見出し画像

休校要請から~その⑥ リモート学習と家庭学習の発展(前編)

 

関連note:『休校要請から~』シリーズ
休校要請から~その①学習支援サービス無償提供~(2020/2/29)
休校要請から~その②公教育と平等性~(2020/3/8)
休校要請から~その③「休校延長」と「学校再開」の間~(2020/5/22)
休校要請から~その④ 休校特別措置「出席停止」ってなんですか?(2020/6/29)
休校要請から~その⑤ 「休校特別措置」と「不登校支援の在り方」の狭間で(2020/6/29)

自由のつかみかた:リモート学習と家庭学習の発展(後編)(2020/9/28)

 コロナ感染拡大予防の対策として講じられた全国一斉休校の要請は、緊急事態宣言の解除後、新しい学校を創造する絶好のチャンスとばかりにオンライン授業やICT環境整備が語られ始めましたが、2020年9月現在、段階的に通常の学校生活を取り戻そうとする動きが、まるで揺れ戻しのように起こっているようにも見えます。
 前note『その⑤』ではオンライン学習のアプローチと期待について書きました。ここではその発展と教育体制(公教育)について整理していきます。


スクリーンショット (140)


”こども観”の変遷

 ”不登校”の概念は、もう何十年もあるもので名称には変遷があります。その名称から社会から「学校に行かない子・行かせない親」へのまなざしがいかなるものであったかを推測することができます。学校に行かないことが「怠け」とみなされた時代や「親離れ・子離れができない甘え」とみなされた時代の価値観は未だ年長者のなかで現存しているようです。学校復帰ありきの時代は、同時に「親の敷いたレールにいる自分を認識し、見つめ直す」ことができるようになった時代ともいえます。こどもをひとりの人間として、その意思や自己決定を尊重していこうという方向に向かい始めた時代であり、年少者が親や大人の意思に背くこと、反旗を翻ることができる時代に突入していったのです。やがて「こどもは親の所有物ではない」という価値感も生まれてきました。

 「”こども”という存在とはなにか」は、時代によって変容してきた様子はある程度、世界で共通しているように思います。

⑴小さな大人
 身体能力だけが判断基準となっていたということなのでしょう。身体が大きくなれば、大人と同様の働き手となりました。「こども」という概念がない時代です。 

⑵未熟で成長途上にある弱者
 
良き大人になるために教え育てる必要がある未熟で指導者が必要な存在として認識されます。大人になるまでに与えられる教育の重要性とその質が問われていきます。

⑶発達段階に応じて成長していく人格
 
能力の上下が優劣を生むのではなく、個性としてとらえられ、”こども”にも一個人の人格があり、ひとりの人間として尊重されるべき存在であることが認識されつつあります。

 (2)の時代に整った「学校」により、こどもたちは過酷な労働から解放され、知識と教養を得る機会が与えられ、家柄や出自と問われることなく広く将来への可能性が拡がったといえます。同時に、こどもが社会から隔離されていく時代が始まったと見ることも出来ます。
 学校あるいは教育は、時に社会背景を反映して、その価値観を導いてきた側面を持ちます。地域が社会となり、国家となり、その範囲が広がるとともに、治安を守る基準も拡がっていったことでしょう。治安は、個々人の道徳観念や倫理観に通じます。一定の教養として教育のなかに組み込まれるようになるのは当然のように思います。

 さて(2)の学校社会の中にこどもの生活がある現代社会のまま、”こども観”は(3)の時代を迎えました。(1)とは違うけれども、再び、「大人と子ども」の境界線が不明瞭になっているとも考えることができます。子どもの意思を尊重するということは、親の意思に従わせることはためらわれることでもあり、どのようにこどもを導いていけばいいのかを迷う親の課題をも生みました。
 こう考えると、わたしたちは確かに、人として成長し、進化し、新時代を作り続けて、これまで歩んできたのだと思いたいものです。”こども”について考えることは、”我が子と親”の間だけの課題にとどまらず、”こどもとおとなの関係性”でとらえることで、”こども”を取り巻く社会環境を考えることにも及んでいるはずです。


