母の「贅沢」
愛犬との朝の散歩中、ふと向こうに目をやると、畑に母の姿があった。
この時間、母は朝ごはんの支度をしているはず。ということはきっと、朝ごはんの食材をとりに来たのだろう。あの場所はキュウリとミニトマトか。
――昔、母と交わした会話を思い出す。
私がお昼ごはんを準備しようとしていた、ある夏のことだ。
「あんだ! お昼何作んの?」
「冷やし中華にしようかと」
「よし! ほんじゃちょっと待ってで!」
母はいそいそと畑へ行き、よく育ったトマトやキュウリをもぎ始めた。
「はいこれ!」
私の大きな手でも抱えきれないほどの量を渡される。何人分のつもりだ。
「私ねぇ、こうやって今から作る物の食材をすぐ畑に取りに行って使うっていうのがさ、すっごい贅沢なことだと思ってるの」
あのときの母の、輝いた目と弾んた声。
今でも覚えている。
今日もきっと、贅沢な朝ごはんをこしらえているのだろう。
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