【米国政治】追い込まれたトランプ陣営の投票妨害戦略と、最悪の米国民主主義崩壊シナリオ
さぁいよいよ米国大統領選挙まで後2日まで迫ってきました。
前の記事では統計データを見ながら、なぜ前回選挙に比べ、トランプ逆転の可能性が非常に低いかを分析、解説しました。今回は、敗北の可能性を前にあがくトランプ陣営の動きと、その先に見える最悪のシナリオについて書きます。
前回の記事をまとめると:
・トランプの10月29日時点での勝利確率は12%
・浮動票が前回は11%、今回は3%、なので覆る可能性は低そう
・前回の逆転の一因とされた隠れトランプ支持者説は根拠がない
・前回は世論調査のボラティリティが非常に高かったが今回は安定的
・前回は両候補が歴史的に見ても相当嫌われていたが、今回バイデンは好かれている
どうやら大きな逆転のきっかけとなるような出来事もなく、大劣勢のまま投票日を迎えてしまうトランプ陣営。彼らのなりふり構わない行動と、そこから見えてくるアメリカという世界最古の現代民主主義システムの崩壊の可能性。正直な所、今の状況、この選挙の結果によっては、米国が内戦状態に陥り世界経済が崩壊する可能性もあると思っています。どうトランプが200年かけて築かれてきたアメリカの政治システムを根幹から覆そうとしているのか、見ていきましょう…
コロナによる期日前投票の爆発的な増加
今回は新型コロナの影響もあり、11月1日時点ですでに9500万人もの人が様々な形で投票を終えています。前回の投票数が1億3600万人だったことを考えるとすでに前回の75%を超えており、驚異的な数字です。
その中、民主党支持者のほうが共和党支持者より期日前投票を行う割合が高いことが知られています。例えば、今回の勝者を決めるであろうペンシルバニア州は、郵便投票用紙を要望した民主党員の数が共和党員の倍以上、実に110万人も多く(下グラフ)、また同じく激戦州のフロリダでも民主党が共和党を81万票上回っています。(※これは投票用紙を受け取った人の数で、実際に投票した人の数ではありません。また、党員が別の党に投票する可能性もあります)
(出典:NBC10Philadelphia)
これは、民主党支持者のほうが全体的に新型コロナに対して警戒心が強いこと、そしてトランプ陣営が当初から郵便投票の不正の可能性を支持者に対して喧伝したことが理由だと考えられます。
ちなみに、期日前投票や郵便投票はこの選挙までも広く活用されており、選挙に影響が出るような不正の根拠は一切ありません。
期日前投票の実に2/3が民主投票だとすると、劣勢に立たされるトランプ陣営としては、期日前投票に無効票が増えると有利に働きます。
そこで、彼らはあらゆる手を使って期日前投票の妨害をしています。
トランプ陣営の期日前投票の妨害
1.郵便局の予算削減
トランプと、トランプに指名された郵政長官Louis DeJoyは、ただでさえコロナ禍で郵便総数が増え、記録的な郵便投票数が予測される中、下院による郵便システムへの緊急予算をブロックし、さらに予算の削減を強行。全国の郵便局で自動区分機が撤去される自体になりました。これにより、すでに赤字でボロボロのアメリカの郵便システムは普段以上に郵便の遅れを記録、多くの郵便票が投票日に間に合わないことが予測されます。
2.郵便投票の期日の厳格化
郵便投票の必着日は州によって違います。投票日必着の州もあれば、消印が投票日前であれば3日後、9日後でもカウントされる州等バラバラです。トランプ陣営は期日の短期化を求め、激戦州で相次いで訴訟を起こしています。すでに投票が行われた後に、です。
ペンシルバニア州では、期日までに訴訟の結果が出ない可能性が出てきています。
3.期日前投票箱の無効化
テキサスでは、コロナへの対応として州最高裁の許可の元に設置されたドライブスルー投票箱を撤去し、すでに投票済みの13万票を廃棄すべきだという訴訟を起こしています。これはヒューストンがある都市部、民主党指示層の住むエリアです。勝訴する可能性は流石に低いですが、ここまで来ると無茶苦茶です…
4.投票日前の票処理のブロック
激戦州のペンシルバニア州では記録的な期日前投票に対応するため、投票日前に封筒の開封を許す要望を出しましたが、これは共和党州議会によりブロックされました。これにより、数百万票にも及ぶ郵便票を開封ができるのは投票日からになり、最終カウントが出るまでかなりの日数がかかる可能性が高くなっています。
5.ルールの厳格化
同じくペンシルバニア州では共和党議会の訴訟により、二重封筒に入っていない票は無効とされることが決まりました。これに対して民主党支持者はこの無効票、通称「裸の票」の認知を上げるため、裸の政治家の広告を出すなど大々的なキャンペーンが行われました。
