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2022年4月24日のレアル・ベティス
スペインサッカーのベティスが国王杯で優勝!
よく考えてみると、応援してるチームが頂点を極めるって初めてかも。
というか「何かのサポです」みたいな事はベティス以外になく、そのベティスの17年ぶりのタイトルなんだから、それはそうだよね。
20年前のスペイン旅行でたまたま「本場のサッカーでも見るか」と足を運んだのが、改修前のベティスのホームスタジアム、ベニートビジャマリンでした。サポーターは全員「ケン・ローチの映画に出てましたか?」ってくらいのリアルワーキングクラスで、元気が良かった頃の山谷や西成と同じ怖さがあり。
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ベティスは野沢尚さんのサッカー小説「龍時」の舞台にもなったチーム。若きホアキン・サンチェスが実名で登場した。
野沢さんが亡くなってしまったから未完で終わった作品。スピードスターのサイドアタッカーのホアキンは、主人公のライバルとして小説の中でもピッチを切り裂いていた。
40歳になったホアキン・サンチェス。今シーズンでの引退を表明して、それが惜しまれるような活躍を見せていた。スピードで切り裂くような場面はない。でもサイドでボールを持つと、年下の選手にレッスンを施すようなパス。
「ほら、こうすればチャンスが生まれるだろ」
かと思えば自らインサイドに切り込み、巧みにボールを運ぶ。
誰かが書いていたけれど「過去のレジェンドは現代サッカーでは通用しない」そんな言説を否定する証明のように「サッカーを知ってる」ことがどれほどのアドバンテージになるかをプレイで示していた。
WOWOWのドキュメンタリー「ノンフィクションW」でもベティスは取り上げられた。WOWOWがチャンネルを3つに増やし、素敵なドキュメンタリーを連発していた頃。ベティスとセビージャという、同じ街の宿命のライバルを描いた作品は、何度も見た。
タイトルは「緑の血を燃やせ ~情熱の街のフットボールクラブ~」
格上のセビージャに負けることが多かったベティス。相手のスタジアムへのサポーターの「緑の行進」。その時に叫ぶスローガンがあった。
「万歳ベティス!たとえ敗れようとも」
そんな事を言えるサポーターって何て素敵なんだろう。敗北、それはチームもそうだし彼らの人生だってきっとそう。でも、戦う姿勢は失わない。自分の腕の静脈を見せて「見ろ、俺の血は緑だろ」と言い張るおじさん。80代になってもスタジアムで応援するおばあちゃんもいた。
試合は進む。
今のベティスの中心選手はフランス代表のナビル・フェキル。アルジェリア系、ナジーム・ハメドのような不敵な佇まい。ディフェンダーに囲まれても滅多にボールを奪われない。
むしろ密集した中にあえて飛び込んで、強引に活路を見出していく。そして意表を突くノールックパス。チームメイトはその意図を汲んで攻撃が続いていく。
1−1となってから何度もチャンスを作りながら決勝点を取れない。それでも選手のプレイからは闘志と集中力が感じられる。
今年のセビージャ・ダービーでは満足のいく結果を出せなかったベティス。この一戦にかけている。ホアキンに最後の栄冠を与えたい。きっとそんな気持ちもあっただろう。
朝5時から始まった試合。90分が終わり、延長の30分が終わり、PK戦となった。バレンシアのGKも相当の集中力でベティスの攻めを跳ね返していた。攻勢のままあと1点を取れなかったベティスにとって、いい流れではないんじゃないかと心配した。
僕はいつものように、負けを準備していた。
85分から出場していたホアキンは2番目に蹴った。
落ち着いてゴールに流し込んだ。相手の4番目のキッカーを、39歳のブラボが止めた。最後はちょっと気の弱そうな顔のミランダがしっかりと決めて、ピッチに倒れ込んだ。
スタジアムのファンが泣いていた。何を言ってるのかは、わからない。でもはっきりとわかる。
「俺の人生に、こんないい日が来るなんて」
彼らはそう言っていた。僕もちょっとだけ泣いた。
僕の人生に、こんないい日が来るなんて。
国王杯を受け取ったのはホアキン。そしてピッチで待つ仲間たちの元へ。
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フェキル、カナーレス、フアンミ、ボルハ・イグレシアス、バルトラ、グアルダード・・。時に荒々しく相手を削る男たちは、本当にいい笑顔で笑っていた。勝利のために用意されたTシャツを着て。
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僕はdaznで歓喜のシーンを繰り返し再生する。これから何度も繰り返してみるだろう。
「万歳ベティス!たとえ敗れようとも」