”多様な教育”とは

 「ホームスクールか、不登校か」。
 ホームスクーリング・センターkokageでは、”不登校”、”ホームスクール”、”ホームスクーリング”、”アンスクーリング”、”ホームエデュケーション”、”在宅学習”、”スクールアットホーム”の概念とその解釈の違いを分析整理し、それぞれの視点の違い、視座の違いを示しています。

スクリーンショット (146)

スクリーンショット (145)

 ピンク色の不登校と緑色のホームスクール(その他のより詳細な概念)は、ピンク色が学校教育の枠の中であるのに対して、緑色は自由教育の枠にあてはまります。どちらも憲法でいうところの普通教育に含まれると解釈することができます。

スクリーンショット (218)

 日本の現行の教育制度は、日本国憲法の精神に則り、教育基本法を置き、普通教育のうち教育基本法でいうところの別の法律として学校教育があります。また最近では不登校支援に係る教育機会確保法(2020年度に見直し予定)があります。自由教育については法律がなく、公教育は学校教育のみとなっており、文科省および教育委員会において学齢期に相当するこどもたちの教育は、制度上、学校教育のみが存在している扱いになっています。そのため、文科省で「ホームスクール」について調べると下記の記述を見つけます。他の国の「ホームスクール」の記述がある項目であることから、一般的に日本の教育制度におけるホームスクールの取り扱いを示しているだと理解されることが多いようです。

 (参考)文科省ホームページより『各国の義務教育制度の概要』
家庭等における義務教育:日本 
学校教育法は就学義務を規定,義務教育を家庭で行うことを認めていない。

 前述したように日本の現行制度では小中学校の学齢期にあたる義務教育期間における教育は学校教育であり、文科省および教育委員会は学校教育を管轄とします。つまり学校教育以外の公教育は制度上では存在していません。記述にある「義務教育」とは、学校教育法における「義務教育」を指していると解釈することができます。ホームスクールについての取り扱いは定められていないということになります。これが「ホームスクーリング制度は日本には無い」という意味です。


学校教育法 (義務教育) 
 第十六条 保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。以下同じ。)は、次条に定めるところにより、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う
教育基本法 (義務教育)
第五条 国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。

 ※こちらも押さえておきたい知識です。
 教育基本法は平成18年に改正されました。
(関連資料)『昭和22年教育基本法制定時の規定の概要』第4条義務教育

第4条 (義務教育) 国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。

◎ 本条の趣旨
・ 憲法第26条第2項の規定を受け、義務教育の年限を9年と定めるとともに、義務教育の無償の意味を国公立義務教育諸学校における授業料不徴収ということで明確にしたもの。

(関係法令)
憲法第26条第2項
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。

○ 「九年の普通教育」
普通教育とは、通例、全国民に共通の、一般的・基礎的な、職業的・専門的でない教育を指すとされ、義務教育と密接な関連を有する概念である。
九年の具体的な内訳については、教育基本法は特に規定せず、学校教育法に委ねている。

「義務を負う」
親には、憲法以前の自然権として親の教育権(教育の自由)が存在すると考えられているが、この義務教育は、国家的必要性とともに、このような親の教育権を補完し、また制限するものとして存在している

「けだし、憲法がかように保護者に子女を就学せしむべき義務を課しているのは、単に普通教育が民主国家の存立、繁栄のために必要であるという国家的要請だけによるものではなくして、それがまた子女の人格の完成に必要欠くべからざるものであるということから、親の本来有している子女を教育すべき義務を完うせしめんとする趣旨に出たものである」(昭和39年2月26日最高裁大法廷判決)

(関連条文)
民法第 820条
 親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

児童の権利に関する条約 第18条第1項
(前略)父母又は場合により法定保護者は、児童の養育及び発達についての第一義的な責任を有する。(後略)

