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【舞台】暮らしなずむばかりで 感想

2023年1月27日 19:00
下北・ザ・スズナリ
能見:高田聖子さん
逆巻:宍戸美和公さん
庄司:松村武さん


脚本:福原充則さん
演出:木野花さん

時系列が逆行しているけどいいんです。私の備忘録は私が忘れないためにあり、円盤になれよと嘆きを刻むためにあるんだから。

ところで観に行く舞台がスズナリとわかると、腰や尻が物理的に恐怖を覚える年齢になってしまった。こんなふうにだんだん腰が引けて行って、次第に足を運べなくなる舞台が増えていくんだろうか…肉体的制限からハコを選ぶ人間にはなりたくない…と忍び寄る加齢におののきつつ、観に行った。
結果として尻はおおいにパイプ椅子に負けたわけだけど、スズナリのあの異空間ぷりにひたひたにひたって帰ってきた。
こことは違う世界に入りこんで、加齢がなんぼのもんじゃい!とパワーをもらって帰ってきた舞台でありました。
尻は鍛えよう。人生の課題がまたひとつ増えた。

50代

登場人物の年齢である。
50代で様々事情から同じアパートに集まった三人が友達になろうとする話、
と書くと普通のことのようですごい違和感がある。
50代で友達…?
人間いろいろと固まってしまうと、これ以上のラインから人を踏み込ませないように、あるいはその人の深いところに踏み込まないように距離をとるようになる。
私は彼らより年下だけど、友達と呼べる関係を新規で築けているかというと考えてしまうところがある。

三人の男女の友達関係はそれはもう無理矢理に始まった。
母を亡くし疲れた虚ろな心を抱え換気扇の下で煙草を吹かす能見の部屋に、かなり前から忍び込んでいた逆巻が突然現れ、煙草を吸うなとひと悶着あったのち、外に出た二人。
そこを通りがかった庄司が声をかけ、「私たちは友達になりましょう」と言う。

それで三人はノッチ、マッキー、ジョージとあだ名で呼びあう仲にはならなかったが、互いに能見、逆巻、庄司と呼びあい友達のような活動を始めていくのだった。

三人は各々の持つ趣味を紹介する。
逆巻の暗渠めぐり、庄司の子守歌蒐集、そして能見の立ち尽くし。

ん?となったが、文字通り立ち尽くす趣味なのである。

一日朝から日が落ちるまで街道にただ立ち尽くし、行きかう人たちをだた見つめ続けるという趣味。それこそ会社をやめ、貯金が尽きるまで、立ち尽くし続けたという。
介護と生活に疲れて、母が死んだのでぽっかりと時間があいてしまって、蕎麦打ちの教室に通い始めたらアレルギー発症してなんだかな…という人なのに、おそらくこのひとが三人の中で一番常識人に見えて一番ぶっとんでんなだろーな…と察せられる。
庄司の子守歌蒐集もかなり変態入っていたけれども。実際ほかの二人にドン引かれていたけれども。

そんなこんなで彼らはぎこちなく互いの距離を縮めたり離れたりしつつの活動を続けていき、その交遊の中で垣間見える登場人物たちのネジのとび加減にオイオイと無言突っ込みを入れつつ物語は進む。

骨粉スプラッシュ

まーとにかく役者さんの演技が上手いし巧いわで、粥をすするように見てしまった。ノーストレス、ノーストップ食道だ。
庄司役の松村さんのいいひとそうで、夢見がちな持論が強めで、うさんくさそうなところ。
逆巻役の宍戸さんの率直な性格で、感情が豊かで、ちょっとめんどくさいこだわりがあるところ。
そして能見役の高田さんの穏やかに見えて、実は大変底知れぬエネルギーを秘めているところ。
役の魅力と役者の魅力がぴったりあてはまっていて、満足感も爽快感もすごい。

大好きなシーンは、三人が大人の社会科見学で国会図書館に行く場面だ。

今回の大人の社会科見学の目的地は国会図書館。そこ行く前に三人は待ち合わせる。
どでかいスーツケースを持ち、離婚して家を出てきたばかりの庄司は、自分のこの大荷物を見た二人に少しは心配されるかなと期待するのだが、次にやってきた逆巻は部屋着に半纏をひっかけ、サンダルをはいた姿である。
明らかに自分よりも浮いている格好に、たまらずどうしたのと声をかけるが虚ろな声でなんでもないよと答えるだけ。
そして最後にやってきた能見は髪はボサボサ、パジャマ姿に骨壺をかかえて待ち合わせ場所にやってきた。
どうみても何かがあったとしか思えない有様だが、能見も特に語ろうとしない。
てっきり心配してもらえると思っていた庄司が、明らかに自分より深刻そうな事情を抱えてそうな二人を前に、俺って今一番大変そうじゃないじゃんと自分でツッコミを入れるのが、かわいくておかしい。

