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本当は恐ろしいAKB48の「RIVER」

今回は、私の青春時代を支えてくれた、AKB48と秋元康について。
中でも今回は、私が"AKBヲタ"になったきっかけの楽曲、RIVERについてです。
MVは以下から。

**

秋元康の"アナロジー力"**

私が"ヲタ活"をやめてから2年以上経ちます。
そんな今現在になって、ようやく秋元康の凄さに気づき始めたのです。

彼は、"アナロジー力(りょく)"に長けすぎている。

アナロジーとは、類推のこと。
類推とは、似ている点をもとに他の事象を推し量って行くこと。
例えば、「電流の流れを考えるときに、水の流れで考えると分かり易い」といったように、「流れる系」のカテゴリと抽象化して考えることです。
ま、簡単に言えば、「比喩」です。
評論家の濱野智史さんは、「AKB」と「宗教」をアナロジーしています(文1)。

秋元康はそのアナロジーがものすごく上手です。それは、歌詞にしても彼の放送作家としての思考にも現れています。

そのすごさを、かつてヲタであった私の視点からみなさんに伝えることで、
彼がただのおっさんではないことを知っていただきたいと考えています(かつては私もただのおっさんだと思ってました)。
ということで、「秋元康のアナロジー力」というシリーズで彼と48Gについて解説していきたいと思います。今回はその第一弾。

その上で、AKB48を改めて見直してみると、全く違った深い理解ができるかと思います。

アイドルの「固定概念」を破ったAKB48

で、今回は「RIVER」です。
たかみな(高橋みなみ)の「AKB〜!」から始まるあの名曲、みなさんもご存知ではないでしょうか。

2009年10月21日に発売され、AKB48を一躍有名にした曲です。(ちなみに10月21日は12期生の大島涼花の誕生日でもあります。)

2008年の大声ダイヤモンド、2009年の10年桜、涙サプライズ!、言い訳Maybeに続き、"神曲"の一つになるRIVERですが、
この曲で初めてオリコン週間チャート1位を獲得しています。

この曲をキッカケに、日本のAKBブームの初期微動が始まります(主要動はヘビロテ)。

当時中学1年生だった私は、この年SMAP×SMAPに出演した彼女たちを見て、画面の向こうで踊る大量のアイドルに釘付けになってしまいました。

いやー懐かしい。ここから私の青春が始まります。
この頃にAKBにハマった"ヲタ"たちのことを、「RIVER新規」と呼びます。
ヲタ活を始めた時期をシングル名でわかりやすく表現するものです。
「大声新規」「ヘビロテ新規」って人も多いです。

私の最初の推しメンはともちん(板野友美)でした。のちに「マジすか学園」という秋元康脚本のドラマで、きたりえ(北原里英)に"推し変"します。

▲RIVERのともちん。可愛すぎます。

MVでは、航空自衛隊の協力のもと撮影されており、大きく2つのロケーションに分かれています。
基地にて衣装を着て歌い、踊るロケーション
川や戦闘機で、自衛隊員服のような服を着て険しい表情をするロケーション
です。
振り付けもダンサブルで、髪型が崩れようと関係ない勢いです。

それまでのAKBは、学園・学生をテーマに、元気でカラフルなものばかりでした。で、この曲です。
何にせよ、キラキラフリフリの「アイドルはこうあるべき」という固定概念を一切に振り切った作品です。

川は、「人生における試練」

では、「アナロジー力」の話に参りましょう。
結論から申しますと、この曲は「人生の試練」と「川」を類推しています。

「なんや、それだけかよ」

と思うかもしれません。
しかし、秋元康はかつても「川」をモチーフにした名曲を生み出しています。

それが、美空ひばりの「川の流れのように」

この曲は川を「流れの方向」に見て「人生の流れ」を類推しています。

ああ 川の流れのように ゆるやかに いくつも 時代は過ぎて
ああ 川の流れのように とめどなく 空が黄昏に 染まるだけ

これに対し、RIVERは川を「流れと直交する方向」に見て、「人生における試練」を類推しています。

では、実際に歌詞を見ていきましょう。
最初のパーカッションのみの、ラップの部分から。

前へ進め!(Got it!) 立ち止まるな!(Got it!)
目指すは陽が昇る場所 希望の道を歩け!
行く手阻むRiver! River! River! 横たわるRiver!
運命のRiver! River! River! 試されるRiver!
迷いは捨てるんだ! 根性を見せろよ!
ためらうな! 今すぐ 一歩踏み出せよ! Believe yourself! 