(裸の政治家達が二重封筒による投票方法を拡散)
さて、お気づきのように、トランプ、そして共和党陣営は票の無効化に加え、「期日前投票の開票作業の遅延」を目指しています。
それはなぜでしょうか。それは彼らの、アメリカの民主主義システムへの挑戦でもあります。
トランプ陣営の民主主義を犠牲にした勝利戦略とは
期日前投票が無効になるのはともかく、開票作業が遅れることがなぜ、トランプ陣営にとって有利なんでしょうか。
トランプ陣営はここ最近、「選挙結果は投票日に公表されるべきだ」「投票日後に数えられた票は無効だ」と主張を始めています。
しかし、そんな事があるわけがありません。そもそも、これまで投票日(もしくは深夜過ぎ)に発表されてきた「結果」は、各メディアが出口調査や部分的な結果を元に独自に予測したもので、正式な結果ではありません。(Associated Pressの結果予測を使うメディアが大部分です。)実際、2016年の選挙でも開票が完了したのは投票日から1ヶ月ほど経ってからです。
しかし、この戦略は実に巧妙に仕込まれています。
まず、共和党支持者は当日投票する割合が多いため、当日先にでてくる結果は共和党優勢になりがちです。その後、徐々に期日前投票の開票がすすみ、民主党が追いつき、逆転します。しかし、これが記録的な期日前投票率に加え、トランプ陣営による様々な妨害で期日前投票の開票が遅れるとどうなるでしょうか。選挙日には勝っていた共和党候補が、1~2週間かけて徐々に追いつかれ、追い越され次々と結果がひっくり返っていくわけです。そこに、トランプがここ半年かけて蒔き続けていた期日前投票への不信感。熱烈な共和党支持者はどう思うでしょうか?「なにか怪しいことが行われて、選挙が盗まれた!ディープステートだ!」と怒り狂うわけです。
トランプ陣営としてはこの世論の怒りを追い風に、一方的に選挙結果を無効と宣言。共和党がコントロールするペンシルバニア州議会に、選挙結果を無視した選挙人団を選ばせることで、自身を当選させることができてしまうのです。
これは、アメリカの民主主義の根幹である「選挙人団制度」が実は善意のしきたりだけでできているからなのです。慣例として、ある州の選挙人団は、その州の投票結果を受けて、同じように大統領候補に投票します。しかし、これはあくまで慣例なのです。選挙結果を無視して、反対の候補に投票しても違法でもなく、結果は正当になります。(選挙人が謀反を起こす行為はFaithless Electroateと呼ばれ、たまーーに起こりますが、選挙結果に影響を及ぼすことはこれまでありませんでした。)
それに対して、バイデン陣営が訴訟を起こそうが、最高裁は先日のバレット判事の任命により、共和党派が6:3で支配。保守の中でも比較的穏健派のロバーツが民主党側についたとしても、まだ5:4でトランプが勝ってしまうのです。
こんな自体が起これば、それこそアメリカの民主主義の仕組み自体が崩壊します。両党派による暴動が起こり、内戦状態になり得ることは今年のBLMをめぐる抗争からも十分に想像できます。
このような自体を防ぐためには、バイデンが完膚なきまでにトランプを叩きのめすことしかありません。大きな民主主義の理想を掲げ、自己矛盾を抱えながらも突き進んできたアメリカという国の未来が決まる、今回の選挙。
僕は、アメリカという大好きな国がこんな自体に陥らないことを、心から祈っています。
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田澤悠(たざわゆう)ー "Taz"
BnA株式会社代表取締役
神戸市出身。幼少期をバルセロナ、高校時代をイギリスで過ごした後、大学・大学院を米国ペンシルバニア大学に進学し電気工学を専攻、セルンの粒子加速器の研究等に携わる。2008年のオバマ選挙戦を近くで目の当たりにし、米国政治のダイナミックさ、面白さに目覚める。
卒業後、ボストンコンサルティンググループでコンサルタントとして、主にIT、製薬業界の戦略プロジェクトに携わる。
独立後は、ジャカルタで美容事業や、民泊事業を立ち上げ、同時に米国認知科学ベンチャー「Lumos Labs」の日本代表を務める。
2015年にアートホテル事業やアートプロジェクトを手掛けるBnA株式会社を創業。高円寺、秋葉原、京都、日本橋でブティックアートホテル「BnA Hotel」を運営。
その傍ら、コンサルティング事業を手掛け、グローバルで起業経験を持つチームと共に、大手上場企業の新規事業立ち上げや、事業デューデリジェンス、経営戦略策定などのプロジェクトを手掛ける。
趣味はロッククライミング歴18年、飲酒歴20年。
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