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文化人類学の歴史: 人間と文化の多様性を探求する学問の歩み

世界の多様な文化を理解するための学問
文化人類学は世界各地の様々な社会や文化を、フィールドワーク(現地調査)を通じて研究する学問です。
人間とは何か、文化とは何か、社会とは何かといった根源的な問いに対して特定の価値観にとらわれず、多様な文化を比較・分析することで普遍的な理解を目指します。
文化人類学の歴史は異文化との出会いと、自己認識の深化の歴史でもあります。
今回は文化人類学の発展の過程と、その中で生まれた有名なエピソードを紹介します。

世界各地の文化を研究する文化人類学

文化人類学の誕生と発展

文化人類学は19世紀後半から20世紀初頭にかけて、西洋社会において成立した学問です。

植民地主義との関係
ヨーロッパ列強による植民地支配の拡大は西洋社会と非西洋社会との接触を増大させました。
植民地支配を円滑に進めるため、また、西洋文明の優位性を示すため非西洋社会の文化や社会を研究する必要性が生じました。
初期の文化人類学は植民地主義と密接な関係にあり、研究対象となる社会を「未開」「原始的」と見なす傾向がありました。

進化主義の影響
ダーウィンの進化論の影響を受け、人間の文化や社会も、単線的に進化するという考え方が支配的でした。
この考え方は文化進化主義と呼ばれ、ルイス・ヘンリー・モーガンやエドワード・バーネット・タイラーなどの人類学者によって提唱されました。

文化相対主義の登場
20世紀初頭、フランツ・ボアズは文化進化主義を批判し、それぞれの文化は独自の歴史と価値観を持つという文化相対主義を主張しました。
彼はフィールドワークに基づいた詳細な民族誌(エスノグラフィー)の重要性を強調しました。
文化相対主義は文化人類学の基本的な考え方となり、異文化理解の基礎を築きました。

文化人類学の巨人たち

文化人類学の発展には、多くの研究者たちが貢献してきました。

ルイス・ヘンリー・モーガン (1818年 - 1881年)アメリカの文化人類学者。
文化進化主義を代表する人物で親族組織の研究で知られています。
エドワード・バーネット・タイラー (1832年 - 1917年)
イギリスの文化人類学者。
「文化」の概念を定義しアニミズム(精霊信仰)の研究で知られています。

フランツ・ボアズ (1858年 - 1942年)
ドイツ出身のアメリカの文化人類学者。
文化相対主義を提唱しアメリカ人類学の父と呼ばれています。

文化相対主義を提唱したフランツ・ボアズ

ブロニスワフ・マリノフスキ (1884年 - 1942年)ポーランド出身のイギリスの文化人類学者。
参与観察と呼ばれるフィールドワーク手法を確立し機能主義を提唱しました。

ブロニスワフ・マリノフスキ

マリノフスキは第一次世界大戦中にトロブリアンド諸島(パプアニューギニア)で長期のフィールドワークを行い、『西太平洋の遠洋航海者』などの著作でクラと呼ばれる独特の交易システムを詳細に記述しました。

マーガレット・ミード (1901年 - 1978年)
アメリカの文化人類学者。
ボアズの弟子であり、サモアでのフィールドワークに基づいた『サモアの思春期』は、文化が人間のパーソナリティ形成に与える影響を論じ大きな反響を呼びました。
後に、ミードの研究手法や結論に対して批判もされましたが、彼女の著作は文化人類学を一般に広める上で大きな役割を果たしました。

ルース・ベネディクト (1887年 - 1948年)
アメリカの文化人類学者。
ボアズの弟子であり、文化とパーソナリティの研究で知られています。
日本文化を研究した『菊と刀』は戦後の日本理解に大きな影響を与えました。

ルース・ベネディクト ・racism(人種主義、人種差別主義)の語を一般に定着させた人物でもある。


クロード・レヴィ=ストロース (1908年 - 2009年)
フランスの文化人類学者。
構造主義を提唱し、親族構造、神話、思考様式などの分析を通じて人間の心の普遍的な構造を明らかにしようとしました。

文化人類学の研究テーマと手法の変遷

文化人類学の研究テーマや手法は時代とともに変化してきました。

初期 (19世紀後半~20世紀初頭)
文化進化主義が主流であり、親族組織、宗教、技術などの進化の過程を研究することが主なテーマでした。

文化相対主義の時代 (20世紀初頭~)
ボアズやマリノフスキらの影響で文化相対主義が主流となり、特定の文化を詳細に記述する民族誌的研究が重視されるようになりました。

機能主義、構造主義の登場 (20世紀中期)
マリノフスキの機能主義は社会の各要素が相互に関連し、全体として機能を果たすという考え方です。
レヴィ=ストロースの構造主義は文化の背後にある普遍的な構造を明らかにしようとする試みです。

解釈人類学、ポスト構造主義 (20世紀後半)
クリフォード・ギアツは文化を象徴の体系として捉え、その意味を解釈する解釈人類学を提唱しました。
また、ポスト構造主義は構造主義の普遍主義を批判し、権力や言説の影響を重視しました。

グローバル化と文化人類学 (21世紀)
グローバル化が進む現代において文化人類学は、民族紛争、移民問題、環境問題など、地球規模の課題に取り組んでいます。

異文化理解と自己認識の深化

文化人類学の魅力は異文化理解を通じて、私たち自身の文化や社会を相対化し、新たな視点から見つめ直すことができる点にあります。

多様性の認識
世界には様々な文化が存在し、それぞれが独自の価値観や世界観を持っていることを学ぶことができます。

異文化理解
異文化の論理や行動様式を理解することで、偏見や誤解を克服し、より広い視野を持つことができます。

自己認識の深化
異文化との比較を通じて私たち自身の文化や社会の特殊性や普遍性を認識することができます。

問題解決への貢献
文化人類学の知見は異文化間のコミュニケーション、紛争解決、開発援助など、様々な分野で応用されています。

多様性と共生

文化人類学はグローバル化が進む現代社会において、ますます重要な学問となっています。

多文化共生
多様な文化が共存する社会を築くためには異文化理解が不可欠です。

地球規模の課題
環境問題、貧困問題、民族紛争など、地球規模の課題を解決するためには文化人類学的な視点が重要です。

自己と他者の理解
文化人類学は私たち自身の文化や社会を相対化し他者との関係性を問い直すきっかけを与えてくれます。

参考文献

・自分のあたりまえを切り崩す文化人類学入門
   (大和書房)

・文化人類学の思考法(世界思想社)

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