「陽が昇る場所」に向かって前へ進め!と述べています。
しかし、その行く手を阻むのは「運命の川」です。
ためらわず進め!と誰かに言われています。

いつだって夢は 遠くに見える
届かないくらい距離感じる
足下の石を ひとつ拾って
がむしゃらになって 投げてみろ! 

この曲はAメロBメロの概念もなく、サビに行きます。
前のラップ的な部分がなければ、「すぐサビ行くやん!」ってなるかもしれません。
しかし、多くは語らなくてもここで伝えたいのは、「夢って遠くに感じるものだが…」です。これはサビ、そして2番に続きます。
ではサビです。

君の目の前に 川が流れる
広く大きな川だ
暗く深くても 流れ速くても
怯えなくていい 離れていても
そうだ 向こう岸はある
もっと 自分を信じろよ

「目の前の川はデカくて、深い。たとえ辺りが暗くても向こう岸はあるんだよ」
です。

まさにこんな感じ。では2番。

手伸ばせばそこに 未来はあるよ
届かないものとあきらめないで!
放り投げた石は 夢を叶えて 落ちる音なんか聞こえない 

「すぐサビ行くやん。」はいまでも思ってしまいます。
ここで1番の答えが出ます。「投げた石の落ちる音なんか聞こえない」。
つまり、それだけ川幅が広いということです。運命の川でけえ!!!です。

君の心にも 川が流れる
つらい試練の川だ
上手くいかなくても 時に溺れても
繰り返せばいい あきらめるなよ
そこに 岸はあるんだ
いつか 辿り着けるだろう 

ここで、新しい川の定義です。「川=つらい、試練の川」。
「川幅が広いため、渡るときにはうまく行かないことも溺れることもあるけど、
諦めず繰り返せば向こう岸に行けるんだよ」と教えてくれます。

そして、また変則的なパートです。

Get over it! River!
AH-AH-AH-AH- 自分に言い訳するんじゃねえ!
AH-AH-AH-AH- やってみなけりゃわかんねえ!
AH-AH-AH-AH- まっすぐ進むしかねえ!
ずっと ずっと ずっと
歩き続けろ 決めた道を! 

めちゃくちゃドヤされます。怒られます。頑張らされます。
これがメロディと相俟って、曲的には盛り上がってきます

からの、落ちサビ。1番と同じリリックですが、あっちゃん(前田敦子)とたかみなのソロが浸みます。

からの大サビです。

君の心にも 川が流れる
汗と涙の川だ!
失敗してしまっても 流されてしまっても
やり直せばいい 弱音吐くなよ
夢にしがみつくんだ
願い 叶う日が来るまで

川を渡れ! You can do it!

新たな定義「川=汗と涙の川」です。「どんだけ失敗してもやり直したらええやん。」と励ましてくれます。
曲の構成的には、この大サビが一番盛り上がります。「上げて、下げて、上げる」。典型的なJ-POPのパターンですが、その効果が最大限に現れる曲です。ヨシマサさん(作曲)流石。

これより、歌詞としては、

人生において、夢は遠いものであり、それまでには「試練の川」が流れている。深くて溺れたりするかもしれないが、「夢という向こう岸」にたどり着くためには、失敗を恐れず前に進むしかない。決めた道は歩き続けろ!

