【無料公開①】『#クリエイティブなマーケティング』 - はじめに
はじめまして。
博報堂/SIXでストラテジック・クリエイティブ・ディレクターをしている、藤平 達之(とうへい たつゆき)と申します。
このたび、12月3日に『クリエイティブなマーケティング』 という書籍を刊行することになりました。
本書は、マーケティング/ブランディングにおいて重要な考え方になっているパーパスを起点に、
① そのブランドらしいパーパスを開発するアプローチ
② そのパーパスから新しい顧客体験/アイデアを作るアプローチ
③ パーパス起点にDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するアプローチ
などについて紹介をしている書籍です。
マーケティング/ブランディングに携わる方で、
・パーパス発想に興味がある方/好きである
・既存のマーケティングに閉塞感や行き詰まりを感じている
・新しい考え方にトライしたい
といった課題意識を持たれている方にお読みいただければ、と思っている次第です。
そうはいっても「どんな内容の本なんだ?」ということになると思いますので、このnoteで、発売前に「はじめに」と「Part1 新しいマーケティングの兆し」を無料で全文公開していきます。
なお、書籍の内容をそのまま掲載しているため、一部読みにくい表現がある可能性がありますが、ご承知いただけると幸いです。
---ここから書籍の内容です---
なぜ本書を執筆したのか
「マーケティングやブランディングがどんどん難しくなっている」という話を、よく聞きます。多くの製品が機能で差別化できなくなっていること、デジタル化の進展に伴う情報過多やマーケティング手法の高度化などが、よく理由として挙げられています。
かつては、めくるめく速度で、製品のスペックが進化していきました。テレビはどんどん薄くなり、デジカメの画素数が倍々ゲームで増えていく。
つまり、自分が持っているものが、すぐ「古く」なっていった。ガラケーの画素や和音がどんどん増えていった時代を、私も鮮明に覚えています。
ただ、当たり前ですが、モノづくり大国・日本でも、ずっとこんな時代が続くわけではありません。スペックは横並びになり、生活必需品と呼ばれるものはもちろん、多くのものをみんなが持っているように。結果、生活者は〝満腹〞になったのに、似たような〝食事〞が提供され続ける、という状態が生まれました。
「情報過多」も、とんでもない状況にあります。博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所の「メディア定点調査」によれば、メディア総接触時間(1日あたり・週平均)は、450.9分(2021年)。一方で、例えばですが、世界でアップロードされるYouTubeの動画は、1分あたりで500時間分だといいます。
情報も、製品やサービスと同様に、供給が需要を大きく上回っており、いうならば、生活者は、情報という砂が吹き荒れる砂漠に、ぽつんと一人立っているような状況です。
それに加えて、ステルスマーケティング(企業からの依頼であることを隠して、生活者が特定のサービスや商品を宣伝すること)やランキングの操作など、悪質な情報発信も、残念ながら増えてしまった。
結果、企業の発信する情報が、すぐには信用されなくなってきているようにも思います。
そして、デジタル化も、マーケティングを難しくしました。デジタルには、スペースの制約がなく、売り方もグッと自由になったので、異種格闘技を戦わなければいけません。
なんなら、新しいルールも作れるようになっています。
さらに、ソーシャルメディアがブランドを透明にしました。いろいろなことが、すぐにバレる、そして叩かれることもある。多くのブランドにとって「炎上」の二文字は、なんとしても避けたいことではないでしょうか。
機能で差別化できない、情報過多と情報疲れ、デジタル時代の異種格闘技戦。
もっというと、少子高齢化と人口減少で国内のお客さんはどんどん減っていく―。
一方、グローバルに向けた製品/サービス開発や情報発信も必要になる。
これだけの変化が重なれば、マーケティング/ブランディングにも、新しいアプローチが必要になりそうです。
そんな状況なのに、「大変だ」「難しい」と嘆きながら、これまでと同じ理論や発想法をベースにしているケースもよく聞きます。
私は、難しいけれど「楽しい」のが、今のマーケティング/ブランディングであると思っています。今の時代のマーケティングやブランディングは楽しい。
楽しいといっても、爆笑するような楽しさではもちろんなく、「自分の発想や気づきが突破口になる」というクリエイティブな楽しさです。めちゃくちゃネガティブに始まった(ように見える)本書ですが、私の思考はいたってポジティブです。
そして、この本のテーマである「PJMメソッド」は、こういった想いで開発した、マーケティング/ブランディングの新しい発想法であり、実践型のアプローチです。
私は何者なのか
ここで、少しだけ自己紹介をさせていただきます。
私は、博報堂、そして博報堂グループのクリエイティブブティックであるSIXという会社で、「ストラテジック・クリエイティブ・ディレクター(戦略CD)」「UXデザイナー」(UX=ユーザーエクスペリエンス=顧客体験)という2つの肩書きを持って仕事をしています。
