#13 「君の声 僕の声」#アスリートは黙らない
誰かの声を借りて、自分の思いを伝える。
テレビディレクターの仕事は、どうしてもそんな仕事。リスクを背負って前に出る人の勇気を伝えながら、自分はそこまでのリスクを背負ってない。その後ろめたさは、いつでも付きまとう。
ブルーハーツの「青空」をカラオケで歌ってるような気分。
本当は自分の声で、自分の歌を歌いたい。でもそれを仕事にできるのは選ばれた人の役割。それならば僕らの役割は何だろう。
体罰の記憶に苦しんできた益子直美さんの声。
それでも、自らのトラウマと真正面から向き合う。
差別に苦しんできた鈴木武蔵の声。
優しさから心を閉ざし、それでもその優しさを保ちながら声をあげる。
無月経に苦しんだ新谷仁美の声。
それでもグラウンドに戻ってきた。仲間を得て、少しだけタフになって。
大きな苦しみを乗り越えた彼らは、それまでより大きな存在になっている。苦しみなんてないほうがいい。それはもちろんそう。でも普通だったら潰れてしまう逆境を乗り越えたとき、彼らは「その先の世界」を導く役割を担うためにある、特別な存在にも見える。
それなら、僕らの役割は?
4人のディレクターと作った今回の番組。制作者にはそれぞれにテーマソングがあり、その力も借りた。ネット上のグループでインスパイアされた音楽を共有し、イメージを重ねた。
例えばそれは、こんな曲。
「さよならCOLOR」「帰ろう」「Fight Song」「Where is the Love」「Strip Me」「Message in a bottle」「Everybody hurts」「Whatever」「Fix You」「Pyramid Song」
そしてきっと、もっと。
デザインチームやカメラマンや編集マンの力も借りた。傷を傷として描くだけでなく、もっと尊いものとして描きたかった。
そして、きゃりーぱみゅぱみゅの声も借りた。
彼女が読むべき言葉を考える過程が、番組制作後半のエンジンとなった
そして何よりもメーガン・ラピノ。2019年W杯の彼女の気高く痛快なメッセージは、僕らの出発点であり、最後まで背中を押し続けた。
なんて素敵なメッセージ。自分が自分以上になる瞬間、それも誰かの力を借りて。それをより多くの人が味わうことができたら、世界はもっと優しくなれる。
そう。僕らはひとりだから、誰かの力を借りないと。あるいは誰かの力を借りるとき、僕らはひとりじゃなくなる。まずは「私」を大事にして、そうしたら誰かの「私」も大事にできて、それがつながって、本当の「私たち」ができたら。それはきっと素敵で、きっとかっこいい。
そして思い出す、もうひとつの声。
5月は忌野清志郎の月。
かっこいい人を亡くなった後にほめるのは、ちょっとかっこ悪いこと。今。今の日本にこんなにかっこいい人がいると伝えたい。そんな思いも原動力となった。
そして、伝えたかった。
命がけの言葉、本当の言葉は、どんなに力強いか。
最後に伝えた声。
僕らはテレビマン。
素敵な声を、電波の力で遠くに届ける仕事。