 ホームスクーリング制度はありませんが、憲法の精神にのっとり、また教育基本法に準じて、学校に通う以外のまなびの在り方や学校教育以外のオルタナティブ教育を普通教育として選ぶ在り方は容認されています。その在り方のひとつとして家庭を基盤に学んでいくスタイルを、諸外国の例に倣い「ホームスクール」や「ホームスクーリング」「ホームエデュケーション」と呼んでいるのです。

スクリーンショット (277)

 また、家庭を基盤とし、学習者であるこどもを主体とした学びのありかたとは区別して、学校(スクール)主体(学習指導要領に沿った学習課程の履修)を目的とした在宅学習を「スクールアットホーム」と説明しています。

スクリーンショット (162)

 これらをふまえ、文科省はいわゆるホームスクールをどのように理解しているかを、それぞれの概念に照らし合わせながら、次を読み進めていただけたらと思います。


文科省の理解

 令和2年6月12日(金曜日)に行われた『教育課程部会(第116回)』の議事録から、今現在、文科省では「ホームスクール」についてどのような理解があるのかをうかがい知ることができます。


2.議題
イギリス及びフランスの教育課程における授業時数の状況等について
新型コロナウイルス感染症による臨時休業を踏まえた学習指導について
その他

資料1 国立教育政策研究所 植田総括研究官発表資料 (PDF:1.7MB) PDF
資料2 大阪大学 園山教授発表資料 (PDF:2.2MB)


 以降、議事録から一部抜粋していきます。先ず「ホームエデュケーション」の報告部分です。

(園山教授) 義務教育といいましても,フランスは少し日本とは異なる点がございますので,そのことについて言及させてください。就学の義務は,3歳から16歳未満のフランス人及び外国人の男女の子供に対して義務とされておりますが,この義務教育は,基本的に教育機関において保障するというふうには定められておりますが,その教育機関は必ずしも公立学校や私立学校に限定されるものではございません。そこに掲げられているように,家庭における,いわゆるホームエデュケーションも認められているところに特徴がございます。
 学校に就学することができない子供の教育を主として保障するために,フランスには国立遠隔教育センターといった組織が設置されております。そのことが今回のコロナ感染状況の中でもかなり功を奏したと言われております。こういった遠隔教育の教材が用意されているということが,恐らくプラスに働いたと思われます。
 なお,その規定の中で,就学義務,学校に通っている子供に対してはかなり厳格な義務が求められております。不登校は日本とは違いまして,一番下の行になりますが,1か月において半日の4回までとなっております。特段の理由なく,それを超えて無断欠席すると,上の条文にありますように,保護者に対して刑罰が科されるとなっております。

(貞広委員) 今回対象になっている家庭等におけるリモート学習を,例えば感染拡大状況などの社会状況や,何らかの事情でなかなか学校に気持ち,心が向かない,体が向かないような個人の状況に応じて,質の保障を伴いながら,持続的,長期的にシステム化することを今後考えていきたいということでございます。
 ホームエデュケーションの先進国である米国,これはホームスクールというふうに言われていますけれども,従来のように義務教育の供給主体も学習の場も学校以外となるようなホームスクールだけではなく,学習の場のみを学校から家庭に移して,学校が義務教育を提供し続けるというホームスクール,新しい形態が出てきております。
 先行研究などでは,前者の伝統的な形を退室のホームスクール後者の新しい形を拡張のホームスクールというふうに言っていますけれども,拡張としてのホームスクールでは,二重学習や一部だけ学校のカリキュラムを通学で受けるようなパートタイム就学などを行うことによって,学校教育が供給主体となって,学習の場だけが家庭だというようなありようも,かなり広がってきていると聞いております。
 もちろん我が国におきましても,ICT等を活用した学習活動を学校の裁量で出席扱いとして,評価に反映できるような仕組みがありますけれども,この措置がなされているのはまだ非常に少数にとどまっているところだと思います。今後例えばこのリモート学習の整備を,物理的な条件整備ももちろんですけれども,例えば不登校数に応じた加配教員の配置であるとか支援人員の派遣,在宅学習プログラムの作成や,もちろんその基礎となる遠隔教育のためのICTインフラ整備などを教育委員会が主体となって行うことによって,何らかの形で学校に来られない子供たちに継続的に遠隔教育を行えるようになるということが考えられると思います。
 現在義務教育の提供主体というのは,我が国では1条校の教員のみに限定されていますけれども,今その現行法制をドラスティックに変えることなく,こうした何らかの二重学籍やパートタイムの就学というような形で,システムとしてこういう形を持続的に整えていくことも,長期的に考えていただきたいと思います。

