39歳父の竹修行奮闘記 第十六回「2つの宇宙をドッキング!~輪弧合わせ~」
【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。竹細工をする上で、とにかく大事な材料作りであるひご取り。竹を割って、剥いで、幅を揃えて、面を取って、うらすきで厚みをそろえて、とうとうひごが出来上がる。まず風車と四海波かごを作って、第一課題「六つ目編み盛りかご」が完成し、第二課題の鉄鉢盛りかごに突入した!
前回は第二課題「鉄鉢盛りかご」に必要な輪弧(りんこ)の作り方を紹介した。
そして今回はいよいよ二枚の輪弧をドッキングして一枚にする!
今回は分かりやすいように、紅白二色の輪弧で説明をしよう。
まず白い輪弧。今回はこれを上に載せるので、上輪弧(うえりんこ)と呼ぶ。
そして赤い輪弧。こちらは下に置くので、下輪弧(したりんこ)。
輪弧をドッキングする(この作業を「輪弧合わせ」という)前に、下準備がある。輪弧のひごの間隔を、できるだけ合わせておこう。長いひご、短いひご、どちらも合わせておくのがベストだ。(実はこの調整が一番大事!!)
それではいよいよ輪弧合わせに入ろう。訓練生もみんな苦戦して、夢に出る人もいるくらいなので、心して臨もう。
ちなみに通常は二枚の輪弧の間に、丸く切った底を入れるが、今回はわかりやすいように、あえて底は入れずに合わせていく。
まず長いひごの方を上にした状態で、二枚を重ねる。その際にできるだけ、上輪弧のひごの真ん中に下輪弧のひごが来るように調整する。
ここからは以下の2つの工程に分かれるので、別々に説明していこう。
①ペア作り
②ペア分け
ペア作り
まずは「ペア作り」という工程から。ちなみにこの名前は私の通っている訓練校独自のものなので、職人さんに言ってもポカンとされる可能性が高いのでご注意を。
まずは工程のビフォーアフターを見て欲しい。
おわかりだろうか。上輪弧と下輪弧のひごが一本ずつ、同じ場所から顔を出している。この一組を「ペア」と呼んでいる。必ず「ペア」を作っていく。「ひとり」でも「3人」でもいけない。
ペア作り①
まずペアを作る上にした上輪弧のひごを残して、その右側のひごを右手で持つ。
そして左手で上輪弧の下側にある短いひご(◎)をまとめて持つ。
ペア作り②
右手のひごを全て持ったままで、ペアの相手となる下輪弧のひごを右手で拾う。ちなみに★はペアの元となるひごだ。
ペア作り③
左手に持っているひごの一番右端の一本のみを放す。
ペア作り④
右手のひごは全て持ったまま、右手でペアの元となる上輪弧のひごを拾う。そのままだと拾いにくいので、左手を少し上げて、よけてやると拾いやすい。
ペア作り⑤
右手のひごを持ったまま、右手で次のペアの相手となる、下輪弧のひご(赤)を拾う。
あとは③〜⑤の工程を繰り返していくだけだ。
ペア作りが完了!
ペア分け
次は「ペア分け」という工程だ。こちらも同じくビフォーアフターから確認しよう。
おわかりだろうか。同じ場所からの出っぱなしだったペアが、短い方のひごによって、長短(上輪弧が長くて、下輪弧が短い)に分けられている。
ではやり方だ。
ペア分け①
ペア分けを始める場所を決め、まず下輪弧(赤)を起点に、右側の長いひごをまとめて、右手で持つ。
そして、こちらも下輪弧(赤)を起点に、左側の短いひごをまとめて、左手で持つ。
その状態から、右手の一番左端のひご(下輪弧)を放す。
★ペア分けチェックポイント★
ここでチェックポイントだ。右手の下輪弧を放す際は、必ず二本おさえになっていることを確認しよう。
スタート時点も確認が必要で、途中組み間違えがないかどうかのチェックにもなる。
ペア分け②
他のひごを全て持った状態のまま、左手で隣の上輪弧の短いひごを拾う。
ペア分け③
右手から、一番左端の上輪弧のひごのみを放す。
ペア分け④
他のひごを全て持った状態で、左手で隣の下輪弧(赤)の短いひごを拾う。
その後は②〜④を繰り返していく。
気づいただろうか。左→右→左→右と下→下→上→上という順番で、左手は拾い、右手は放す、それを繰り返していくだけだ。
ペア分けが完了!
ちなみに本番のひごで「輪弧合わせ」が完了したのがこれだ。(実際は輪弧合わせ+3本とばし+2本とばし+2本とばし)
ひごが細く、輪弧のひごもそれぞれ10本多いだけで、難易度は桁違いに上がる。
まず本番のひごは、上輪弧も下輪弧も同じ色なので見分けがつかない。先ほど確認した下→下→上→上という順番が、気がついたら乱れていて組み直し、というのを何度も繰り返した…
そして本番では網代(あじろ)編みという技法の底を、二枚の輪弧の間に挟んでいる。網代の中心と輪弧の中心がずれてしまうと不格好なので、本来は輪弧合わせは、文鎮(重し)を乗せた状態で行う。だがその文鎮で視界が狭まるため、組み間違い(特に「ペア分け」の二本おさえと上下の順番)がきわめて起こりやすい。
このあたりでドツボにハマると、組んではミスが発覚して組み直し、という作業を延々と繰り返すことになり、結果夢にまで輪弧合わせが出てくるようになるわけだ。(ちなみに私は輪弧合わせはそこまで苦戦せず、その後の「目揃え」が夢に出てきた…)
さて、輪弧って言っても、そんな技法どこで使うの?と思う方のために、具体例を。
これは、今年4月に台湾に行った際に買ってきた竹の小物入れだ。
実はフタも本体もどちらも輪弧で作られている。底も小さいが網代だ。
ちなみにこれは11本の輪弧が二枚合わさってできている。
この小物入れ、お値段なんと日本円で1200円ほど(!)。網代底で輪弧の折り返しでこの値段。本当に勘弁してください…
今回これを紹介したのは他でもない、夏休みにコピーしてやろうと企んでいるのだ。実物から組み方や寸法(材料寸法、仕上げ寸法)を調べ、形にする。音楽でいう「耳コピ」に近いアプローチだ。
休み期間中は、「復習」と「独学」でスキルアップを目指す。その一部始終をこちらにアップする予定だ。
輪弧の小物入れは果たしてできあがるのだろうか?!乞うご期待!