松村さんのあのうざいけど、ちょっと小心でいいひとな感じの部分、ほんと良かったなあ。そしてほんとこの人福原脚本に似合うなあ。次の作品でも是非出てきてほしいです。

二人の事情は後々になってわかるのだが。
逆巻は、能見の地下アイドルくずれのクズ弟に騙されてファンクラブに加入させられ、前金制の膨大な会費を支払って、全財産をむしりとられていた。
能見は、アパートで寝タバコ初チャレンジと試みたはいいが、消したはずのタバコが消えておらず、気が付けば部屋は炎に包まれ、骨壺を抱えて逃げ延びたところだった。

着の身着のままのていで逃げ出し、いろいろ張り詰めていたものがぷつんと切れた能見が、骨壺に手を突っ込んで骨の粉を国会図書館の職員に浴びせまくりながら、自分の事情を語るというか叫ぶシーンがめっちゃ良かったです。
いや、待ち合わせの時から高田さんは良すぎてずっと目を離せなかったんですけども。
特に骨壺持って待ち合わせに現れたところもう一回見たいなあ…。あの佇まいのインパクトが物凄くてね。

まあそうして逆巻のアパートは全焼し、そこに部屋を借りていた能見、庄司は住むべき場所を失った。
タバコナイスチャレンジ、で能見を許す逆巻ってこの段階で既に友達を超えているんじゃ…と思ったものである。天使かな。

冒険が終わっても

文無しになった三人の前に、ムツゴロウに似た興信所の男が現れ、能見の昔の彼氏が亡くなったと告げる。
彼は資産家となり、別れた女たちに今まで借りたお金を色を付けて返したいと遺言を残した。
興信所の男が教えた場所は能見の故郷。はるばる電車の長旅でその地を再び踏んだ能見の前に、元カレの今カノが現れ、彼からあなたのお噂はかねがねとご挨拶。
男が死んだ後もなんか醜い女のバトルが始まっちゃうんだろーかという一抹の不安はすぐに裏切られ、割合穏やかな感じで今カノの案内で三人はボートに乗せられる。
そこには能見の元カレの死体も乗っていた。
生前の彼が海好きだったので、海に沈める手伝いをしてやってくれと涙ながらに犯罪の片棒を担がせようとする元カノ。醜い女同士のバトルなんてベタな展開じゃなかった。いやはや、敵意を向けられるより、善意を強要されるこの恐ろしさよ。
とはいえそこに布に包まれて転がっているのは能見の元カレだし、犯罪だけど海に沈めてやりたいだけだからという今カノの必死な気持ちを汲んで、三人は死体を海に投げ入れてやる。
家無し、ほぼ一文無しで、気が付いたらあれよあれよのうちに、真っ暗な海の真ん中で、ついでに能見は母親の遺骨の残りも海に撒いている。
ここはどこだろう。私はなんて遠いさびしいところまで来たのだろう。そんなような己の心情を語る高田さんの声も、抒情たっぷりな福原節もすばらしく、私もまたその最果てへと心が運ばれる。

元カレの今カノから無事にもらったお金を手に、しばらく三人はこの町で過ごすことにする。
資産家という割にはもらったお金は、さすがにアパートを立て直せるくらいの金額とはいかず、帰る場所もないし折角だから豪遊してやれというわけだ。
旅館のモーニングも食べつくし、さすがにそろそろアパートの保険もおりてるだろうし戻ろうかなと逆巻と庄司が相談してたときに、なにやらノートを手にした能見が息せき切って駆け込んでくる。
バカなことばっかりしてた元カレの影響で、私もバカなことしてみたいと、かつて能見が考えた町の信用金庫を襲う計画書。
それが今能見が手にしているノートに書かれているのだった。

