真夏の方程式
あれは今から10年前の話しだ。
一人暮らしをしていたぼくは、お盆の時期になると実家に帰っていた。
実家に帰っても、父と母と3人特に会話もせずに、テレビをじーっと眺めるだけだ。
仏壇の前には先祖供養のお供えものがあるので、夜9時を過ぎないと片付けができない。母は朝から、そうじをしたり、料理の準備やらで大忙しである。
「はぁ、疲れたー。あらやだ、もう9時過ぎてるじゃない。まだお風呂にも入ってないのに……」
母はそう言うと、そそくさと風呂場に直行した。
テレビの前に残ったのは、ぼくと父だけ。ここ最近ずっと会ってないせいか、会話も弾むわけもなく、ただただ相変わらず、じーっと2人ともテレビを見たままだ。
すると、突然
パンッ‼︎
と風呂場から大きな音がした。
父とぼくはお互いに目を合わせ、視線の先を風呂場へと向けた。
「なんだ!あの音は?あんな大きな音は風呂場から聞こえたためしがない。パンッ!って鳴ったけどスッポンの音じゃないか?」
「スッポンの音だったら、トイレから聞こえるはず。う〜ん、たしかに風呂場から聞こえたけど。いったい何の音だろう?」
30分後、風呂場から出てきた母に問いただしてみた。
「パンッて風呂場から大きな音が聞こえてきたけど、あれは何の音?」
「さあ?何の音かなぁ....ウフフ.....」
なんて、意味ありげな返答なんだ。気になるぞ。ますます、怪しい。
「ハハハ.....ハハ....」
父も薄ら笑いを浮かべている。
実におもしろい。物事には必ず理由がある。
タタタタタタタタタッ タタタタタタタタタッ タラララー タラララ〜 ♪
突然、ぼくの脳内に福山雅治の『ガリレオ』のテーマ曲が流れ出した!
風呂場から出た大きな音。答えが分かっていても教えてくれない。すなわち犯人からの挑戦状だ。
実におもしろい。
しかし、今さら言うまでもないが、答えは.....
屁だ。
まあ、いわゆるひとつの、オナラだ。
もう、見栄も恥じらいもない母は平気で屁をぶちかますことができるのだ!
①見栄も恥じらいもない
②風呂場だから音が響きやすい
③裸なので布を通さずに直接ケツから屁をこくことができる
以上3つの推理で出した答えは屁だ。
めでたし、めでたし。
その時、
母は意味深な笑みを浮かべた後に、大きくあくびをしながら、コップに入れた水を飲み干した。
‼︎‼︎
ムムム....しまった!推理はまだ終わってはいない。まだ仮説の段階だ。
世界びっくり人間でも、あそこまで大きな音を出す屁はありえない。前代未聞だ。
ありえない?ありえないなんてことはありえない
でも、母ならありえるかもしれない。なぜなら、ある記憶が蘇えってきたからである。
母は昔から大きく口を開ける人だった.....
ぼくが高校2年の頃だ。夏休みの野球部の練習を終えて帰宅すると、母は自分の部屋で口を大きく開けて爆睡をしていた。なぜか、噛みかけのガムが髪の毛にひっついていた。大きく口を開けすぎて、ガムが口の中から転げ落ちていたのだ!
なぜ、ガムを噛みながら寝れる?そう思ったのだが、疲れがピークに達していたのかもしれない。
いったん話しを戻そう。
風呂場で、大きくあくびをして、シャワーの水を口に当てながら屁をこいた。うん、この推理が正しいぞ。口から入った空気が、何の躊躇もなく体内の道を最短距離で通過し、そのまま光の速さで肛門へと達する。
実におもしろい。
この仮説で終了だ。母よ、ぼくに難題を与えてくれてありがとう。
しかし、母を見ると、大きくあくびをして水を飲み干した後に、
グエッ‼︎
とゲップをした。
ゲップ?ゲップは計算には入ってなかった。
全ての現象には必ず理由がある。
そして、
まだ仮説の段階だ。
ゲップは大きな音への引き金になっている。ぼくの直感だ!いや、直感を信じるな。もっとクレバーになれ。感情は理論的ではない。理論的でないものに、まともに取り合うのは時間の無駄だ。
たしか、牛のゲップは地球温暖化の原因の1つ温室効果ガスを発している。
ガス?
タタタタタタタタタッ タタタタタタタタタッ タラララー タラララ〜 ♪
(『ガリレオ』のテーマ曲)
そうか!風呂場で大きくあくびをしながら、シャワーの水を口に入れる。その直後にゲップをかまし、勢い余って屁をこいた。奇跡的にゲップのガスが体内に残って真空状態となり、圧がかかったガスがオナラのガスと融合し、肛門から出ると破裂音と化した。
これだ!この推理が正しいぞ!
母は
優しい目でぼくを見ると、小さくうなずいた。
その表情は晴れやかな、どこか清々しささえ感じられた。
〈終わり〉
(1991文字)
はじめまして、ミズグチスイデン クレ村長と申します。
夏木さんの記事を読んで、今日は、どんなエロ笑話しているのか?はたまた、急に真面目な話しもするので楽しみにしていましたが、何やらイベント的なことに参加しているのではありませんか!
やってみようかな?えーい!やってみる。
というわけで私も参加させていただきました🙇♂️
主催者の、渡邊惺仁さん。◯◯について思うことさん、ありがとうございました(^^)