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39歳父の竹修行奮闘記 第二十八回「ざるを解剖して、再現せよ!①」

【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。竹細工をする上で、とにかく大事な材料作りであるひご取り。竹を割って、剥いで、幅を揃えて、面を取って、うらすきで厚みをそろえて、とうとうひごが出来上がる。まず風車と四海波かごを作って、第一課題「六つ目編み盛りかご」、第二課題「鉄鉢盛りかご」が完成し、夏休みを経て、いよいよ二学期、第三課題「網代編み小物入れ」、第4課題「菊底編みバスケット」が完成し、家でも竹仕事をスタートした!

かつては一般家庭でも当たり前のように作られていたオーソドックスな丸ざるがどうしても作りたい。

だが困ったことに、現在手元にある参考書には細かい作り方は書かれていない。

それは、バンドを組んでいて、あるバンドのある楽曲をコピーしたいと思ったが、スコアが販売されておらず、ネットにコード譜すらない、という厳しい状況に似ている。

この苦境を打開する方法はおそらく一つしかない。

そう、耳コピである。

幸い私の手元には以前近所のリサイクルショップで300円で購入した丸ざるがある。

これを耳コピならぬ目コピすればよいではないか。

仔細に眺めてみる。

だが残念なことに、一番大事な部分はすべて縁の中に隠れていてわからない。

仕方あるまい。

作ってくれた人には大変申し訳ないが、私は覚悟を決めることにした。

解剖に挑もう。

ざるをバラす。これはざるやかごを作るのが好きな私にはなかなか苦渋の決断である。しかしそれ以外に方法がないものは仕方がない。

おっとその前に、仕上がり寸法を採寸しておこう。

仕上がり寸法
・円周 1,115mm
・直径 350mm
・高さ 90mm

そして後から確認できるように細部の写真もなるべくたくさん撮っておく。ばらしてからでは遅い。

では気を取り直して。

腑分けスタート!

①内側の竹(名称不明)

まずは内側にはまった竹を取り外す。これは特に固定されてないので、かんたんに外れる。

②巻き縁

次に巻き縁を外す。最後にねじって差し込んだ部分をニッパーで切る。作った人本当にごめんなさい。

あとは巻いてある縁をひたすらほどいていく。

ほどくと4回巻きだったことが判明。途中で一回継いでいたので、巻き縁は2本。作ってからだいぶ時間が経ってるので、無理にほどくと簡単に折れる。

部分的には割って重ねて幅を半分にしてる箇所も。

ほどいた巻き縁の残骸。再利用は無理。磨いて割って剥いでこそいで、と縁材を作る苦労がわかるだけに、心が痛い。

③細ひご(柾?)

巻き縁をはずしたら、中から細いひごが5本出てきた。なるほどこうやって中を埋めていたのか。

④内縁

続いて内側の内縁を外す。

重なった合わせ部分はまさかのセロテープ止め。

⑤外縁

続いて外側の外縁を取り外す。

こちらもセロテープ止め。

⑥中縁

さらに中に入っていた中縁を取り外すために、曲げて引っ掛けてある編みひごをすべて切る。

こちらはセロテープと針金で固定してあった。

⑦外回しひご(名称不明)

中縁の下に這わせてあるひごを外す。

ここまではずせば、残りは編みひごと立竹のみだ。

なんてあられもない姿。

これ以上はばらさなくても寸法がわかるので、解剖はここまで!

そしてバラすだけでは意味がないので、バラした部位の寸法をすべて測っていく。

①内側の竹
・幅 9mm
・厚さ 2mm
・長さ 1000mm(現場合わせ)
※表皮が内側。内身側を大きく面取り。
②巻き縁
・幅 10mm
・厚さ 0.6mm
・長さ 約43m分
③細ひご
・幅 1.2〜2mm
・厚さ 1.2〜1.5mm
・長さ 1,120mm
※現場合わせ
④外縁
・幅 10mm
・厚さ 3mm
・長さ 1,100mm+120mm(合わせ)
※4面面取り
⑤内縁
・幅 8.5mm
・厚さ 3mm
・長さ 1,038mm+120mm(合わせ)
※現場合わせ
⑥中縁
・幅 6.5mm
・厚さ 2mm
・長さ 1,076mm+120mm(合わせ)
※4面面取り
⑦外回しひご
・幅 6.5mm
・厚さ 1mm
・長さ 1,085mm
※両端は削って尖らせる
⑧立竹
・幅 8mm
・厚さ 1mm
・長さ 500mm
・本数 20本(表皮10+身竹10)
⑨編みひご
・幅 3.2mm
・厚さ 1.4mm
・長さ 約43m分
※身竹側を大きく面取り

ふう、解剖もなかなか骨が折れる。

解剖してみて気づいたのは、実物の持つ圧倒的なパワーと説得力である。人に教わったり、参考書を見たりするのとは全く違う。実物はダイレクトに訴えかけてくる。恐らく今は亡き作り手との対話の回路が通じたような錯覚を覚える。

このざるの犠牲を無駄にはしない。

そこまで作りの良いものではないにせよ、この色の変わり方を見る限り最低でも30年は経っているに違いない。縁が飴色に変わっているということは、元々は青竹で作られたざるで、できた当初は綺麗な緑色をしていたに違いない。

何はともあれ必要な情報は出揃った。

あとは材料を取って、編み上げていくだけだが、その道は恐らく荒く険しい。それでも実物があるのは何より心強い。

さあ果たして、憧れの丸ざるは出来上がるだろうか。

次回へつづく!

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竹遊亭田楽
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