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【米国政治】「隠れトランプ支持者」は神話?統計から見る大統領選の行方

はじめまして、BnA株式会社の代表、Tazこと、田澤です。

私はオバマ大統領の選挙戦の真っ只中、米国で学生時代を過ごしたこともあり、アメリカ政治ウォッチが趣味の一つです。これまでもちょくちょくアメリカの政治情勢についてFacebookに投稿してきたのですが、今回思い立って初めてNoteを書いてみることにしました。

(ちなみに、本業はBnA株式会社という新規事業コンサルティングと、BnA HOTELというアートホテルのデザイン・運営を手掛ける会社を経営しています。自社事業については関心お有りでしたら以下の記事でもご参考に。)


さて、大統領選を一週間後に控え、メディアはバイデン元副大統領の圧勝を予想、予測サイト538では29日現在、バイデンが89%の勝率となっています。

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(出典:FiveThirtyEight)

しかし、日本のメディアや評論家も、世論調査に現れない、いわゆる「隠れトランプ支持者」が存在するため、前回のように世論調査が大きくハズレる可能性がある、という慎重なスタンスが多いようです。

そこで今回は、「なぜ、前回予測は大幅に外れたのか」、「今回も外れるのか。」、そして「隠れトランプ支持者は存在するのか」を統計から読み解いていきたいと思います。

「隠れトランプ支持者」とは?

まず、「隠れトランプ支持者説」とはなんでしょう。

これは、一定層、「実はトランプ支持者だが、世論調査では隠している人」がいるという説です。女性軽視で、人種差別的な態度を隠そうともしないトランプを支持することは社会的に卑下される傾向にあるためだとされています。これは「社会的期待迎合バイアス(Social desirability bias)」と呼ばれ、人は本心がどうであれ、聞かれたら社会的に良しとされる答えを答える、という傾向です。いわゆる「本音と建前」です。

この層は事前の調査ではヒラリー支持者だと答えるが、実施はトランプに投票するため、前回の事前予測が外れた一つの大きな理由とされています。

しかし、本当に選挙結果をひっくり返すほどのボリュームでこういう人たちが存在するのでしょうか?

前回の結果を掘り下げて見てみましょう。

「隠れトランプ支持者」は存在しない?

定義上、「隠れトランプ支持者」が多く存在するのは「トランプ支持が良しとされない」地域であるはずです。周りがみんなトランプ支持者だったら、隠す必要など無いわけですから。

だとすると、トランプが人気ない地域であるほど、世論調査に対してトランプの投票率が高くなるはずです。では本当に結果はそうでしょうか。

以下のグラフをご覧ください。「トランプのクリントンに対する世論調査でのリード」を横軸、そして「実際の選挙結果と事前世論調査の乖離率」を縦軸に、各州の選挙結果をプロットしたグラフです。グラフの上にある州の方が、世論調査より、トランプに投票した人が多かった、要するに「隠れトランプ支持者」が多かった州ということです。

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(出典:FiveThirtyEight)

もし「隠れトランプ支持者」が存在するのであれば、元々トランプが世論調査で苦戦していた州(グラフの左側にある州)のほうが、選挙結果と世論調査の差が大きく出るはずです。でも、ご覧のとおり、グラフでは真逆の結果が見て取れます。すなわち、「元々トランプ支持が強かった州(グラフ右側)」のほうがトランプへの投票が世論調査を上回っているのです。逆に、トランプ支持が良くないとされ、苦戦していた州(グラフ左側)は、蓋を開けてみるとトランプに投票したひとは世論調査より少なかったのです。

前回の選挙でトランプが世論調査を超える投票を獲得したのは確かです。ですが、この分析を見る限り、社会的期待迎合バイアスによる「隠れトランプ支持者説」が原因ではなさそうです。

ではなぜ前回、トランプは大方の予想に反し、勝利したのでしょうか。そして、今回も同じようなことが起こり得るのでしょうか。

なぜ前回の「予測」は外れたのか?

