39歳父の竹修行奮闘記 第三十一回「円形なら任せろ!〜菊底編み〜」
【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。第一課題「六つ目編み盛りかご」、第二課題「鉄鉢盛りかご」が完成し、夏休みを経て、いよいよ二学期、第三課題「網代編み小物入れ」、第4課題「菊底編みバスケット」、第五課題「亀甲編み平皿」が完成し、家でも竹仕事をスタート。
竹かごは、大きく「底」「胴」「縁(ふち)」という3つの部位に分けることができる。
その3つそれぞれに様々な編み方や組み方の技法がたくさんあり、その3つそれぞれの間には相性がある。底は網代底なら、胴はござめ編み、縁は巻き縁がよいかも、といった具合に。
竹かごを作る場合、通常まず底から編み始める。これを「底編み」という。
いかだ底、網代(あじろ)底、輪弧(りんこ)底、四つ目底などなど、底にも色んな種類があるが、底編みの段階で丸くできるのは輪弧底と菊底の2種類だけだ(たぶん)。
輪弧は以前に紹介したので、今日は菊底を紹介しよう。ちなみに私は個人的に「ござめ編み」という編み方が一番好きで、今回紹介する菊底はござめ編みとの相性が非常にいい、というかござめ編みの一種と言っても過言ではない。
菊底の見た目はこんな感じ。
菊“底”と言いつつ、この場合、飯籠の蓋に使われている。しかもだいぶ応用的な使い方であまり参考にはならないけど、ここではその美しさがまず伝われば。
では編み方を紹介していこう。
◎必要部材
・骨ひご
幅6.8mm 厚さ0.8mm 長さ35cm 8本
・底回しひご
幅1mm 厚さ1mm 長さ2m 2本
・胴回しひご
幅1.2mm 厚さ1mm 長さ2m 10本
まず骨ひごを45度ずつ角度をずらしながら中心だけを重ねていく。
一本目
二本目
三本目
四本目
そして一本目の下に底回しひごを入れて、四本目の上に出しておいて、編み始める。表皮(つるつるした面)は中心とは逆方向の側面に向けた状態で、1おさえ、1すくいで編んでいく。
まず差し込んで
そして編んでいきます
半周編めたら、二本目の骨ひごを一本目の内側に入れて編み始める。一本目が「おさえ」の骨ひごの下をくぐって、隣の骨ひごの上に通しておく。
ここからは「追い編み」という編み方で2本ずつで編んでいく。
なぜ2本ずつで編んでいくかというと、骨ひごは偶数なので、一本で編んでいくと同じところに戻ってきてしまって編めないので、一周ごとに2おさえか2すくいの変則をいれないといけなくなるから。ここはちょっとわかりにくいかもしれない。
その後は2本のひごを持って、手首を返しながら、内、外、内、外という要領で編んでいく。
一周回ったところ。しっかりと目を詰めながら編むのが大事だ。
そのまませっせと編んでいく
2m分が編めたら、残りの骨ひご4本を1本ずつ間に差し込んでいく(これを「増しひご」という)
まず下から差し込んで
曲げてもう片端も差し込む
下から見るとこんな感じ
同じ要領で残りの3本も順番に差し込んでいく
下から見るとこんな感じ
菊底らしくなってきた!
その後はひごを胴回しひごに変えて、増しひごを加えた16本の骨ひごを同じように1おさえ、1すくいで編んでいく。
今回は小さな味噌濾しざるっぽい感じに立ち上げてみようと思うので、ここからは表皮は上向きで編んでいく。
継ぐのは「すくい」の骨ひごの下。
まず一本だけ編んで、継いだ部分を固定してしまおう。
その後は同様に「追い編み」で2本ずつ編んでいく。表皮が横に向かないように注意しながら、骨ひごを少し曲げながら編んでいくと、平面が立体に立ち上がっていく!
この「立ち上げ」という工程は何度やっても感動的で、力の入れ方次第で立ち上がりの角度を加減できるのも楽しい。
同様に編みを進めていくと
Oh、ざるになってきた!
ちなみに立ち上げ以降は抱え込んで編むと均等に立ち上がりやすい。
そしてこんな感じにまで編み上がった
あとは縁を付けたらざるの完成だが、今日は菊底の紹介なのでここまで。
見てもらった通り、菊底は底編み〜立ち上げ〜胴編みという移行が極めてスムーズなのが大きな特徴で、編みやすい、ほどきやすい、ひごに負担をかけない、というまさに三拍子揃った編み方だ。しかも円形のまま立ち上げられるので無理がない(網代底、いかだ底、四つ目底などは、底が四角い状態で立ち上げて徐々に円形にしていく)
ここで補足説明をば。
今回編みの最初から、トゲトゲの道具を使って編んでいったのにはお気づきだろうか。
菊底はフリーハンドで編むこともできるが、非常に面倒で、特に私のように写真を取りながら説明する場合、押さえる手が邪魔で説明どころではない。
今回のような治具(トゲトゲ板)を使うと、骨ひごの角度は決まるし、骨ひごは固定されるし、底回しひごの編み始めも固定できて、さらに底回しひご一周目の内径も毎回同じにできて、綺麗な円を描くことができる。これを考案した人、本当にすごい。
せっかくなので治具の作り方も紹介しておこう。
まず道具を用意する。
◎必要道具
・木板(厚さ10mmはほしい)
・くぎ16本(今回は長さ17mm、径0.8mm)
・分度器
・コンパス
・定規
・えんぴつ
・金づち
まずここで本当は計算が必要になる。作るかごやざるの大きさから必要な骨だけの幅と数を算出して、それに応じた内径を算出する。
今回はちなみに母親から21cmくらいの蕎麦ざるを作ってほしいとの要望があり、幅7mm程度のひご8本で菊底を作ろうと考えた。
8本なので二倍して16。幅7mmを円周だと考えると(本当は円周のほうが少し長い)必要な円周は7×16=112mm。112÷円周率3.14=直径35.66mmなので、釘の太さや円周の分で余裕を持って直径40mmで作ってみることに。
まず板に直径40mmの円を描いて
分度器の底辺を中心に合わせて、360÷16=22.5度ずつに点を打っていく
外に打った点と中心を結んだ線が円と交わる点に、再び点を打っていく。
あとは円上の点に垂直に釘を打っていく。
最後に釘の上の部分をニッパーで切り落としたら出来上がりだ。
さあ予定通り幅7mmのひごは入るか?
残念、ちょっとキツイ。ひごの幅を少し調整したところ、6.8mmの幅でぴったりに。釘の太さもあるので計算はなかなか難しい…
ぴったり入るのがやはり理想!
さあどうだっただろうか。菊底は治具があって、ひごさえ取れれば(幅1mmの長ひごを取るのが大変なのだが…)あとはさくさく編み放題である。私の部屋では現在、菊底祭りが絶賛開催中だ。
今年中に母親は私の作った蕎麦ざるでそばをすすることができるのだろうか。この後の縁がやはり問題だ。試作の長い旅は続く。