なぜオープンイノベーションなのか
オープンイノベーションの学術的な意義
スタートアップ育成5か年計画の中に示された「既存の大企業がオープンイノベーションを活用することで生き残りが可能になる」という考え方の1つの裏付けになるのが「企業年齢と成長」の関係です。多くの研究で、企業年齢と成長の関係が分析され、若い企業ほど成長する一方で、年齢を重ねるにつれて成長率が低下することが見いだされています(加藤雅俊著「スタートアップの経済学―新しい企業の誕生と成長プロセスを学ぶ」(2022年、有斐閣))。そして、この傾向は日本の企業でも同様に確認されています。
そこで、年齢を重ねた企業は、自社で新たなイノベーションを起こして企業として持続するか、それが難しければ、スタートアップ企業の持つ新技術に頼ることが1つの方法である、という考え方が出てきます。「新しい資本主義実現会議」の議論の中では、従来の破壊的イノベーションの議論では、旧来技術を用いてきた企業は新技術を用いて参入した企業に必然的に負けるとの議論がなされてきたが、旧来技術を用いてきた企業でも新技術と両方を用いた場合、持続的に存続可能であるという研究結果も示されていたようです。
スタートアップが大企業のリソースを活用する
一方、スタートアップが大企業とのオープンイノベーションを活用する場合、その狙いは「大企業のリソースを活用して自らの成長を果たす」ことにあります。代表的な例として、現在KDDI子会社で、IoT向け通信を手掛けるソラコムがあります。
2015年設立のソラコムは、2017年に買収額約200億円でKDDIの傘下に入りました。KDDIの販売網を使ってガスなどインフラ大手との大型契約が決まるなどして、2020年6月には現在のソラコムの契約回線数は買収前の8万回線から25倍の200万回線に達しました。また、省電力通信や次世代通信技術「5G」などの先端技術をいち早く活用することができています。
そして、2022年11月には、契約回線が500万回線を突破したことを発表し、その発表の直後、東京証券取引所へ株式上場申請を行いました。ソラコムは以前より、大企業であるKDDI傘下でIPO(スイングバイIPO)を狙っていることをかねてから公言していました。
2023年2月には、「株式市場の動向などを総合的に勘案し上場申請を取り下げる」と発表しましたが、事業展開がまだ出来ていない国は既に20か国を切っているといい、今後のグローバル市場での更なる成長に向けてIPOは不可避であることから、再開のタイミングがいつになるのか、注目されています。
オープンイノベーションの難しさ
事業会社(大企業)とスタートアップという組み合わせに限らず、異なる主体が協業・連携する場合には、組織文化(カルチャー)や価値観、ビジョンの相違などにより、容易にその取り組みに成功することは難しいといえます。ただ、大企業とスタートアップ企業の協業・オープンイノベーションについては、これまでも必要性が指摘され、多くの取り組みが行われており、その中で、多くの成功事例・失敗事例も生み出され、その知見が共有されつつあります。
経済産業省は、2017年に「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き 初版」を発表しました。さらに、2018年には事業会社側のベンチャー企業との連携事例に焦点をあてた第2版を、2019年には、連携を進める方法の一つとして注目が集まっているコーポレート・ベンチャーキャピタルに焦点をあて、コーポレート・ベンチャーキャピタル活動における課題の整理とその解決策について手引きとしての第3版を発行しています。(https://www.meti.go.jp/press/2019/04/20190422006/20190422006.html)
近年、大企業が主催し、スタートアップが大企業のリソースを活用するオープンイノベーションプログラムも多いですが、継続して開催されているものもあれば、1回限りで終わっていると思われるものも少なくないようです。
5か年計画でオープンイノベーションの推進が、引き続き先行事例の知見を集約して共有していくこと、オープンイノベーションの成果についても的確に計測して評価し、施策のブラッシュアップを図っていくことが求められるでしょう。
【参考記事URL】
・株式会社ソラコム ホームページ
https://soracom.com/ja-jp/
・日経産業新聞電子版2022年2月22日「ソラコム、IoT通信で世界狙う 提携や人材求め自立」