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物語ごと飲み干しに行く

旅先では必ずコーヒー屋を訪れる。

そこでは店主と会話を交わし、彼らのコーヒーに対するこだわりや想いを尋ねるようにしている。
そうすると、目の前のコーヒーが単なる飲み物以上の特別な存在に変わるのだ。

僕は旅の途上で、旅の終わりを迎えたコーヒー豆と出会った


初めてその感覚を味わったのは、富山県の森の中にあるカフェだった。
看板を頼りにたどり着いたその店は、端正な顔立ちの焙煎士と、笑顔が素敵な女性が営む、静かで温かい場所。
メニューは多くなかったが、すべての豆についてまるで旧友を紹介するかのように、細かく丁寧に説明されていた。

それまでコーヒーをただの飲み物として捉えていた僕だが、そのお店の温かな雰囲気がそうさせたのか、こだわりを尋ねてみたくなった。
すると焙煎士は、まるで宝物を自慢するかのように、コーヒーへの情熱を次々と語り出した。
焙煎方法の細部、豆の選別、そして農園へのこだわり。
話を聞くうちに、注がれた一杯がただの飲み物ではなく、遠い国の農場から始まる壮大な旅路の最終地点だと気づいた。

豆が育つ農場の風景、土の香り、雨に打たれる様子。
そんな光景が目に浮かぶ。 その長い旅を経て、この一杯が目の前にあると感じた。



コーヒーを口に含むと言葉を失った。

ただ「美味しい」だけでは表現できない、口の中で広がる味わいは、豆が辿ってきた歴史そのものを語っているかのようだった。
そのコーヒーには、焙煎士の情熱、農場で働く人々の努力、そして輸送に携わったすべての人々の想いが詰まっていた。
それらが織りなす物語が胸に沁み渡り、僕の涙腺を揺さぶった。

こだわりのコーヒーを捜して

僕がコーヒーを求めて旅をするのは、単に美味しい一杯を求めているからではない。僕にとって「コーヒーを味わう」とは、その背後にある「物語」に触れること。
それを五感で感じ取り、心で味わうことだ。

これからも、コーヒを物語ごと飲み干すために、僕は旅を続けたい。

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