39歳父の竹修行奮闘記 第十一回「流れるように美しい四海波」
【前回までのあらすじ 】
39歳でひょんなことから別府で竹細工を学ぶことになった私。竹細工をする上で、とにかく大事な材料作りであるひご取り。竹を割って、剥いで、幅を揃えて、面を取って、うらすきで厚みをそろえて、とうとうひごが出来上がる。そしてまず風車を作った。
できあがったひごを使って、前回は風車(かざぐるま)を作った。少しずつ本格的な竹細工に足を踏み入れていく興奮。丸い筒だった竹が、ひごになり、それが立体として立ち上がっていく。
第一課題に入る前に、「四海波(しかいなみ)かご」を作る。ワークショップなどでお馴染みなので、知っている人も多いかもしれない。
四海波とは、元々は宋代の詩人 楊万里(1127-1206)の詩句「六合の塵清く、四海波静か」が出典で(詩の全文を探しましたが見つからず…)、現在の中国でも「四海波静 Sihaibojing」は「天下が平和に治まっていること」という意味の成語として使われる。
そして日本で四海波と言えば、謡曲「高砂(たかさご)」の一節である「四海波静かにて」から「君の恵みぞ有り難き」までの部分の通称で、波風がおさまって天下国家が平和なことを祝うものとして、婚姻・祝賀の席で謡われるらしい(聞いたことないですが・・)。
そうした背景から、おだやかな波を思わせる竹細工の四海波かごは、お祭りなどの祝いの場面で重宝されてきたそうな。
薀蓄はこれぐらいにして、さっそく作ってみよう。
まずはひごとりだ。今回必要なひごは合計16本。今回は表皮(皮がついた部分)と身竹(皮がついていない部分)を半々で交互に使っている。ちなみに長さは720mmで厚さは0.6mm。
まず8本ずつで四つ目を編む。
4本ずつを順序よく重ねて、しばっていく。
そして長い方の4本は束ねたまま下を通して差し込み、短い方の4本は1本ずつを側面に差し込んでいく。
めでたく完成。
四海波かごの魅力、それはなんと言っても、アシンメトリーでありながら均整の取れた曲線美だ。直線のみでできた16本の四つ目編みから、ため息が出るほど美しい、おだやかな波を思わせる曲線が生まれる。今回自分で作ったかごを撮影していても、その美しさにうっとりしてしまった。
そして16本のひごのみで作る、というところがなんとも画期的だ。
これは次回からスタートする本格的なかご作りの記事を見てもらうとわかるが、通常かご作りには編みひご以外に、縁(フチ)や柾(マサ)や力竹(ちからだけ)といった部分の材料と加工が別途必要になる。しかし四海波は編みひごのみで完結する。これはなかなか驚くべきことなのだ。
せっかく写真をぱしゃぱしゃとたくさん撮ったので、色んな角度からご覧いただこう。
表皮と身竹を交互に使うことで、独特のアクセントが加わっている。最初期に取ったひごなので、加工の甘さが目立つのはご容赦を。
斜めに交互に交わる部分が特に波を思わせる。本当に美しい。
上から見るとこんな感じ。4本ずつを縛っているだけなのに、丸くなる。不思議だ。
美しい四海波かごを堪能いただけただろうか。撮影していてこんなに楽しい被写体はないのではないかと思うくらい、色んな表情を見せてくれた。ぜひいずれワークショップでみんなで作りたい!
さあいよいよ次回から第一課題「六つ目編み盛りかご」に入る!どんな波乱が待ち受けているのか。乞うご期待!