「私、やってみたい。銀行強盗、みんなと」

ウワー!友達ってこんな重いもんだったっけー!?
この年だけど色々やってみたいことはやってみようと言ったよ?言ったけど強盗はどうかなあと止めにかかる逆巻と庄司。
けれども信金の警備の薄さや逃げルートも考えてある、実現は可能という能見の熱弁に流され、逆巻もやろう!と言い出す。ウワー!エンジンが二台になっちまった。止まらねえ!
最後までごねる庄司に、能見は「庄司が始めたんだよ、友達になろうって」と言い出す。

「俺のせいだっていうの?」
「違う。感謝してるってこと」

互いに馬鹿なことを言い合えるようになれて?この計画を一緒に実行しようと思えるまでの仲になれて?能見の説明は説明になってないけど、その思いつめた目がすごい、こわい。
ああーー私たちはなんてところにきてしまったんだろう。
結局、人は殺さないお金は盗まない、ただ信用金庫にある大金庫の中を覗いてくるだけという目的を念押しして、庄司もまたやるよ!と頷いたのだった。

計画通り信金の職員を気絶させ、目覚めさせたところでウノなどしながら心の距離を縮めていき、金庫のカギを奪う。
金庫の扉をあけるとそこにあったのは、昔の男が残したとおぼしきリュックサックだった。

「ここに来たってことは、あの計画を実行したってことだね。僕の馬鹿な話をきいてくれた、バカな君のためにこれを残します」

元カレからのメッセージ。リュックの中身はなんと八千万。これでアパートも再興できると喜ぶ三人。

その後で能見のバイト先のオーナーがチェーンソー持ってやってきて、「ボーダー!」と能見の分を分からせようとするが、「ノー!ボーダー!」と能見が反撃し、互いの立場を主張し吠えあうという戦いがあったのだが、まあちょっとそのあたりは割愛させて頂く。すごい面白いシーンだったけど。

店長をやりすごし、信金を出た三人は脱出用の小さなボートを目指す。これで水かさが増し、急流となった川を下って逃げるのだ。
警報機は鳴らずに済んだので、川を下って逃げる必要はないのだが、「激流下りやってみたい」という能見。金庫破りもしたのだから、ここまできたら激流下りもいくか、のノリで頷く二人。
乗りかけては「待って、待って」と降りる。

「もし、三人が川下りの途中ではぐれちゃったらどうする?」
「待ち合わせ場所決めよう。どこにする?」
『ムツゴロウ王国!!!』

よし、と乗り込むものの、また「待って、待って」

「もしさ、もし、三人のうちの誰かが捕まっちゃって、あなたたちの関係は
なんだって警察に聞かれることがあったらさ…そしたらさ…」
顔を見合わせる三人。そして声を揃える。
『ともだち~~~~~~~~!!!!』
「だよね!いいんだよね!」

いいんだよね、と確認する逆巻が愛おしい。
そうだよ、友達だよ。友達になっちゃってるよ。その単語の合唱に、川のように溢れることはなくても、ジワジワ涙がせりあがってくる。
この期に及んで関係にあぐらをかかず、互いの気持ちを確認しあっているのが、臆病で大人で50代の対等な友達。

確認しあって今度こそ三人は小さな船に身をゆだねる。そしてジェットコースターのように川を下っていく。

「アパート再建してもさ、八千万あったらまだ余るよね。何しようかなあ」
俗っぽい夢を思い描く庄司の声が響く。そんな彼をあざ笑うように、能見の背負ったリュックからはお札が空へと舞い上がっている。
冒険激流の果てにたどり着いたときに彼らがどうなっているかはわからない。でもできることなら友達のままでいてほしい。

***

加齢がなんぼのもんじゃい。パイプ椅子に痛めつけられた尻がなんぼのもんじゃい。
私もこの先一緒に激流を下る友達ができるかもしれないから。まずは尻上げの筋トレからだ。
いずれの時に川も下るし、スズナリにもまた来る。月影番外地がここでやるというのなら万全の尻でまた来よう。今とは違う尻で待ち合わせをしよう。


超個人的

なにぶん記憶だけを頼りに書いているので、セリフ等は一言一句正しいわけじゃないです。個人の備忘録なのであまりあてにはしないでください。

福原さん、木野花さん、月影のタッグは本当に面白くて、ずーっと見逃さずに通っていますが、これも円盤にならん…よね…
でもあのスズナリという場所は、誇張ではなく本当に異界になるので、舞台での鑑賞が一番だと思うのですが、でもね。でもね…

つんざきも、どどめ雪ももう一度観たい時があるんだよォ!!!
どうか円盤よろしくおねがいします!!!







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