前回、予測が外れた理由は一言でいうと、最後の最後までどちらに投票するか迷っていた「浮動票」の割合が非常に多かったためです。10月27日時点での浮動票の割合は今回の3%に比べ、前回は11%でした。

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(出典:Morning Consult)

すなわち、前回はなにか新しい「事件」や「情報」が出るたびに世論が大きく動く状況にあった。そして、「コミーFBI長官によるクリントンのメール問題の調査再開」というクリントンに不利な情報が出て、世論がトランプに傾いたタイミングで選挙があり、トランプが勝利した、ということです。(ちなみにアメリカの選挙の仕組み上、共和党は得票率で2~3%負けていても勝ちます。実際トランプは約3百万票(得票率の約2.2%)得票数では負けましたが、選挙人団数で勝ち、当選しています。)

以下は、今年と前回の各候補の全国世論調査の結果です。前回のほうが圧倒的にボラティリティが高いのがわかります。

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(出典:Finacial Times)

前回ここまでボラティリティが高かったのは、両者とも歴史的に前例が無いほど嫌われていたからです。以下のグラフは「Net Favorability Ratings」(好きな割合から、嫌いな割合を引いた数字)です。クリントン、トランプ共に異常な程に有権者に嫌われてたのがわかります。有権者はどっちも大嫌いなので、最後の最後まで迷っていた、という絵が見えてきます。ちなみに、トランプは改善はありつつも相変わらずの嫌われ方。一方でバイデンは歴史的に見ても好かれており、「トランプがきらいだから仕方がなくバイデン」ではないことが見て取れます。

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(出典:FiveThirtyEight、RealClearPolitics)

トランプが勝つ道筋は?

それでは、トランプが今回も勝利する可能性はあるのでしょうか

答えはもちろんYESです。予測はあくまでも予測、11%であっても9回に1度はトランプが勝つ可能性はある。しかし、現状限りなく厳しいとは言えるでしょう。

特に今回は、新型コロナの影響で期限前投票が激増、10月29日時点で、すでに前回の総投票数の55%にも及ぶ期限前投票が完了しています。ひっくり返せる有権者数自体が減っているのです。

私は今回、期限前投票の集計が鍵になると思っています。今回、初めて期限前投票を行う有権者が多く、一定割合、無効票が発生することが予測されます。この割合が一定数より多かった場合、接戦になっている激戦州がトランプに振れることはあり得るかもしれません。例えば激戦州のペンシルバニア州では、指定の封筒に二重にして入れなかった場合票は無効になります。

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(出典:フィラデルフィア市)

また、トランプ陣営は期限前投票の集計について、相次いで激戦州で訴訟を起こしています。コロナの影響で郵便が遅延する中、期日後に届いた票を数えないようにルールの変更させ、一部勝利。期日前投票をする民主党支持者の割合が多いため、自分たちにとって有利になるよう、カウントされる票の数を減らそうという手に出ているのです。

最後に

米国では新型コロナにすでに23万人が犠牲になり、トランプ政権の責任が問われる中、有権者の選挙に対する関心は高く、このまま行けば歴史的な投票率になるとされています。

貿易や、国防、環境保護など私達の日本人の生活も、あらゆる部分で影響を与えるこの大統領選。日本と比べて、様々なデータが手に入るのも一つの醍醐味です。少し長くなりましたが、この記事を通してちょっといつもと別の視点で関心を持ってもらえたら本望です。

アメリカ政治状況や、自社事業について日々ちょこちょこつぶやいているのでよければツイッターなどフォローいただけると嬉しいです!

※ サムネイルは17年に描いた絵、「A Portrait of an Idiot」(愚か者のポートレート)です

田澤悠(たざわゆう)ー "Taz"
BnA株式会社代表取締役
神戸市出身。幼少期をバルセロナ、高校時代をイギリスで過ごした後、大学・大学院を米国ペンシルバニア大学に進学し電気工学を専攻、セルンの粒子加速器の研究等に携わる。2008年のオバマ選挙戦を近くで目の当たりにし、米国政治のダイナミックさ、面白さに目覚める。
卒業後、ボストンコンサルティンググループでコンサルタントとして、主にIT、製薬業界の戦略プロジェクトに携わる。
独立後は、ジャカルタで美容事業や、民泊事業を立ち上げ、同時に米国認知科学ベンチャー「Lumos Labs」の日本代表を務める。
2015年にアートホテル事業やアートプロジェクトを手掛けるBnA株式会社を創業。高円寺、秋葉原、京都、日本橋でブティックアートホテル「BnA Hotel」を運営。
その傍ら、コンサルティング事業を手掛け、グローバルで起業経験を持つチームと共に、大手上場企業の新規事業立ち上げや、事業デューデリジェンス、経営戦略策定などのプロジェクトを手掛ける。

趣味はロッククライミング歴18年、飲酒歴20年。

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