と解釈できるでしょう。

本当は恐ろしいRIVERのMV

MVにおいても最後には、川を渡りきった先の様子が映ります。

でもなぜ、この4人(前田、高橋、篠田、小嶋)なのか。
以下、私の推測です。
このMVは、歌詞と直接的な関係はなく、何かしらの戦争のようなものを描いていると考えられます。
この、「歌詞とMVが若干違う感じ」はAKBによくあります。
今回は「川を渡る」というキーワードが共通しているが、MVでは戦闘機に乗るメンバーもいれば、陸を土にまみれながら攻めるメンバーもいます。

そして、
・川渡る組(前田、高橋、篠田、小嶋)
・空軍(柏木、渡辺、河西、宮崎、北原)
・陸軍(大島、板野、小野、宮澤、峯岸、秋元、松井)
に分かれて、何かに突撃します。

▲川渡る組(左から高橋、前田、篠田、小嶋)

▲空軍(左から渡辺、河西、宮崎、北原、柏木)

▲陸軍(大島、板野、小野、宮澤、峯岸、秋元、松井)

で、最終的には空軍と陸軍の12名は戦死してしまったのでしょう。
その根拠として、
・花が16輪(=RIVERの選抜メンバーは16名)ある
・川を渡りきったはずなのに嬉しそうじゃない、どこか虚ろな表情
が挙げられます。

しかし、少し引っかかるところがあります。
この自衛隊員服のような服を着てボロボロになりながらのシーンに、

珠理奈が出てきません。

珠理奈以外のメンバーは全員、表情が判るような映し方をしていますが、珠理奈に関してはダンスシーンにしか出てきません。

推測ですが、
・珠理奈だけ特殊な死を遂げている
・RIVERの戦闘シーンの撮影に参加できなかった

私的には下の意見派なのですが、せっかくの選抜でこんなことがあっていいのか、とも思います。
何かストーリーが仕組まれていて欲しいとは思いますが、まだそこまで推理できていません。

「10年桜」や「ポニーテールとシュシュ」のMVにおける都市伝説は出回ってますが、てことはRIVERも何かあるんじゃないかと勝手に予想しております。

たかみなの「リーダー像」とあっちゃんの「エース像」

この曲は、あっちゃんとたかみなのダブルセンターです。
しかし、MVではあっちゃんの方がリップシーンが多く、最後の「You can do it!」のカットでも、あたかもあっちゃんがセンターのようなカットです。

ここは、たかみなとあっちゃんが並ぶフォーメーションになっています(以下画像参照)。

おそらく、これは意図的なカットなのでしょう。
あっちゃんはこれからのAKBを担う「絶対的なセンター」。
対してたかみなは、AKB自体を支える「リーダー」。
この印象を世間に伝えたかったんだと思います(こののちに、大島優子が総選挙1位となり、「前田センター」を覆します)。
その証拠に、冒頭の「AKB〜!」の部分だけ、たかみなが全体の中心にいるフォーメーションになっています。「48!」の後には、ダブルセンターの形をとっています。

▲上:「AKB〜」時 / 下:「48!」後

実は名曲づくしのカップリング曲

このRIVERのカップリングには、ライブでは大盛り上がりする、あきちゃ(高城亜樹)センターの「君のことが好きだから」と「ひこうき雲」が収録されています。
「君のことが好きだから」は、のちにHKT48が「君のことが好きやけん」で博多弁バージョンでカバーしています。
「ひこうき雲」は、AKBでは珍しい、曲中にタオルを回す曲です。
どちらも人気曲で、大切にされている曲です。

あきちゃは、この後選抜常連のメンバーになりますが、「アンダーガールズ(主に2曲目を歌うメンバーのこと)から選抜への成り上がり」はヲタにとってたまらないモチベーションです。これについての記事も書けそうなくらいです。

「懐古厨」の良さ

と、この辺にしておかないと一生書き続けてしまうので、強制的に終わらせます。
このように、48Gには様々な物語が同時多発的に起こります。
ヲタたちはそれを楽しみながら、メンバーを応援し、共に成長していくわけです。
秋元康(ヲタの間ではやすすと呼ばれています)は、その「成長物語」も大好きです。
あえて「選抜落ち」させるようなこともあります(生駒、高柳、あげるときりがない)。

「懐古厨」という用語がありますが、簡単にいえば「過去の思い出に浸ってしみじみする奴ら」のこと。私はその一人ですが、やっぱり懐古することはいいことですね。
「懐かしい」という感情を抱くのは日本人だけだと何処かで聞いたような。

それではこの辺で。
また次の記事でお会いしましょう。



【参考文献】
文1) 濱野智史:前田敦子はキリストを超えたー〈宗教〉としてのAKB48、筑摩書房、2012



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