 「義務教育の供給主体も学習の場も学校以外となるようなホームスクール」は、kokageで示すところの「オルタナティブ教育」や「ホームスクーリング」に相当すると解釈できます。「学習の場のみを学校から家庭に移して,学校が義務教育を提供し続けるというホームスクール」は、「在宅学習」や「スクールアットホーム(民間教育団体が提供するホームエデュケーション含む)」ととらえてよいと思われます。
 現在、オルタナティブ教育に関する通知や法律等は存在しないので、文科省に提案することができる内容も、既存の通知や法律を運用して適用できる内容にとどまるのは道理です。つまり民間教育団体(フリースクールや不登校支援団体)や教育支援センター、夜間中学校、不登校特例校等に応用するオンライン授業やリモート学習の適用の判断です。


憲法の精神と、国が示す教育の目的・目標と、文科省が果たす役割と

 「ICT等を活用した学習活動を学校の裁量で出席扱いとして,評価に反映できるような仕組み」は、不登校支援の在り方に関する通知内容です。感染拡大防止対策としてのリモート学習、家庭学習は、在籍する学校が提供する学習教材であることから、不登校支援にも活用することができると考えるのは妥当です。ただこのタイミングで提供する目的は感染拡大防止対策としての休校中の措置であったため、わざわざ不登校児童生徒が活用できる旨は併記されませんでした。使用目的が異なるためと、対象が異なるためです。休校中の措置としての対応を、それと同時に不登校対応に活用できると説明する理由と根拠がありませんでした。これに気づいた家庭は「出席扱いにするツールとして使える条件がそろっている」と理解し、積極的に学校に活用を提案し、適用されることは容易に想像できました。実際に適用されています。特に不登校児童生徒へのお知らせがないことから「不登校児童生徒は対象にならない」と受け止めた場合は、それを利用したいと提案することすら思いつかないでしょう。学校の顔色と対応をお伺いする思考停止に陥った状態で、学校からの指示待ちの不登校ジプシーになっているからです。

出席扱い児童生徒数


 「二重学籍」と「パートタイムの就学」のキーワードは、それぞれ一条校の在籍とフリースクール在籍の二重在籍の解消のためのフリースクール認定を提言する「教育機会確保法の見直し案」と「Edtech「未来の教室」の提言 通信制ホームスクーリング」の内容を思わせます。

Edtech資料 新しい教育のカタチ

 教育機会確保法の成立は、教育基本法の改正の流れをある一定方向に推し進めるひとつの要因です。民間教育機関の公的な経済支援を求めるのとひきかえに、家庭への学習指導要領に沿った家庭学習を提供し、従来の在籍校から出される卒業証書とは異なる卒業資格(卒業証明)なるものを認める方向の動きがあります。そもそもの始まりは新自由主義国家の実現であり、より資本主義のルールに従い、経済優先として成長し続ける国家と、国の経済を支える人材養成を目的とした教育体制に向かう危うさを抱えています。国際人としての個々人のまなびの保障からはるか遠く、国のために必要な人材育成と国が必要と定める教育内容の国家教育への始まりです。しかしこれは一部の動きであり、全体ではないかもしれません。しかしその一部を占める大部分はなにかと見分けることは重要なことになるでしょう。

 文科省では、学習指導要領に沿った学習課程を公教育としていますから、それ以外の自由で多様なまなびの在り方の議論ましてや制度整備については理解を深める機会はまだまだ困難な様子です。今、議論されているのは、学校教育の多様化であると認識したうえで、「学校に行ける子」「学校で受けるはずの教育を学校以外で受ける子」が対象であることをふまえて、しっかりとそれぞれの要望や意見の聞き取りがあることを見分けていってほしいと思います。