戦略CDというのは、博報堂で2021年にできた肩書きです。現在、博報堂グループには約10名おり、私が最年少。戦略CDが目指しているのは「縦の統合」で、戦略設計からクリエイティブディレクションまで一気通貫して取り組む業務を担います(分かりやすく言うと、市場調査も広告制作もリードする立場です)。
これは、私自身のキャリアと重なるところがあります。入社して約4年は、ストラテジックプラニングの部門でクライアントの戦略開発を支援。各種リサーチや新商品のコンセプト開発、コミュニケーション戦略の設計などを担当してきました。
その後、クリエイティブの部門へ異動し、プラナーとしてTVCM、PR、キャンペーンなど、さまざまなクリエイティブ制作に携わるという、かっこよく言えば〝両利き〟のキャリアを過ごしてきました。
もうひとつの肩書きであるUXデザイナーが目指すのは「横の統合」です。少し前までは、広告会社のクリエイターには、広告(TVCMなど)を作ることが求められていました。
ただし、課題解決において、必ずしも広告が最適とは限らないケースが増えてきた。例えば私も、課題に応じてデジタルサービスを作ったり、プロダクトを作ったり、書籍を出版したりしてきました。シンポジウムの運営も、分析ツールの開発も、業務提携をプロデュースすることも、クリエイターになってから担当した仕事です。
つまり、「いろいろな手口を駆使して最適なUXを作ること」が、今の時代の広告会社のクリエイターに求められているわけです。
私は、そんな縦と横の統合を掛け算しながら、戦略を起点に顧客体験のためのさまざまなアイデアを作って、つまり、左脳と右脳を行き来しながら、約10年間、博報堂で仕事をしています。
「PJMメソッド」とは何なのか
話を戻すと、「PJMメソッド」は、戦略思考とクリエイティブジャンプ(思考が一気に飛躍する瞬間)を両立させるための、マーケティング/ブランディングの新しい手法。タイトルの通り、「クリエイティブなマーケティング」を実現するためのアプローチを体系化したものです。
「PJMメソッド」では、まず、ブランドがこの社会に存在する意義を「パーパス(P)」として規定します。
その後、生活者がそのブランドに対して持つ本当の欲求=「ジョブ(J)」を見つけ出し、それが表れる具体的な瞬間=「モーメント(M)」を発見していきます。
最終的には、この3つの視点を掛け算して、ブランドが提供するべき「顧客体験(UX)」のコンセプトを作って、アイデア開発につなげていくのです。
パーパス、ジョブ、モーメントという言葉は、キーワードとして流行ったこともあり、マーケターやクリエイターにはなじみのある概念だと思いますが、それらを組み合わせるのが、このメソッドの新しさかもしれません。
それぞれについて、もう少しだけ解説します。
「パーパス」はブランドの存在意義のこと。
「そのブランドが社会になぜ存在しているのか?」「そのブランドがあると社会にどんないいことが増えるのか?」を、社会に向けて規定しようという考えです。
「ジョブ」は、生活者がそのブランドにお金を払う本当の理由・欲求を指します。インサイト(生活者とブランドの「新しい/意外な関係性」の発見)やアンメットニーズ(まだ満たされていない潜在的な気持ちのこと)を、より深掘りした概念といえると思います。表面的なニーズに対して、深層的なジョブ、という整理をされたりもします。
ジョブを見つけた先に考えるのがフレネミーです。フレネミーは、フレンド(友達)とエネミー(敵)を組み合わせた言葉で、パートナーにも競争相手にもなり得る存在のこと。
同一カテゴリ内だけではなく、ブランドの新しいシェアソースになる〝思わぬ味方/敵〞となる存在を見つけていきます。
例えば、この本は、隣に並んでいる本だけでなく、気になっていたオンラインセミナーや、この後行くカフェ代などと比較されているかもしれません。
買っていただけた後は、ドラマや眠気などとの時間の競い合いが始まるでしょうし、読書タイムのコーヒーとは相性がよくなるでしょう(書いていて、コーヒーチケットと一緒に販売したらよさそうだと気づきました)。
最後の「モーメント」は、生活者がブランドを欲するリアルな瞬間のこと。欲しい! 使いたい! と思ってもらえる瞬間がいつなのかを考えます。
それは、内的な感情と外的な環境に区分できるので、ソーシャルメディアを駆使しながら、ブランドの追い風になる瞬間を見つけ出していきます。
例えば、この本は、「部署異動があったとき」「新年度」「次年度戦略策定の業務が始まるとき」などが、購入のキッカケになるモーメントかもしれません。
パーパスで「ブランドの存在意義」が決まり、ジョブとモーメントで「リアルな欲求と瞬間」が明らかになる。
そうすると、その先に、ブランドとして提供するべき顧客体験が見えてきます。それは、例えば、どんなキャッチコピーなのか、どんな新しいサービスなのか、などです。
実際に、私たちは、PJMメソッドを用いて、広告コミュニケーションはもちろん、ゼロから金融サービスを作ったり、IoTプロダクトの顧客体験を開発したり、事業統合を推進したり、日用品ブランドのリブランディングに取り組んだり、多くのクライアントとさまざまな顧客体験を実装してきました。
---ここまで書籍の内容です---
いかがでしたでしょうか。
横文字が多い考え方ではあるのですが、パーパス自体は事業やブランドを大きく飛躍させるポテンシャルがあると考えています。
次回は、「Part1 新しいマーケティングの兆し」として、私がプランニングの際に意識していることををご紹介します。
ぬるっとnoteデビューしてしまいましたが、これからどうぞよろしくお願いいたします。