体調不良は自分で治す〜子宮の厚さ編〜
昔、オーストリアのハプスブルク家で、男系跡継ぎが途絶えたことがあったそうな。当主カール6世の長男が夭折し、以後生まれたのは女の子ばかり。
父王は仕方なく跡継ぎを長女に決めたものの、実務は婿にさせようという計画。しかし婿に帝王学を授ける間もなく、父王は突然亡くなってしまった。この間、生まれた孫は3人。すべて女の子だった。
当主となった長女は、このとき23歳。帝王学など学んでいないし、女だからと軽視され、他国からも攻められる。
しかし誰からも期待されなかった彼女こそが、ハプスブルク家歴代君主の中で最も優秀と言われた、マリア=テレジアなのである――
この話を知ったとき、「天意」とか「神のお導き」ってあるのかもしれないな、などと思った。
周りは必死に足掻いたが、どうやったってマリア=テレジアが王位に就く流れになっているようで。
まるで「まだわかりませんか? この子が真の王ですよ」と、天が言っているようで。
*
子を産み、家族としたいと願っていた頃。婦人科の先生に「子宮が薄い」と言われたことがあった。当然それでは、子は授かりにくい。
子宮を厚くするために当時の私が考えたのは、「薬じゃなくて、食べ物で改善したい」ということ。
何を食べたら子宮は厚くなるのか。
私の問いに姉は毎回、優秀な図書館司書の如く本を薦めてくれる。このときは定真理子さんという方の栄養セラピー本がいいんじゃないかと教えてくれた。
早速熟読。体の材料はたんぱく質――ということで、本に従い、間食にゆで卵やチーズなど、たんぱく質の多い食品をせっせと食べた。
1ヶ月後――
「すごい! 子宮が厚くなってるよ! どうやったの?」
婦人科の先生から歓喜の声が放たれた。
え、マジで?
というのが私の率直な感想。
本当に食べ物で子宮を厚くすることに成功してしまった。しかもたった1ヶ月で。私たちの体というのは、やはり食べた物でできているのだな、と実感がこみ上げる。
しかし子宮は厚くなったが、残念ながら子を宿すことはなかった。
*
あれほど子を産みたいと願い。
あれほど子がいないことを卑屈に思っていた。
その私が。
今はすっかり、子への執着はなくなった。
そうなったのは、いよいよ離婚しようと心が決まった、あのときだ。本当にこれでいいのかと悩んでいた私に、ふと、言葉が湧いた。
――せっかく子供、いないんだし――
ああ、そうか。そうだね。
「せっかく」子供がいないんだし。
身軽なもんだ。
私をここに縛るものは、何もない。
急に心が軽くなる。
空まで飛んでいけるかと思った。
よし、出ていこう。
身も心も命も、削らない、病まない人生を歩いていこう。
決意した途端、びっくりするほど、トントントントン、と物事が整っていった。「タイミングを見て、年内には出ていけるようにしよう」と思っていたのだが、「もう明日にでも出ていける」くらいの流れが勢いよく整った。
あとは私が行動するだけ。
恐れず、ひるまず。
「さあ、こっちにおいで」と促されているかのようだった。
そうして今の私がある。
「母」にはならず、「娘」のまま今生をすごすのだろうが、それも良かろう。私は今、とても幸せだ。
それに多分、持病が一番ひどかったあの頃に、妊娠、出産、育児をしていたら、きっと私の体はもっとひどい状態に陥っていただろう。「母は強し」の力を使ったとて、私の体は持病の悪化に耐えられなかったと思う。
どんなにあがいても、子には恵まれなかった。
だけどそのことが、私を今の暮らしに連れてきてくれたのだ。
マリア=テレジアの人生とは比べようもないが。
私の人生もまた、天が良いようにしてくれたわけだ。
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