 憲法の精神にのっとった普通教育の制度整備は、まだまだ先の話になりそうだと思わざるを得ませんね。


日本の公教育の発展と期待

 次に個人的に「これは」と思う箇所を抜粋します。学校教育運営の発展という前提をふまえた上での話になりますが、文科省と関わる立場に置かれる方々が、どういったことに関心をおき、参考となり、そして今後、どこに目を向けようとしているかを知るヒントとなると思った箇所です。(前後の文脈を理解するためにも全文に目を通されることをお勧めします。)

イギリスの教育事情と現状】
 
オンラインでの学習をするにあたり、どのような課題が想定しうるかの参考になる内容です。実際に日本でも懸念されている点だといえるでしょう。

(植田総括研究官)
 本日は,イギリスの教育課程,イングランドにおける教育課程,授業時数及び新型コロナウイルス感染症による学校の臨時休業における学習指導と題して報告させていただきます。
(略)
イギリスの現状としては,公立及び公営学校と私立との差や,社会経済的に不利益な地域や家庭の子供たちが,家庭環境や家庭のオンライン状況によりオンラインでのリモート学習へのアクセスが困難であったり,そもそも家庭での学習環境そのものが劣悪であるなどの理由から,十分な学習機会が得られず,学力の定着に差が出ているということなどが問題として指摘されています。
 このようにリモート学習や遠隔教育においては,貧富の差による学習の定着度の差が大きく出るというエビデンスが示されていることもあり,イギリスでは感染拡大を防ぐことを前提として,リモート学習環境を整備しつつも学校を再開し,対面授業による展開を広げていくという方針の下で,現在模索が続けられている状況と言えると思います。

 
【習得主義】
 日本は履修主義とされており、学年別(年齢主義)や形式卒業に係るメリット・デメリットがありますが、学校で授業を受ける以外の方法で学習を進めた場合の出欠の扱いや評定(指導要録の記録)に関して、習得主義への移行を提案する世論がたびたび上がります。文科省も日本独自の習得主義体制に目を向ける方針とのことです。

(園山教授)
修得主義に基づいておりますので,毎年,基本的には学年の進級判定が行われております。つきましては,原級留置であったり飛び級の可能性があります。これについては保護者とも協議することになっていますので,学校が一方的に決めるものではございません。なお近年,ここ20年ほどですが,フランスにおいては,知識の獲得よりも自立的な学習方法の獲得が定められています。学習の評価においてもその点が重点化されています。


(園山教授:原級措置に関する箇所)
原級留置ですけれども,フランスは昔から,小学校1年生に上がるときにも原級留置というのは一定程度,1割を超えるぐらいの数であった時代もありますので,どちらかというとあまり国民的にも抵抗なく受け止められているところがあったかと思うんですが,ここ1990年代後半以降ですが,中等教育まで全ての子供たちを進学させるという目標が掲げられてからは,原級留置を減らすというのが教育省の政策でもありましたので,大体今2割を切って,高校に進学する段階で,80%ぐらいの人は原級留置をせずに上がってきている状況にあります。
 ただ,これはOECDの加盟国の中ではやはり高い数字ですので,依然としてまだ高いと言っていいと思いますが,それでも国民的にそのことがあまり問題とされる文化はなくて,むしろ積極的に保護者も,自分の子供の学習のリズムに合わせて学ばせることを重視しますので,場合によっては,学校側というか,保護者の方が自分の子供の夏休みの期間の学び直しだけでは,ちょっと難しいので,1年もう一回留年させるということを選ぶ方もいます。
 保護者がもし反対をした場合ということですけど,この場合は異議申立ての仕組みがありますので,異議申立てを通じて学校の判断に異論を唱えることは可能です。基本的には保護者の意見が尊重されることになっているので,もし進級を希望されれば進級はできることになっています。ただ,今フランスの学校ではほぼほぼ原級留置をするという場合は,かなり学業成績が低い子供に限定されていますので,一般的には子供にとっても不幸な1年を繰り返すことになるとされております。

