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39歳父の竹修行奮闘記 第二十三回「竹修行に必須の知識とは?」
【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。竹細工をする上で、とにかく大事な材料作りであるひご取り。竹を割って、剥いで、幅を揃えて、面を取って、うらすきで厚みをそろえて、とうとうひごが出来上がる。まず風車と四海波かごを作って、第一課題「六つ目編み盛りかご」、第二課題「鉄鉢盛りかご」が完成し、夏休みを経て、いよいよ二学期、第三課題「網代小物入れ」が完成し、家でも竹仕事をスタートした!
私は大分県立竹工芸訓練センターという厚生労働省管轄の訓練校で竹細工を学んでいるわけだか、もちろん実技だけでなく学科(座学)もある。
学科で今までに学んだことは以下のような内容だ。
①竹について
竹細工をやる以上、材料となる竹について最低限の知識がないと話にならない。例えば竹の各部の名称を知らないと、実技の説明が理解できない。また竹の内部構造や特性を知ることは、竹を割ったり剥いだり編んだりする上では必須と言える。
みんな竹が竹であることは見ればわかるし、枝や葉や節や地下茎くらいは名称としてもわかるだろう。しかし例えば節ひとつでも、節の内部の板を節板(せっぱん)、節の上の側の突起を節峰(せっぽう)、下の側の突起を竹皮部(ちくひぶ)、竹皮部にある竹が伸びていく組織を生長帯(せいちょうたい)、節と節の間を節間(せっかん)と呼ぶことは、みなさんおそらく知らないだろう。私も全く知らなかった。
この場で竹の内部構造や特性について紹介したいのもやまやまだが、あえてここでは日常生活では絶対に役に立たないトリヴィアルな知識のみを紹介しておこう。
竹を食べる3大害虫
1、チビタケナガシンクイ
2、タケトラカミキリ
3、ヒラタキクイムシ
ここは必ず試験に出るので覚えておくように。
特にチビタケナガシンクイは我々には本当に身近な存在。竹に小さな穴が空いてたり、竹から粉が出てきたら、ほぼ彼らの仕業である。
②刃物について
竹細工をする上で、刃物の手入れは欠かせない。職人さんによっては、自分専用に鍛冶屋さんに特注の刃物を仕立ててもらう人もいる。
訓練校では、刃物の構造や研ぎ方はもちろんのこと、刃物の作り方や調整の仕方まで教えてくれる。先生が家庭用ビデオカメラで撮ってきた熊本の今は亡き鍛冶屋さんの映像を見ながら、刃物の作り方を教えてもらった。
③別府竹細工について
かつては全国各地に特色ある竹細工が根付いていたが、昭和40年代あたりから急速に衰退し、今ではどこも後継者不足に喘ぎ、先人が積み上げてきた伝統技能が次々と潰えているのが現状だ。
そんな窮状において、別府竹細工は高級路線に舵を切り独自の発展を遂げ、なんとか生き残ってきたが、別府竹細工も決して安泰ではない。伝統工芸がライフスタイルや価値観の変化に対応しつづけるのは、実際非常に難しい。
そもそも別府で竹細工が発展したのは、いくつかの要因がある。まず良質なマダケ(竹細工に最適な竹)が豊富にあったこと。そして江戸時代に温泉に入りに来た湯治客がかごやざるなどの竹製品を買って帰ったことで、全国的に有名になったことだ。
④伝統工芸、人間国宝について
別府竹細工は伝統的工芸品に指定されており、卓越した技能を持つ伝統工芸士も20名ほどいる。
また重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝も竹工芸の分野から6人が認定されている。中でも生野祥雲斎(しょうのしょううんさい)は竹工芸初の人間国宝で大分出身であることもあり、大分では竹工芸に関わりのない人でもその名を知る人が多い。
「怒濤」生野祥雲斎作
ちなみに第二課題で作った「鉄鉢盛りかご」も生野祥雲斎が考案したと言われている。実際に作ってみるとよくわかるが、極めて緻密に計算されていて、その凄さのほんの一端を垣間見ることができた気がした。
訓練ではちなみに学科試験もある。点が取れなくても落第とか追試とかはないが、やはり試験である以上、しっかり勉強して臨む。試験がないとなかなか覚えようという気にはならないなら、いい機会だ。
また外部講師を招いた研修もある。人権研修、労働安全講習、救急法講習といった訓練校ではどこでも行われる内容の他にも、デザイン講義や竹林実習のような独自の研修もある。
デザイン講義では、美大の教授が講師として来てくれて、前期はデッサン、後期は立体構成を習う。竹細工で新商品を開発する上では必須の訓練として、最近カリキュラムに追加されたらしい。先週から後期の立体構成が始まり、第一回目のテーマは「鳥」。ケント紙を使って、鳥のイメージを立体で表現する。全く使ったことのない頭の部位を使うので、終わったら疲労困憊だったが、時間が経つのを忘れるほど夢中になった。
テーマ「鳥」
その他に、訓練校には図書室があり竹工芸関連の書籍が多く保管されている。訓練生は毎週水曜日書籍を借りることができるので、私は毎週のように様々な本を借りては見識を広めるよう努めている。
体系的な技能と知識を学ぶことができるのは、やはり学校で学ぶ大きなメリットだ。そのメリットを最大限活用できるよう、なるべく多くを吸収していきたい。
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