【与太話⑥】魚になった男!タイ編
「あれ…なんか、体が…赤い…?」
目が覚めると、そこは自宅の布団の中…のはずなのに、何かが違う。体が重く、そして熱い。鏡を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「え…?俺、タイ…?」
そう、私はこれまで幾度となく魚に変身してきた男。鮭、鯖、鯵、カレイ、マグロ…そして今回は、なんとタイになってしまったのだ。それも、立派な真鯛。
「なんでまた魚に…しかもよりによってタイ…」
何度目かの変身とはいえ、さすがに落胆する。しかし、これまでの経験から、もうパニックになることはない。冷静に状況を把握し、この状況を乗り越えなければならない。
「とりあえず…ここから出ないと…」
タイになった私は、体をくねらせて部屋から脱出を試みた。しかし、ドアノブに手が届かない。いや、そもそも手がない。
「ああ…またか…」
途方に暮れていると、窓の外から一羽の鳥が私を覗き込んでいるのに気がついた。それは、近所の公園でよく見かけるハトだった。
「もしかして…!」
私は窓を開け、ハトに助けを求めた。すると、ハトは私の意図を理解したかのように、くちばしで私の体を掴み、窓の外へと連れ出してくれたのだ。
「ありがとう、ハトさん!」
私はハトに感謝し、彼と共に空へと飛び立った。空から見る景色は、今まで見たことのないほど美しく、雄大だった。
「すごい…!」
私はハトに導かれるまま、海へと向かった。そして、海に飛び込んだ瞬間、私はタイとしての本能が目覚めたのを感じた。
「おお…!」
私は海中を自由に泳ぎ回り、他の魚たちと戯れた。サンゴ礁の美しさ、海藻の揺らめき、そして海の広大さに、私は心を奪われた。
「これが…タイの見る世界…」
しかし、美しい海にも危険は潜んでいる。巨大なサメが私を狙い、鋭い歯をむき出しにして襲いかかってきた。
「うわあああ!」
私は必死に逃げ惑い、岩陰に隠れた。サメは諦めずに私を探し回っている。
「どうしよう…」
その時、一匹のウツボが岩陰から現れ、サメを追い払ってくれたのだ。
「ありがとう…!」
私はウツボに感謝し、彼と共に海中を冒険した。
しかし、楽しい時間は長くは続かなかった。私は漁師の仕掛けた網に捕まってしまったのだ。
「まずい…!」
網に絡め取られ、海面へと引き上げられる私。絶体絶命のピンチ!
その時、一艘の漁船が現れた。漁師の老人は、網にかかった私を見て、驚いた顔をした。
「なんだ、これは…?タイが…喋ってる…?」
私は老人に、自分が人間であることを説明した。老人は私の話を信じ、網から解放してくれた。
「わしは、今までこんな不思議なタイを見たことがない。お前はきっと、特別なタイじゃ。」
老人はそう言って、私を海へと帰してくれた。
「ありがとう…!」
私は老人に感謝し、大海原へと泳ぎ出した。そして、いつものように自宅の布団の中で目を覚ました。
「…また夢か…」
しかし、私の体には、まだ海の匂いが残っていた。そして、枕元には、あの老人がくれた小さな真珠が置かれていた。
「…いや、夢じゃない…」
私はタイになったことで、海の神秘、そして命の尊さを改めて知ることができたのだ。
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