 一般的によく目にする主張としては、履修主義体制における学年別(年齢主義)のカリキュラムは、同学年においても教科別の理解の差(ギフテッドや発達凹凸)への支援が適切になされないことへの懸念と、形式卒業は基礎学力が身に付かずに進級することへの懸念があります。日本独自の習得主義体制とは、小中高校の6・3・3制を維持した上での、特定の分野(教科)における飛び級(大学入学資格年齢(18歳)未満の学生の大学講義の聴講)や、不登校等による学力(学習指導要領に定められた学年相応の学力)低下を防ぐ教育機会の提供が想定されます。
 いずれにせよ、学校教育の多様な運営化を図るものであると認識しておくことです。そこにオルタナティブ教育のような自由で多様な学びの機会の保障は含まれません。それは同時に「学校に行けない・行かない」多様なこどもたちへの学習機会の提供の支援までは未達であるということを意味します。


【不登校支援】

(園山教授:日本では夜間中学校や不登校特例校の設置にあたる箇所)
 学び直しが必要な場合には,遠隔教育などを活用するということが推進されています。あるいは全般的に全ての教科に対して遅れがあるとみなされた場合には,先ほどの教育成功個別プログラムを用意するということになります。特に中学生において落ちこぼれが問題となる,あるいはそれが後の中退につながるということもございますので,遠隔教育センターによるDevoirs Faitsという受講プログラムがございますので,それを積極的に活用するように促進しております。

 なんらかの理由で学校に行けない状況にある児童生徒および卒業生(形式卒業含む)に関して、学び直しの機会である夜間中学校(すでに中学校に相当する学齢であっても入学可能になっている)や既存の学習課程よりはゆるやかなカリキュラムの履修で成り立つ不登校特例校の設置はあるもののその数は少ないことと、民間教育施設や団体が提供する学習機会による学習が出席扱いや評定に反映されるにはハードルが高いと思われる現状があります。まだまだ「身近な不登校支援」とは言い難い状況です。また「本来はそうであるべきではない」という価値感に基づく偏見や差別も依然として根強く残っています。不登校は問題行動ではないのは確かですが、足元に広がるいわゆる「不登校に係る問題」は数多くあり、特に、進学・進級への障壁が本人と親ともに不安や心配の大きな種になっていることは間違いありません。その解消のためにできることはなにかを掘り下げる必要があることを忘れないでほしいと思います。
 次に、以下に抜粋した観点は、そういった課題解消のための参考になる報告だと感じました。

【オンラインの活用と展望】
 
オンライン学習やICT環境整備については、コロナ対策に有効な期間中に取り組むだけのものではなく、学校教育の多様な教育機会の窓口の提供やその多様な在り方を問う機会となる認識を持つものです。「コロナが収束したから」「学校の感染予防対策が万全だから」といって終わりにすることではないのです。

(秋田委員)今回のパッケージは,今どういうふうに取りあえず対応するかというところのご提案となっております。例えばオンライン等を,withコロナのみではなくてポストコロナになったときにも,どういう活用を考えているのでこれらをどうやっていくのだということについての共有が,必要ではないかと考えております。是非その辺り,今後オンラインの活用を,今対面授業ができないからオンライン授業ということだけでない形で,先ほどフランスのホームエデュケーションの話がありましたが,現在不登校であったり,それから予習,復習や反転授業をはじめ,いろいろな活用があるわけで,そういうことまでを含めた展望をお示しいたただき,その中で現在のwithコロナがどういう状況かというようなところが,今後議論が必要なのではないか


