うらすきで厚みをそろえて、とうとうひごが出来上がる。まず風車と四海波かごを作っていよいよ…

いよいよ今回から、第一課題「六つ目編み盛りかご」に入る。

課題というだけあって、なんとなく作ればいいわけではなく、明確に仕上げ寸法が決められている。今回の仕上がり寸法は直径240mm、高さ80mmだ。

六つ目編みは竹細工でも最もポピュラーな技法なので、知ってる人も多いだろう。ただまだ編みには入れない。まず長い竹が一人当たり二本支給され、それをノコギリで切るところからスタートだ。

何を作るにしても、まずは材料加工から!今回の課題1個当たりの製作に必要な材料を確認しよう。

①編みひご

編みひごは、今回のカゴで言うと、底の部分と側面の一部になるひごだ。

長さ:250×2=500mm
幅:5.0mm
厚さ:0.55mm
数量:30本

②まわしひご

まわしひごは、側面の六つ目の地面に水平な部分に使うひごだ。

長さ:900~950mm
幅:5mm
厚さ:0.55mm
数量:4本

③外縁(そとぶち)

外縁は丸い縁の外側に来る竹。

長さ:755+70mm
幅:11mm
厚さ:2.5mm
数量:1本

④内縁(うちぶち)

内縁は丸い縁の内側に来る竹。

長さ:725+70mm
幅:11mm
厚さ:2.0mm
数量:1本

⑤柾(まさ)

柾(まさ)は、外縁と内縁の間に挟む竹。厚さよりも幅を小さくして、通常のひごとは違い、表皮(ツルツルした面)を上にした状態で横に曲げる。

長さ:900mm~
幅:2.5mm
厚さ:3.0
数量:1本

⑥力竹(ちからだけ)

力竹は六角形の底に三角に差し込むことで、カゴのすわりを良くするための竹だ。

長さ:185mm
幅:14mm
厚さ:2.5mm
数量:1本

⑦籐(とう)

籐は東南アジア産のツル性の植物で、地上最強、最長の植物といわれている。竹細工では縁の固定などに使われる。

長さ:2,600mm
幅:2.0
厚さ:0.6mm
数量:1本

驚いただろうか。正直私は驚いた。たった1個のカゴを作るために、これだけの材料を加工する必要があるのだ。実際、竹細工の仕事の半分以上は材料加工が占める。日本製の竹カゴが1個5,000円以上するのは、そう考えてみると当たり前にも思えてくる。

あえて材料ごとの長さ、幅、厚さ、数量を記載してみたが、籐の加工を除けば、今まで紹介してきた技術を駆使すれば、全ての材料を準備することができる。ちなみに籐は、植物としては竹ではないが、竹細工の道具と技術を駆使して加工をすることができる。竹細工の技術は、実は汎用性があるのだ。

訓練では、まずひごとりを中心に、材料加工の時間が1週間程度与えられる。その間は、竹を割って剥いで幅を取ってうらすきで厚さを揃えて面取りで角を取って、という基本的な作業をひたすら繰り返す。ちなみに私はこの材料加工が楽しくて仕方がない。伐ったままの丸い筒だった竹が、私の手によって”材料”に生まれ変わっていく。しかも”繰り返す”といっても単純な反復作業ではない。竹によって感触も難易度もまるで違うから、毎回竹との駆け引きや対話が必要になるのだ。こんなに楽しいことはない。

大好きな剥ぎ作業に没頭する筆者

訓練で作るカゴの数は、特に指定はない。作れるだけ作って構わない。ただ時間は限られているから、その後の編組(へんそ)も含めた段取りをしっかりしないと、材料を準備しても仕上げきれない。ちなみに今回の第一課題、私が作ったのは12個。学年12名の平均より少し多めといったところだろうか。

ちなみに、材料加工の精度が、その後の工程の難易度や精度にダイレクトに影響してくる。テキトーに材料を加工をしたツケは、間違いなくその後の工程で回ってくる。材料加工でのミスを、その後の工程でリカバリーすることはほぼ不可能だ。だからこそ、この連載では材料加工に回を費やしたのだった。

そして、軽い気持ちで”ワークショップ”という感覚で作れる作業量でないこともお分かりだろう。今回の六つ目編み盛りカゴを一般の人向けにワークショップにしたとして、材料加工から行うとしたら、週一回1時間を毎週やったとしても半年で仕上がるかどうか怪しい。

楽器にしてもそうだが、本来技能というのは、単発のワークショップにちょろっと参加した程度で体得できるものではない。その程度のものは”技能”とは呼ばない。ワークショップを否定するつもりはまるでないし、私も今後ワークショップをたくさん企画していくだろうと思うが、あくまで”体験”であり”入り口”でしかない。身体ごと中に足を踏み入れて見ないと、その広大で深遠な”技能”の世界を体感することはできない。まだ何も体得してないのに偉そうなことを書いてしまった。ごめんなさい。

さあ次回はいよいよお待ちかねの六つ目編みに入る。幾何学模様が出来上がっていく過程は、得も言われぬ快感を伴う。それが少しでもおすそ分けできたら幸甚である。

それではまた次回。

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竹遊亭田楽
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