生きているということ

現代を生きる私が生きているということ
それはテレビを消して静寂に恐怖すること
一日は入らなかった風呂を後悔して昼間に浴びるシャワー
フローリングに奪われる足の温度
退屈な職場で食べる鶏肉とたまごと白飯と青菜の弁当

いちょう並木を横目に歩く私が生きているということ
それはいちょうの葉を人知れず蹴飛ばすこと
外気に奪われた温度を二百円の甘いコーヒーで温めること
ふと、先に死んだ祖父を思い出し膝の上の温かさを思うこと

昼間にめざめた私が生きているということ
それは着飾っていた爪をやめること
心慌意乱しているのに黙考しているように見えること
嘘をついて自分を見逃すこと
嘘をやめて自分を追いかけること
留守の人の手の温かさと匂いを思い出すこと