【家庭学習における学びの質】

 オンライン学習への期待が言われていますが、やはり気になるのが「授業配信それに代わる映像の活用だけで学力は身に付くのか。理解に至るのか」という疑問です。家庭学習では「親が教える」ことが、さも当然であるように思われている節がありますが、それは非常に難しいことで、多くのホームスクール家庭は「親が教える」ことに初期の段階でこだわらなくなってきます。むしろ外注する(アウトソーシング)工夫と知恵を繰り広げます。親心と指導力は真逆であるくらいに考えてよいくらいです。
 「教育」や「学習」のイメージが、「先生役と生徒役」「机の上で、教科書を広げて、教科書の内容を覚えて、正答することができることが理解するということ」などの固定概念になってはいないでしょうか。いままで学校に隔離されていたこどもたちの学習環境が家庭に共有されてこなかったことの弊害はないでしょうか。おおよそ家庭が想像する「こどもが勉強する(学び習う)」カタチは、事実とは剥離しているものと考えられます。
 議事録を読んでも、やはりそれについての議論がまだまだ深められるべき点と理解されているものと思われます。

(奈須委員)オンラインについては既にいろんな御議論がありましたけど,家庭学習における学びの質とそれを支える戦略については,まだまだ議論が不十分であるように思います。
 実際にこの教科書発行者の出しているものを見たり,この間の実践を見ても,家庭学習というのは本当にドリルとか暗記とかになっているんですけれども,本当にそれしかできないのか,あるいは今僕らが目指す子供の像としては,アクティブラーナーを考えているわけで,家庭で1人でももっと高度なというか,概念的なというか,探究的な学習ができるような支援策も併せて考えてもいいのではないかと思います。この辺の学びの質のイメージということを再度吟味する必要があるのかなと。今回メタ認知とか学習の自己調整ということも学力の中に位置付け,評価の中にも位置付けましたが,むしろ家庭学習の中でそのことを一つ考えるいい契機になるのではないかと思っています。


【教科書横断的なカリキュラム・マネジメント】

 「総合学習」というものがあります。これが導入されるという時の説明イメージでは、まさに”教科を横断する”学習形態をいいました。しかしゆとり教育が実際に教育現場で開始したころには、「ゆとり」の意味を肌感覚では知ることのない世代が中心となっており、教科を横断する総合的な学びの在り方のイメージは不十分であったという印象を残しました。ゆえに総合学習は軽く扱われ、教科を横断することへの理解は深まらないままになっているように思います。
 家庭学習では、時間割通りに生活リズムを刻んでいくことは現実的ではなく、生活のなかで繰り広げられるシーンの時折に教科学習につながる「気づき」を次々と提供していく場面が生まれるのが日常です。これはホームスクール家庭に限らず、学校の授業をより身近なものとして修得していくために必要な家庭学習の在り方でも同様です。予習・復習としてドリルや教科書を開くこととは違い、理解が定着するために必要な往復なのです。

(奈須委員)3つ目です。時数の圧縮ということを考えますと,今回の指導要領で出た教科等横断的なカリキュラム・マネジメント,これは実践的な経験から時数の圧縮にとても有利だということが知られていますし,また子供にとって意味を感じながら有機的な学びを実現するということが知られています。先ほどのイギリスやフランスでも活発になされているということで,この点でこれから日本は頑張らなきゃいけないと思うんですけれども,その時数不足に対する対応ということの中で,教科等横断的な視点に基づくカリキュラム・マネジメントの推進ということを,もっと強く打ち出してもいいのではないかなと思いました。


【在籍する学校提供のコンテンツにこだわらない】

 「学びの環境を整える」観点からいえば、なにも在籍校から提供される教材やコンテンツにこだわる必要性がありません。その学習サポートがより身近であるためにはオフラインを担う在籍校の教員による働きかけは重要だと思われます。より個々の児童生徒の背景や家庭環境等の把握をする機会があるためです。また自治体により提供できる範囲とその体力の格差は生じてしまいますから、その解消という意味でも、先のイギリスの例でも報告されたように検定教科書の在り方や活用する教材の適用範囲の拡大など、さらなる可能性が拡がるものと期待したいところではないでしょうか。

