39歳父の竹修行奮闘記 第九回「銑を使って、厚みを揃えろ」
【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。竹細工をする上で、とにかく大事な材料作りであるひご取り。竹を割って、剥いで、幅を揃えて、面を取るところまで来たが・・・
今日はひご取りの最終回。前回は面取りで角を取ったのだった。
そして今日はいよいよひご取りも最終回。今回紹介するのは、うらすき。うらすき銑(せん)という道具を使って、ひごの厚さを揃える作業だ。ここで厚みをしっかり揃えておかないと、編んでいる途中にひごが折れたり、曲がってほしい角度に曲がってくれなかったり、大きな苦労が待っている。
まず、うらすき銑(せん) は、こんな刃物だ。
長方形の片方の長辺に、片刃の加工がほどこされている。これがうらすき銑(せん)、専用の台(銑台)にセットして使う。銑台はこんな感じ。
銑台にうらすき銑(通称すき銑)をセットして、刃と台の間隔を調整して厚さを決め、刃の角度を調整して逃げ角を決める(逃げ角については第七回を参照のこと)。そしてひごの内身側(皮がない方)を上に向けて、ひごを引けば、厚さを自由に揃えることができる。
画像で見ても少しわかりにくいかもしれないが、ひごを引くことで、薄く削ぎ落とされた竹が上に出ているのがわかるだろうか。
先ほど、厚さを自由に揃えることができる、と書いた。
確かにうらすき銑を使えば、厚さを揃えることができる。だが使っているのは、厚さの数値をセットしてスイッチオンすれば設定した厚さに揃えてくれるようなハイテクなデジタルデバイスではない。あくまで刃物を使って、手を使って引く以上、そこにはたくさんの変数と制約がある。
たとえば、第一課題で使った、このひごは厚さが0.55mmだ。
うらすき銑を使って、この厚さに揃えたい場合、剥ぎ(剥ぎに関しては第六回を参照のこと)の段階で最低でも0.6mm台にまで剥ぎ揃えておくことが望ましい。それ以上の厚さ、たとえば1mmのひごをうらすき銑を使って0.55mmに揃えるのは至難の業だ。削り取る幅が増えれば増えるほど、うらすき銑の刃が食い込んで、ひごが途中で切れるリスクが増す。そして、何より引くのが重い。
ひご作りは、かご1個に対して数十本、場合によっては百本を越す。十本なら身体への負担を感じなくても、百本となると話は別で、更に千本ともなればとにかく負担の少ない方法を考えないと、身体を壊してリタイアだ。
身体への負担を減らす方法、それは作業の精度を上げることに尽きる。剥ぎの技術が向上すれば、うらすきという作業はだいぶ楽で、下手をすれば不要になる。そして、道具を最適な状態にセッティングすることも非常に大事だ。
うらすきに関しても、逃げ角というファクターが極めて大きい。逃げ角が小さければ(台に対して刃が水平に近いため)引くのが重いし、逃げ角が大きければ(台に対して刃が直角に近いため)刃が食い込んでひごがプツプツ切れてしまう。銑台の角度調整ネジを使って、最適な角度に調整するが、これがなかなか難しい。
そしてひごの厚さは、さらにやっかいな問題をはらんでいる。
デジタルノギス(ノギスについては第六回参照)を使って厚みを測って、同じ厚みに揃えても、硬い竹とやわらかい竹では、しなり具合が違う。厚さを揃える理由、それはしなり具合を揃えるためだ。だが、数値上の厚さが一緒でもしなり具合がまるで違う、という状況がよく起こる。それは今回かごを作ってみて、痛いほどよくわかった。
ということは、厚さを揃える、というより、しなり具合を揃える、というのが正しい。その数値の計測には、本来別の機器が必要になるだろうが、そんな機器は竹工芸では採用していない。ではどうするのか。
手で曲げてみるのである。
我々の手の感覚というのは、我々が想像している以上にずっと鋭敏で、たとえばひごの厚さなら、0.1mm単位の違いが、視覚的には見分けられなくても、指で曲げてみるとすぐに分かる。ペラン、プニン、クニャン、クニャという違いが、確かにあるのだ。
なので、竹ごとに硬さが違う場合(たいていは違う)、竹ごとに分けておいて(一緒にしてしまうと同じ厚さでうらすきをしてしまうため)、別々に設定した厚みでうらすきを行って、望ましいしなり具合に揃えていく、ということを今後はできるようにならないといけない(残念ながら現段階ではそのレベルには達していない)。
厚さが違えば、その後の編組(編む工程)の感覚(編みやすさ)がまるで違ってくるし、道具としての強度や使い勝手にも大きく影響してくる。それがたとえ0.1mmの差であっても。
ひごの厚みの大事さが少しでもわかってもらえたら嬉しい。
さあ、いよいよひごが完成した!長らくお付き合いいただきありがとうございました。次回からは、いよいよひごを使ったモノ作りに入っていく。
初回を飾るのは風車(ふうしゃじゃなくて、かざぐるま)。たかが風車ということなかれ。小物にもしっかりと竹細工の魂は息づいている。
乞うご期待!