【与太話③】魚になった男!鯵編
「…ん?なんだ、この生臭さは?」
目を覚ますと、鼻をつく強烈な潮の香りに包まれていた。あたりを見回すと、そこは自宅の寝室ではなく、見慣れない魚市場だった。
「どういうことだ…?なんで俺は…」
混乱しながらも、自分の体に目をやると、そこには銀色に輝く、細長い魚の姿が。
「まさか…また魚に…!?しかも、今回は…鯵…?」
そう、私は過去に二度、魚に変わった経験があった。一度目は鮭、二度目は鯖。そして今回は、なんと鯵になってしまったのだ。
「なんで俺ばかりこんな目に…」
嘆きながらも、過去の経験から冷静さを保つことができた。まずは落ち着いて状況を把握し、この状況から脱出する方法を見つけなければ。
「とりあえず、ここから逃げないと…」
私は市場の床をぴちぴちと跳ねながら、出口を目指した。しかし、そこは魚たちの敵だらけの世界。巨大なマグロに追いかけられ、鋭い爪を持つカニに挟まれそうになり、危うく包丁を持った魚屋に捕まりそうになる。
「ぎゃああああ!助けてくれー!」
市場の中を逃げ惑う私。そんな時、一匹の小さなイワシの群れが、私を助けてくれた。彼らは私を囲んで敵から守り、安全な場所へと導いてくれたのだ。
「ありがとう、イワシたち…」
私はイワシたちに感謝し、彼らと共に海へと逃げ出した。
海の中は、魚市場とは比べ物にならないほど広くて自由だった。美しいサンゴ礁や色とりどりの魚たちを見ながら、私は心から安堵した。
「ああ…やっぱり海はいいなぁ…」
しかし、安心したのも束の間、今度は巨大な網が私を襲った。
「うわあああ!また捕まる!」
網に絡め取られ、海面へと引き上げられる私。絶体絶命のピンチ!
その時、一艘の小さな漁船が現れた。漁師の少年は、網にかかった私を見て、驚いた顔をした。
「なんだ、これは…?鯵が…喋ってる…?」
私は少年に、自分が人間であることを説明した。少年は最初は信じられない様子だったが、私の必死の訴えに心を動かされ、網から解放してくれた。
「ありがとう…君のおかげで助かったよ…」
私は少年に感謝し、再び海へと戻っていった。
そして、いつものように自宅の寝室で目を覚ました。
「はぁ…また夢か…」
しかし、枕元には、あの時少年がくれた小さな貝殻が置かれていた。
「…やっぱり、夢じゃなかったんだ…」
私は貝殻を握りしめ、あの不思議な体験を噛みしめた。そして、鯵を見るたびに、あの時の恐怖と、少年の優しさを思い出すのだ。
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