(大島委員)オンラインのそういう教材というのは,例えばNHK for Schoolとかでいろいろと最近出てきているんです。なので,やはり自前で作るということも大事なんですけれども,そういうものを連携しながらうまく取り込んでいくことも非常に大事だと思いますので,そういうところも是非模索しながら,オンライン教育とオフライン,やはりどうしても実験であったりとかはオフラインでやらないといけないですので,そういうことをうまく組み合わせながら,日本ならでは教育というのを作り上げていくことができるかなと思いますし,それは多分チャンスですし,できるんじゃないかと思っていますので,今後の発展を期待しております。 
(堀田委員)学校が再開した状態において,学校においてICTを活用した学習を,それはある部分は個別最適化を指向したことかもしれないし,ある部分は協働でクラウドで一緒に情報を共有しながら対話的に学ぶというような学習かもしれませんけど,そのようなICT環境を生かした学習体験を積み重ねながら,先ほど大島先生がおっしゃったように,オンラインはオンラインで,対面は対面で,両方が学習環境として提供されるような,そういうハイブリッドな状況を作っておくことが大事かなと思います。このことは,何を学ぶかではなくて,どのように学ぶかの部分にあたる,多様な学び方の経験値を上げておくということとつながるかなと思いますし,今般の学習指導要領の主旨とも一致するものです。
(戸ヶ崎委員)「学校の授業以外の場=家庭学習」と捉えるのではなく,図書館,博物館,美術館などの施設や学校運営協議会などと連携協力した取組も考えられます。さらに,「20%は学校外で」が一人歩きし「安易な家庭学習」とならないよう,通知にもあるように,十分な事前指導,学習状況の適切な把握とその後の指導改善への活用,家庭等の連携や丁寧な説明,個別指導を行うなど,慎重を期する必要があります。
 最後ですが,オンライン学習でもプリント学習においても,「学びの木(問題)」ばかり見ていても,「学びの森(文脈)」が把握できないと深い学びは期待できません。「機会はあっても学びなし」ということにもなりかねません。今後は通常授業の導入にあたる「何ができるようになるか」「何を学ぶか」などを子供たちがしっかり理解できるよう,家庭学習を含めた「学習活動の重点化」といった観点のカリマネ(※カリキュラム・マネジメント)の推進こそ重要であると考えます。


(参考)新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会 

 以下の内容に関しては、これまでnoteでも書いてきたことと深く関わりますので、機会を作り、読み込んでいきたいと思っています。noteに書く機会につながりましたら、またどうぞお目に止まればうれしいです。


【オンライン学習の在り方の議論】
 
続いて、議事録より「昨日の特別部会」のワードが出ましたが、こちらも重要と思われる気になる内容でしたので、参考に、その議事録と配布資料のリンクをここに置いておきます。

【板倉教育課程企画室長】 ありがとうございます。昨日の特別部会では,オンライン学習の在り方等についても議論されたところでございまして,前半の議題に関係する部分について御紹介いたしますと,対面指導の重要性,あるいは個別最適化した学び体話的,協働的,な学びを分けて議論する必要性,履修主義,修得主義についての考え方を丁寧に議論していくことの必要性などについて議論が行われました。


『新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会 (第9回) 議事録』
1.日時
令和2年6月11日(木曜日)
議題
1.新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた今後の学校教育の在り方等について
2.いじめ・不登校・児童虐待への対応策の充実について
その他


(参考)
新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会 議事要旨・議事録・配付資料

第12回【開催日時:令和2年8月20日(木曜日)14時00分~17時00分】
第11回【開催日時:令和2年7月17日(金曜日)14時30分~17時30分】
第10回【開催日時:令和2年6月18日(木曜日)10時00分~12時30分】
第9回【開催日時:令和2年6月11日(木曜日)9時30分~12時00分】


(後編」はこちら

ここから先は

0字
不登校支援、教育機会確保法、ホームスクーリング制度、そして公教育の在り方に問いかける。それぞれのマガジンと連携します。

全国一斉休校要請が出された2020年2月から 学校のこと 自宅学習のこと オンライン授業のことなどテーマ別にかきつづったnoteまとめマガ…

ここまでお読みくださりありがとうございます! 心に響くなにかをお伝えできていたら、うれしいです。 フォロー&サポートも是非。お待ちしています。